第二十話 依頼を受けてみよう
翌朝。というかもうすぐ昼。いつもよりゆっくり起きた私は、遅めの朝食を食べ始めていた。
「あれ。アニは?」
「あの子はとっくに食べ終わって、また魔法の練習してるわよ。」
「起こしてくれればよかったのに。」
いつもはちゃんと起こしてくれるのにどうしてだろう。
「あなた随分と気持ちよさそうに寝てたみたいよ。疲れてるだろうから寝かせといてあげましょうって。」
自分ではそんなに疲れてる感じはしなかったけど、子供の身体だから体力がないのかも。
そこから話は今日の予定へとシフトしていった。
「せっかく冒険者になったわけだし、今後の金策も兼ねて、なにか依頼を受けてみない?」
「私はダンジョンに行きたいけど…」
「魔力炉だけあってもあなたの言う馬のいらない馬車は作れないんじゃないの?」
「それはそうだけど。」
ボディの部分は、魔法で作ろうと思ってたけどそれだと実体は魔力になっちゃうからね。なんかの拍子に消えたりしたら困るから魔法で作るのはやめた。金属か何かで作ることになるかな。加工自体は魔法を使えばいいしね。
「素材になるものを買うのにもお金はかかるわけだから、ここらで稼ぐのも悪くないと思うわよ。」
「そうだね。なら今日は何か依頼を受けてみようか。ところでアルト。なんか頑丈な金属って知ってる?いいのがあればその素材にしようかなって思ってるんだけど。」
「頑丈な金属と言えばオリハルコンだけど、手に入れるのは無理ね。」
「どうして?」
「オリハルコンは魔道具や魔力炉とは比べ物にならないくらい貴重なのよ。現存するのは勇者に与えたれる剣に使われている分だけね。馬車を作るなんてとても無理よ。」
使えないものを提案しないでほしい。
「ほかには?」
「となるとミスリルね。量を手に入れることはできるわよ。ものすごい金額がかかると思うけど。ミスリルは魔力が溶け込んでいる銀だからオリハルコンを除けば頑丈さはトップクラスだと思うわ。」
「ミスリルかあ。実際に見てみないことにはわからないけど、とりあえず第一候補にしておくよ。」
「ならやっぱりお金がいるわよ。今ある分じゃ全然足りないわね。」
普通の銀でも高いわけだからそれはしょうがない。
「じゃあ、しばらくは依頼を受けてお金を稼ぐことになりそうだね。あ、そういえば昨日狩った飛竜も売ってお金に変えようか。」
「そうね。なら冒険者ギルドに行きましょうか。」
思い立ったが即行動ということで、さっさと朝食を平らげるとアニに一声かける。昨日の夜は、私が寝た後も練習を続けてたみたいで、すでに魔力は全身に行き渡っているみたいだ。魔法の習得も近いかもね。
「まだ魔法に関しては分からないけど、魔力の操作に関しては天才的ね。たった一日でここまで上達するなんて…」
アルトがそんなことを呟いていた。
そこから冒険者ギルドへ繰り出した私たちはとりあえず、飛竜の素材を売ることにした。特に使い道もないしね。
「どこに持っていったらいいんだろう。」
「受付で聞いてみましょうか。」
まあそうするしかない。
「すみません。素材の買取はどこに持っていったらいいでしょうか。」
アニがそう聞くとすぐに答えが返ってきた。よく見ると受付は昨日のお姉さんじゃないね。
「こちらで大丈夫ですよ。どちらをお売りいただけますか?」
「これだよ。」
そういいながら受付台の上に飛竜の素材をドンと取り出した。結構多いけどなんとか乗せることができた。
「これは…飛竜ですか。随分と多いですね。」
「何か問題?」
「いえ、この量を持ち込まれる方は滅多にいないので少し驚きました。ではギルドカードを拝見します。」
私はギルドカードを取り出してそのまま渡した。手渡しした時にちゃんと光ってたから本人確認もばっちりだ。
「あなたが噂の…いえ、失礼しました。ではこれから査定に移らせていただきます。この量ですので、少々時間がかかってしまうと思いますが大丈夫ですか?」
「ならその間、何か依頼を受けるからまた後で来るよ。」
「了解いたしました。一時間ほどで終わると思いますので後ほどまたお越しください。」
「どうもありがとう。」
ちゃんと売れそうでよかった。少し離れてところでなにやら真剣な顔をしているアルトのところに戻る。
「ちゃんと売れた?」
「今から査定だってさ。その間に依頼を受けちゃおうと思って。」
「依頼というのはどのようなものがあるんでしょうか。」
「ここに出ているわよ。結構たくさんあるのね。」
どうやら真剣な顔をしていたのは掲示板に貼られた依頼を吟味していたかららしい。
「採集系から魔物の討伐までいろんなのがあるみたいです。あ、おつかいなんかもありますよ。」
「なるべく報酬がいいのがいいけど…」
「一応、依頼もランク分けされてるみたいよ。Aランクの依頼は随分報酬がいいわね。」
