第二十一話 ミスリルゲット!!

 来た道を戻り、再びバッハシュタインの町へ入ろうとすると検問所で止められてしまった。

「止まれ!!う、後ろのそれはなんだ!?」

町を出るときには何も言われないのに入る時はやっぱり止められるんだね。それだと逃亡犯とかも簡単に町を出られちゃいそうだ。

「何って、ケルベロスの生首だけど。冒険者ギルドの依頼で狩ってきたのよ。」

「お前たちが狩ったのか!?それにまだ生きているようだが…」

「だから魔法で閉じ込めてるんじゃない。はいこれ、身分証。もう入ってもいいかしら。」

そういうアルトにつられて私とアニも身分証を見せる。

「Aランクが二人。そうかお前たちが例の……。把握した。通っていいぞ。だが町の中でそいつを開放するのはやめてくれよ。危険だからな。」

この守衛も私たちの事を知っているみたいだ。宣言通り、ちゃんと知らせが出たみたいだね。

「そんなことわかってるわよ。じゃあ通らせてもらうわね。」

そう言って私たちは検問所を抜けた。しかし、こういう時アルトは頼りになるね。私だったら変に委縮しちゃって時間がかかりそうだ。

 そのまま私たちは一直線に冒険者ギルドへ。道中はケルベロスの生首のせいで随分と目立っちゃったけど。

「では、報告に行きましょう。」

そう言って今度はアニを先頭に進む。ギルドの中でも目立つのは変わらない。

「まさか、あいつらがケルベロスを倒したのか?」

「例の最年少でAランクになったっていうスーパールーキーだろ?」

「Aランクなんて初めて見たぜ。俺もいつか…」

「お前には一生かかっても無理だな。」

口々に言う周りの冒険者たち。女性冒険者は見当たらないね。目立つのも仕方ないかも。

「ケルベロス。狩ってきたよ。」

さっきと同じ受付のお姉さんに声をかける。

「もうですか!?さすがですね。」

「これ、証拠の生首。まだ元気に生きてるみたいだから魔法で閉じ込めてるんだけど、どうしたらいいかな?」

私がこれを手放してしまうと水魔法が解除されて暴れまわってしまう。

「では檻を用意いたしますので、そこに入れていただけますか?」

「了解。」

そう返事すると話を聞いていたらしい別の男性職員がいそいそと檻を持ってきた。人、一人なら余裕で入れるぐらいの大きさだね。すごく重そうだけど、よくこんなの一人で運べるなあ。檻の扉が開かれると、拘束したままの生首を放り込む。しっかりと鍵がかけられたのを確認してから水魔法を解除した。水の中にいたからか、さっきよりは少し弱ってるみたいだけど、まだ十分元気が有り余ってるみたい。というか獣臭さも大分マシになったね。まあ水浴びしたようなもんだし当然かな。

「では、これにて依頼完了となります。報酬の金貨800枚から紹介手数料として一割を引いた720枚のお支払いとなります。」

ギルドはこの手数料で儲けてるわけだね。思ってたより低いマージンで安心したよ。

「続いて、先ほどお預かりした飛竜の素材の買取金額ですが、状態がものすごくよかったので金貨50枚となりますがいかがでしょう?」

高く売れたのか安いのかよくわからない。こういう時のアルトさんだ。

(これ安いの?高いの?)

テレパシーで聞いてみる。

(こんなもんってところね。売っちゃっていいと思うわよ。)

(アルトが狩ったんだし、アルトがいいならいっか。)

「それで大丈夫。」

「では、合わせて金貨770枚のお支払いとなります。またよろしくお願いします。」

「ありがとう。ところで少し聞きたいんだけど、近くでミスリルを売ってる場所って知ってる?」

ついでに聞いてみることにした。

「そうですねぇ…この町だと鍛冶屋くらいでしょうか。それでもあまり量はないと思います。ここは王都へ向かう人々のための町ですから。ミスリルなどの素材の需要はあまりないので。それこそ王都や産業が盛んな街へ行けばたくさん手に入ると思いますよ。」

それはそうか。食料とかの必需品の方が売れるだろうしね。

「ありがとう。行ってみるよ。」

それだけ言って私たちはギルドを出ることにした。



「お嬢様たちと一緒に生活をしていると金銭感覚が狂いそうですね。」

ギルドをでて、鍛冶屋に行ってみようという道すがら、アニがそんなことを言い出した。

そういえば金貨が数枚あれば平民なら何年か暮らしていけるって言ったっけ。もともとこの世界の貨幣価値がよくわかってない私は金銭感覚も何もないけどね。お金は盗まれる心配がないからと私が保管することになってるけど、一応、私が浄化で稼いだお金以外は三人の共有財産ってことになっている。浄化のお金は私が好きに使っていいってさ。特に欲しい物もないからしばらくは箪笥の肥やしになりそうだ。

