第十八話 冒険者試験

 「ていうことがあってね。冒険者にならないといけなくなっちゃったよ。」

「いいんじゃないですか?冒険者も旅人も似たようなものですよ。」

似てるのかな?まあ言われてみれば旅は冒険みたいなものなのかも。

「アニとアルトも登録する?」

二人は十二歳超えてるし問題ないね。アルトの実年齢は知らないけど。

「そうですね。私も登録だけはしておきます。身分証ももらえますし。」

この世界に身分証なんてあったんだ。

「身分証?」

アルトが頭にはてなを浮かべている。珍しいこともあるもんだ。

「身分証を持っていれば町に入るときスムーズに入れますよ。面倒な手荷物検査や調査を受けなくていいんです。支給しているギルドが身分を証明することになるので。私は一応メイドギルドのものを持っていますが、今後は使わない方がいいと思いますし。」

「どうして?」

今度は私が聞いてみる。

「普通、メイドが町から町へ頻繁に移動することはないですからね。不信に思われるかもしれません。」

なるほど。売られたメイドが脱走したとか思われるかもしれない。

「ならみんなで冒険者ギルドに行こうか。私も身分証ないし。」

「お嬢様の場合、本来は貴族の身分証があるはずなのですが…」

「持ってないね。」

あの女が私を自由に行動させることができるものを渡すわけがない。

「そうですよねえ。貴族だと証明ができればいろいろ便利なこともあるのですが…」

なんだかちょっともったいない気になる。

「ないものは仕方ないわよ。冒険者になるのはいいとして、問題は学校よ。」

「そんなに問題ですか?」

「ここからまた何年も拘束されるなんて嫌よ。」

私もあんまり行きたくない。学校にいい思い出はないし。まあもし、前世でやられたみたいないじめが起こったら、今度は魔法でボコボコにしてやるけど。

「確かに面倒なのはわかりますが、貴族の学院とは違ってギルド内の学校などたかが知れていますよ。ギルドが設定しているラインを越えたらすぐにでも卒業できます。アルト様やお嬢様ならすぐですよ。」

普通の学校というよりは、自動車学校みたいなものかもね。試験に合格すれば卒業できるみたいな。ちょっと違うかな。アルトなら知識も技能も問題なさそうだけど。

「どっちにしても行くしかないよ。魔力炉は必要だし、身分証も欲しいし。」

「分かったわよ。」

やっぱりちょっと不満そうなアルトさん。

「冒険者ギルドの支部ってこの町にもあるのかな。」

あのダンジョンから一番近い町がこことは限らないし…。

「ない町の方が珍しいと思いますよ。冒険者は国中、いえ世界中に散らばっていますからね。キースリング領の町にもありましたよ。」

「なら早速行ってみる?登録だけパッパッと済ませちゃおうよ。」

「忙しない一日ね。」

といってもまだ15時前だけどね。

「こういうのは早く終わらせた方がいいんだよ。ここにいたってやることもないんだし。」

「まあね。することと言ったらアニの修行くらいだけど、今の段階じゃああたしにできることは特にないしね。」

それを聞いて微妙な顔をするアニ。

「すみません。私が至らないばっかりに…」

「なんで謝るのよ。今日だけで魔力を感じることができるようになったことがそもそも異常なのよ。まあ間接的にだけど魔法に触れていたからだとは思うけど。」

「異常ですか…」

「いい意味よ。普通これだけで何日もかかるのよ。」

「はあ。そうなのですか。」

あんまり実感はなさそうだ。

「まあ、その話は置いといて、冒険所ギルドに行くっていうことでいいの?」

「私はもちろんかかまいません。」

「わかったわよ。」

なんだか乗り気じゃないみたいだ。

「不満?」

「ちょっと疲れてるだけよ。新しい身体にまだ慣れてないからかもしれないわね。」

「なら明日にする?」

「別に動けないほどじゃないからいいわよ。それに思い立ったが吉日でしょ?」

「そうだね。じゃあ行っちゃおうか!!」

といっても冒険者ギルドがこの町のどこにあるかが分からない。まあ、フロントで聞いてみればいっか。

 三人揃って部屋を出たらそのままフロントによって聞いてみた。するとここからすぐ近くに冒険者ギルドはあるみたいだ。てくてく歩いて数分。教わった通りの場所に『冒険者ギルド バッハシュタイン支部』と書かれた看板を出した建物を発見した。この辺は何回か通った気がするけど、気にしていないと全然興味を惹かれないもんだね。