そう言われ見てみると金貨500枚とかの依頼がざらにある。きっと高難易度で誰も受けてくれなかったんだね。
「Aランクの依頼を出してるのはほとんど一人の貴族ですね。きっと領主でしょう。領地の重大な問題を解決したいのだと思いますよ。」
貴族ならその報酬も納得だ。自分の領地を守るためにお金を惜しむわけにはいかないだろうしね。
「じゃあAランクの中から何か選ぼうか。あんまり時間がかからなそうなのがいいけど。」
討伐系が楽でいいかもね。
「これなんかどう?ケルベロス討伐。街道のすぐ近くに住み着いてしまっているみたい。報酬は金貨800枚。」
ケルベロスかあ。音楽聞かせたら眠ってくれたりしないかな。
「ケルベロス…私、付いていっても大丈夫なのでしょうか…」
「大丈夫だよ。即死さえ避ければどんな怪我でも治せるから。」
「なんだかあんまり安心できませんね…」
まあケガしても治るだけで痛いことには変わりないから心配なのも仕方ないかも。
「とりあえず受けてみようか。もし、心配ならアニは留守番でもいいけど…」
さすがに無理に連れていくわけにはいかない。
「いえ、お二人の魔法を近くで体感したいので私も行きます。」
「決まりね。なら受けることを伝えてきちゃいましょう。」
そういうと掲示板に貼ってあった依頼書を剥がしてそのまま受付へと持って行ってしまった。
「ちゃんと三人で受けるって伝えておいたわよ。森に入って街道沿いをしばらく歩いたところに住処があるみたいね。」
そんな場所にケルベロスがいたんじゃ交通の妨げになるのは一目瞭然だ。そりゃあ高い報酬を出すわけだよ。
「じゃあ行こうか!!」
そんな私の声を合図に私たちは歩き出した。
王都まで続いているらしい街道を辿って森に入ることしばらく。辺りになんだか嫌な臭いが漂い始めた。
「なんだか獣臭いわね…たぶんこの辺にいるわよ。」
そういわれて周りを見渡すと少し離れたところで眠りこけている三つの頭を持った巨大な犬が見えた。音楽を聞かせるまでもなかったね。
「あそこで寝てるよ。」
指をさしながら一応報告する。
「ラッキーね。今のうちに片づけちゃいましょう。」
そういってアルトはそのまま水の刃で首チョンパしてしまった。これで金貨800枚もらえるんだから儲け物である。
「じゃあ回収して戻ろっか。」
そう言ってケルベロス近づいて収納魔法に入れようとしたけど、なぜか入らない。
「あれ、なんでだろう。」
何度かジェスチャーを繰り返すけどやっぱりだめだ。
「危ない!!」
アニが叫んだ。驚いて振り返ると胴体から離れたケルベロスの頭が私に向かって飛びかかってきた。咄嗟に発動した水魔法でなんとかケルベロスの生首を閉じ込めることに成功したけど危なかった。やっぱりジェスチャーがいらない水魔法は咄嗟の時に使いやすくていいね。
「なるほど。まだ生きてたから収納魔法に入らなかったのか。アニ助かったよ。」
アニが叫ばなかったら、大けがしてたところだ。
「ご無事で何よりです。」
安心したように言うアニ。
「それにしてもすごい生命力ね。まだ生きてるわよ。」
「体の方は動きませんね。」
「頭だけで生きてるってこと?」
「多分、頭と体を近づけたら結合するわよ。ケルベロスは生命維持に必要なもののほとんどが頭にあるってこと忘れてたわ。」
「そのせいで大けがするところだったんだけど…」
「無事だったんだからいいじゃない。それよりこいつ収納魔法に入らないならどうやって持って帰ろうかしら。」
露骨に話を逸らされたけどまあそれも問題だ。
「しばらく水の中に入れといたら死なないかな?」
「全然弱る気配無いじゃない。いつまでかかるのよ。」
「いっそのこと首だけこのまま持っていったらどうですか?依頼はケルベロスの討伐でしたけど、目的は街道の開放ですよね。だったら問題ないと思いますよ。先ほどの話を聞きますと体だけでは再生することもないようですし。」
「それしかないわね。じゃあ戻りましょうか。」
いまだに暴れているケルベロスの首を水ごと動かして運ぶことにする。たぶん体もギルドに言えば回収してくれるだろうしそんなに問題にはならないだろう。
「金貨800枚でどれくらいミスリル手に入るかな?」
「どうでしょうね。金属は時期によって値段が変化しますから…」
「全部ミスリルに使う気?少しは今後の資金にとっておいた方がいいと思うわよ。」
「こんなに簡単にお金稼げるんだから、あんまり気にしなくてもいいんじゃない?」
死ぬほど働いても給料は雀の涙だった前世と比べれば最高だよ。
「ケルベロスを倒すことを簡単なんて言い放ってしまえるのもお二人だけですよ。」
いつものようにアニはちょっと引いていた。
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