第十九話 冒険者デビュー
「まさかAランクからスタートする冒険者がいるとは…」
行けるとこまで行ってやろうって思ったら本当に行けるとこまで行っちゃったね。
「これで終わりならもう戻って平気?」
「ああ…後のことはこちらで報告しておく。戻って受付に声をかけてくれ。」
なら戻ろうかなと部屋を出たところアルトが立っていた。どうやら待っててくれたみたい。
「どうだった?」
「Aランクだってさ。アルトもでしょ?」
「もちろんよ。」
そりゃそうだ。
「アルトも魔物を倒す感じだった?」
ロビーに上がる階段まで続く長い廊下を進みながら聞いてみる。
「ええ。途中、水が効かないスライムが出てきてちょっとだけ焦ったけど、カチンコチンに凍らせてやったわ。」
「私も爆撃効かないやつとか出てきたよ。でもやっぱり印象深いのは最後のデーモンだね。」
「デーモン!?そんなの滅多にお目にかかれないわよ。私の方はトロールだったけど…」
「アグニっていうデーモンだったんだけど、なんか気に入られたみたいで私が呼んだら力を貸してくれるって。」
「デーモンも上位存在だから結構すごいことなんだけどなんか軽いわね…」
「上位存在が身近にいるからじゃないかなあ。」
そんなことを言っているうちに階段の前まで来てしまった。アニはまだ試験中かな。
「ちょっと覗いてみたら?」
まあ、先に戻るのもあれだしね。すぐ横の扉をちょっとだけ開いて中をのぞいてみるとやっぱりまだ試験中みたいだ。こっちに背中を向けて立つアニが見える。
「やっぱりまだやってるみたいだよ。魔物と戦っているわけじゃないみたいだけど。」
「そりゃあ、魔法使いと同じ試験内容じゃないでしょ。きっと魔力探知を使って何かしてるのよ。」
「じゃあちょっとここで待ってようか。」
「そうね。」
試験のことやダンジョンのことなんかを話しながらしばらく待っていると、アニが部屋から出てきた。
「すみません。待っててくださったのですね。お待たせいたしました。」
「別に気にしなくていいよ。勝手に待ってただけだしね。」
そんなことを言いながら歩きだす。
「試験はどうだった?」
「Dランク試験までは合格できたのですが、そこからは少し難しくて…」
「魔力を感じるようになったのも今日が初めてなんだから、そこまで行けたら上出来なんじゃないかしら。というかどんな試験だったの?」
「壁の向こうにある魔力の反応を探るというものだったのですが。数が多くなると正確に把握するのが難しくてですね…」
「やっぱり私たちとは全然違うね。こっちはゴリゴリの戦闘だったわけだし。」
「お怪我がないようで何よりです。」
「余裕だったよ。」
アニにも心配性の気があるのかな。別にけがしても自分で治せるんだけど。
「お二人はどこまで行けたのですか?」
「Aランクまで行けたよ。」
「さすがですね。」
なぜか誇らしげな顔をしているアニだった。
薄暗い地下を抜けて急に明るくなった景色に目を細めていると、さっきの受付のお姉さんが出迎えてくれた。
「この度はおめでとうございます。ハイデマリーさんに関しましては、最年少でのAランク到達、誠にお見事でした。ではこれから諸事項のご説明を致しますのでこちらへどうぞ。」
言われるがままついていくと、なんだか豪華な部屋へと通された。おかれている家具は高級感あふれる黒い革張りのソファーにガラステーブル。壁には大きな風景画が飾られている。この部屋に通されたのもAランクになったからかもね。
「お掛けになって少々お待ちください。支部長が直接説明に来るとのことなので。」
ソファーに座ると随分フカフカでびっくりだ。馬車の座面もこのくらいフカフカだったらなあ。そこから一分もしないうちに、三十代くらいの女の人が入室してきた。この人が支部長なのかな。てっきり男だと思ってたけど。
「お待たせしました。冒険者ギルド、バッハシュタイン支部、支部長のジェイミー・ランぺルツです。この度は合格おめでとうございます。では早速ですがご説明させていただきます。」
やっぱり支部長だった。その支部長が差し出したのはクレジットカードみたいな大きさのカード。