「ここね。」

「今更だけどこの町バッハシュタインっていうんだね。」

「本当に今更ね…。じゃあ入るわよ。」

そういうアルトを先頭に頼もう!!といった感じでギルドへ足を踏み入れる。気分は道場破りである。中にはそこそこ人がいるけど、気にせずアルトはそのままカウンターへと一直線。まあ私が話したらなんだか軽くあしらわれそうだしちょうどいいや。

「本日はどのようなご用件ですか?」

「冒険者登録をしたいのだけど。」

「はい。どなたがご登録なさりますか?」

輝く営業スマイルでお姉さんが聞いてくる。

「三人全員よ。この子はまだ十二歳じゃないけど魔法が使えるから。特殊な技能があれば問題ないのよね?」

「はい。それなら問題ございません。ではあちらの記入台でこちらに必要事項をお書きください。ちなみにこの用紙には特殊な魔法がかけられております。出来ないことを書くことはできませんのでご注意ください。」

虚偽申告防止のためだね。まあ嘘を書いて困るのってほとんどの場合書いた人自身だと思うけど。

「それに問題がなければ、魔法使いのような特殊技能、スキルがある方と希望した方はランク制定試験を受けていただきます。そうでない場合はGランクからのスタートとなります。では書類を書き終えましたら、こちらまでお越しください。」

と言われさっそく書類を書くことにした。記入欄に書くことは名前に年齢、クラス(任意)それにスキルと技能だった。こんなことを書くだけで身分証が手に入るとは…この世界の本人確認はガバガバだろうね。それでも本当のことをそのまま書いたら大騒ぎになりそうだし少し自重して書かないと。出来ることしか書けないわけだから嘘はつかずに隠す感じで。

「アルト。本当のこと書いたらダメだよ。ちゃんと調節してね。」

「わかってるわよ。」

「私は技能の欄に、魔法(修行中)みたいなことを書くべきでしょうか…」

そんなことを真剣に考えているアニ。

「魔法というより今はまだ魔力探知ってとこでしょ。」

「そう書いておきます。」

そこから三人で黙々と描き進めていくと最終的にこんな感じになった。


名前  ハイデマリー

年齢  8

クラス 不明

スキル 契約、治癒

技能  水魔法、炎魔法


名前  アルト

年齢  20

クラス 不明

スキル 契約

技能 水魔法、氷魔法


名前  アニ

年齢  18

クラス 不明

スキル 契約

技能  魔力探知


こんな感じになった。クラスはそもそも鑑定を受けないとわからないし、そもそも任意だ。契約のスキルは商人なんかもよく使うみたいで、持っている人も多いらしい。書いても問題ないってことだ。空欄よりは何かで埋まってた方がいいしね。そのままさっきのカウンターへ書類を提出する。目を通したのもさっきのお姉さんだ。

「ではお三方ともランク制定試験を受けていただきます。それぞれ係の者が案内いたしますので指示にお従いください。」

するとカウンターから別のおねえさんが出てきた。

「では、ご案内いたします。」

そのままついていくと、地下への階段を降りたところでお姉さんが止まった。

「ではアニ様の技能は魔力探知とのことでしたので、こちらの部屋で試験を受けていただきます。お二方は奥の部屋になりますのでこのままついてきてください。」

「アニ、がんばってね。」

そう声をかけるとアニはにこやかに笑って答えた。

「はい。お嬢様、それにアルト様もお気をつけて。」

「ええ。」

「うん。」

二人してそう返すと、アニは扉をくぐっていった。

 私たちはそのまま進み、廊下の突き当り、左右両側にある二つの部屋の前へそれぞれ案内される。

「別々なんだね。」

「ランク制定試験は協力などができないよう個々人で受ける決まりですので。」

「なるほど。じゃあアルトまた後で。」

それだけ言うと私は扉を開いた。

 中に入ると、そこはバスケのコートくらいの広さの部屋だった。そこにいるのは一人の男と、その奥の壁からいくつかの魔力の塊。いつの間にか私にも魔力探知ができるようになっているみたいだ。

「では、ランク制定試験を始める。この試験は魔法使いのための試験となっている。内容は魔物の討伐だ。最初に現れる魔物を倒したらFランク、次の魔物を倒したらEランクといったような感じであとから出る魔物ほど強くなっている。限界だと感じたらすぐに申告しろ。その瞬間、試験は終了としランクが制定される。説明は以上だ。何か質問はあるか?」