「狂っても問題ないんじゃない?この水準の収入を維持できればいいってだけだし。」

お金に関してちょっと小うるさいアルトがそんなことを言うなんて…。まあ私たちなら簡単だと思うけど。

「いえ、私はまだ何もできていませんから…。」

「そんなことないでしょ。朝は起こしてくれるし、身支度の手伝いもしてくれる。宿の手続きだってやってくれてるじゃない。私、アニがいなかったらもう生きていけないよ。」

そう考えると随分と依存しちゃっている。前世ならまあまあのダメ人間だ。

「そう言って頂けるとありがたいです。」

「アニはもう少し自信を持った方がいいね。」

 そのまま歩いていると少し暗い雰囲気の路地へと入る。この路地を抜ければ鍛冶屋があるって聞いたけど。こんなところはさっさと抜けてしまうに限ると三人して少し速足で歩いていると案の定、ガラの悪い男たちに周りを囲まれてしまった。

「お前ら、さっきの報酬全部おいてきな。そうすれば命だけは勘弁してやる。」

そんなことを言うリーダーらしき男。どうやらギルドから後をつけられてたみたいだ。というか普通ならAランク冒険者を襲ったりする?頭が残念なのか、相当腕に自信があるのか。そうは見えないけど。魔力もないし。

「こいつらバカなのかしら。」

アルトまでそんなことを言っている。

「うるせえ!さっさと出しやがれ!!おいガキ、お前が持ってんのはわかってんだよ!!」

そう言ってこっちに掴みかかろうとしてくる男。反射的に手首から下を切り落としてしまった。

「へ?」

間抜けな声を上げる男の腕から鮮血が飛び散る。

「う、腕がああああああ!!!」

こういう輩は容赦をするとつけあがるものだし、放っておいたらどんどん被害が増える。だから容赦はしない。

「クッソ。」

今度はさっきと違う男がナイフを取り出して襲い掛かってくる。水の壁を作れば一安心。ナイフがこっちに届くことはない。

「な、なんだ水が…」

そのまま、さっきのケルベロスの要領で水の中に全員閉じ込めてやった。

「さすがです。お嬢様。」

褒められた。ちょっと照れるね。

「あなた、前から思ってたけど自分に敵対する相手に容赦にわね。」

「何で容赦なんてしないといけないのさ。そんなことしてこっちが死んだらどうするの?」

「それはそうなんだけど。それでこいつらどうするの?」

「このままでいいでしょ。また襲ってこられても困るし。」

「ですがお嬢様。このままにしておいては溺死しますよ。この魔法を使えるのはお嬢様とアルト様だと冒険者ギルドが知っているわけですから、お尋ね者になるかもしれません。」

正当防衛でお尋ね者なんてたまったもんじゃない。

「中に空間を作っておこう。」

これで死ぬこともないはずだ。水で作った瓶ってとこだね。

「これでよしっと。」

なんでこんな奴らのために私が配慮しなければいけないのか。生きてることを喜ぶ人よりも死んだことを喜ぶ人の方が多いだろうに。

「じゃあ、行きましょうか。」

アルトの呼び声で再び鍛冶屋へと向かう。目的地はすぐそこだ。





路地を抜けてすぐの場所に鍛冶屋はあった。中に入るとそこはいかにも町工場といった感じで、火を焚いているせいなのか熱気がすごい。

「ごめんくださーい。」

そう声をかけるとすぐに人が出てくる。いかにも親方って感じのマッチョだ。ねじり鉢巻きまで巻いている。

「いらっしゃい。何をお探しで?」

「ミスリルが欲しいんだけど置いてる?」

子供の身体は敬語を使わなくても怒られないのがいいよね。

「ミスリルか。少しならあるぞ。今売れるのは2キロってとこだな。」

この世界の重さもキロ換算なんだ。もしかして意外と前世の世界と交流があるのかも。

「見せてもらえる?」

「おうよ。ちょいとまってな。」

そう言って、裏へ引っ込んでいった。

「2キロじゃあ馬車は作れないわよね…」

「そうだけど、加工の実験に使ってみようと思って。ほんとに作れるか試してみたいし。それでうまくいったら実際に作ればいいんだよ。」

原寸大は無理でもミニチュアならできる。魔力炉がないから実際に動きはしないけど。

「「なるほど」」

二人してそんな声を上げるもんだからちょっと笑ってしまった。息ぴったりだ。

「待たせたな。これがうちで扱ってるミスリルだ。」

そこに置かれたのは鏡のように光を反射する、銀の延べ棒。アルトのいった通りちゃんと魔力も含んでいるみたいだ。でもさすがにこのままで作ったら成金感がすごいことになるから、カラーリングはまた考えないといけないかも。

「ミスリル…初めて見ました。」

アニはなんだか目を輝かせている。宝石とかこういうのが好きなのかな。

「これでいくら?」

「今のレートだと、金貨40枚ってところか。」

「なら買わせてもらうよ。」

金貨を使って銀を買うなんてなんだか不思議な気分。一キロ金貨20枚ってとこだね。サクッと収納魔法から金貨の袋を取り出し支払いを済ませる。

「まいど。それにしてもお嬢ちゃんえらく気前がいいな。どこかのお嬢様かい?」

「元お嬢様だね。」

貴族の私はもう死んだ。今は旅人、ハイデマリーだよ。

「元ね…。まあいいや。また頼むよ。」

もうすぐ町を出るかもしれないし、もう来ることはないかもしれないけどこういうのは社交辞令が大切だ。

「機会があればね。どうもありがとう。」

こうして私は車を作る最初の一歩を踏み出した。

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