「まず、こちらはギルドカードになります。ギルドで依頼を受ける場合や、報酬の受け取り、アイテムをお売りいただく際に使用するものです。こちらは身分証としても使用しますので大切に保管してください。紫色のものがAランクのアルトさん、ハイデマリーさんのもので、青色のものがDランクのアニさんのものとなります。」
そういわれてカードをよく見てみるとハイデマリーと刻印されている。こっちが私のだと手に取ってみるとカードがほのかに光を帯びている。
「なんか光ってるわね。」
アニが口に出していた。
「身分証には他人の悪用を防ぐため、本人が触れると光るようになっています。」
なるほど。それで本人確認ができるのか。別にガバガバなわけじゃなかったね。ちょっと安心した。
「説明を続けます。冒険者になった方にはまず、冒険者学校へ入学し、冒険者のイロハを学ぶこととなりますが、Cランク以上で合格した方は免除となります。アニさんはDランクのため、本来なら入学しなければならないのですが、アルトさんと師弟関係であることを考慮し、今回は免除といたします。」
なんでそれを知っているかは知らないけど、まあ学校に行かなくていいならラッキーと思うことにする。試験頑張って良かったよ。アルトの顔も随分うれしそうに見える。そこまで行きたくなかったんだ…
「ここまでで何か聞いておきたいことはありますか?」
三人して顔を合わせる。二人とも特にないみたいだ。
「特に大丈夫。」
そんな風に答えておく。物分かりのいい八歳児だなあ。みたいなことを思われていそうだ。
「では、ここからはAランクのお二人に関してとなります。現在、数年前にSランク冒険者が一斉に引退したため、最高位ランクがAランクとなっています。ちなみにSランク冒険者が引退した理由ですが、高齢のためですね。全員同じ事件を解決したことを認められSランクになったのですが、同世代だったため引退の時期まで重なってしまいまして…話を戻します。そのため現在、最高位冒険者であるAランク冒険者に高難易度の依頼をおまかせしている状況です。それでもAランク冒険者自体の数が少ないのでどうにも手が回らない状況でして、殺到している依頼を少しでも分散させるために、新しくAランク冒険者が誕生したことを大々的に発表させていただきます。」
発表すること自体は私は構わないけど…
「その依頼っていうのはもしかして強制的に受けさせられるのかしら。」
アルトがそう聞いた。確かにあの言い方だと十分あり得る。
いえ、依頼自体に強制力はありません。基本的には、受けるか受けないかは冒険者自身が選択できます。しかし王家からの直接の依頼などは断ることが難しいかもしれません。ギルド側からすればどんな依頼も受けていただいた方がありがたいですが…」
どうやら強制力はないみたい。よくよく考えると、強制的に受けさせてその結果死なれでもしたらどう責任取るんだって話になりそうだしね。王家からの依頼も私たちに関しては問題ないし。
「そう。ならいいわ。」
「では最後に、先ほどお話しした発表の件に関してですが、明日の朝、各町の掲示板で発表とさせていただきます。」
「そんな早くで、ほかの町へ連絡が間に合うの?」
この世界には車も、インターネットも無いのに。
「各冒険者ギルドには、特定の場所へ文を送ることができる魔道具が設置されています。そちらを使えば十分間に合いますよ。とても高価なものですが、この魔道具で各冒険者ギルドを繋いでいます。」
なるほど。ネットはなくてもFAXはあるんだね。
「ほかに聞きたいことがなければ、ここまでとなりますが。」
「アニは大丈夫?」
一応、黙り込んでいたアニにも聞いておく。
「いえ、私は特に…」
「では、ここまでとさせていただきます。また何かありましたらお気軽に職員にお尋ねください。今後のご活躍を心より願っております。」
その言葉を聞いた私たちはそのままギルドを後にした。
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