この人はもし私が魔物を倒すことができなかったとき、ちゃんと魔物を止められるのかな?無理なら二人ともお陀仏だけど…

「魔物を倒せなかった場合、危険はないのですか?」

一応聞いておくことにした。

「試験で使う魔物には隷属の首輪がつけられているから問題ない。」

「そうですか。」

隷属の首輪が何かは分からないけど、問題ないならいいや。

「ほかに質問がなければ始めるが大丈夫か?」

「はい。」

「では始める。」

そう言って右手を上げた試験官すると後ろの壁がシャッターが開くように上へと上がり、中から魔物がでてきた。それはあの時、森で倒した猪だった。あいつに比べると二回りくらい小さい。私は猪に向かって爆撃を落とす。それだけで猪は力尽きたみたいだ。なんだか良い匂いがする。

「なんと、無詠唱魔法か!!そんなこと王宮魔導士でもできないのではないか…」

ずいぶんと大きな独り言だけどまあ気にしない。

「オホン!すまない。ではFランク試験合格とする。続いてEランク試験だが大丈夫だとは思うが、このまま続けるか?」

「もちろん!」

「すまない。これは聞かねばならない決まりなのでな。ではEランク試験を始める。」

続いて出てきたのは大きな犬。ライオンくらいのサイズかな。よくよく考えると、さっきの書類に水魔法と炎魔法しか使えないって書いたからこの二つしか使えないのか。ちょっと面倒くさい。爆撃魔法はある意味、炎魔法の一種みたいなものだし平気だけど。

さっきより気持ち強めの爆撃を落とす。今度はそんなにいい匂いがしない。焦げ臭いだけだ。

「Eランク試験合格とする。続いてDランク試験だが…」

「そのまま続けて。」

「ではDランク試験を始める。」

今度出てきたのはでっかいトカゲ。口から火を噴いているけど関係ない。そのまま爆撃だ。と思って爆撃を打ってみたけどどうやら効いてないみたいだ。煙が出ないようにわざわざ調整しているのに無駄になってなんだかちょっと気分が悪い。さっさと倒しちゃおう。炎が効かないなら水魔法だ。水の玉に閉じ込めると窒息するまで時間がかかるけどしょうがない。そのまま水の玉に閉じ込めて五分くらいでオオトカゲは動かなくなった。水中で息が出来なくてよかったよ。

「ごめんなさい。時間をかけてしまって。」

一応、試験官にも謝っておこう。どうせなら気分よく終わりたいしね。

「いや、むしろ早いくらいだ。Dランク試験を合格とする。」

「どんどんいこう!!」

そういうと試験官は笑顔で言った。

「ではCランク試験を始める。」

次の魔物は植物型の魔物。こっちに蔓を伸ばしてくるけど所詮植物。燃やせば一発だ。たぶん用意されている魔物は、受験生ごとに用意されているわけじゃないんだろうね。私の使える魔法を知ってたら植物型の魔物なんて絶対使わないし。

「Cランク試験合格とする。」

「Dランクのほうが大変だったくらいだよ。」

「お前にとってはそうだろうな。だがこの魔物はちょっとした災害級だぞ。通常なら一個小隊でようやく対処できるレベルだ。」

「そうなると私は一個小隊に匹敵するってことになるけど…」

「Bランクともなればそうなるだろう。冒険者の中でBランクに到達できるものなど全体の2パーセントほどだ。」

ならBランクでも結構な待遇を期待できるかもね。

「ちなみに現時点で君は史上最年少でCランクに到達したことになるな。」

なんと記録更新までしてしまったみたいだ。どうせならいけるとこまでいってみよう。

「このままSランクまでいってみよう!!」

「いやSランクは今はまだ無理だな。もちろん、君ほどの逸材なら必ず到達できるだろうが…Sランクになるには経験と偉業が必要だ。誰も成し遂げたことのないようなことを成し遂げる。そんな偉業だ。これは簡単ではないぞ。」

偉業ねえ。魔王城まで行ったら偉業になるかな。

「まあいいや。じゃあAランク試験を始めてよ。」

「うむ。ではAランク試験を始める。」

その言葉と共に出てきたのは、人間だった。

「人間!?」

もしや奴隷を使ってるのかな。でもこの魔力の量は今まで出てきた中で一番だ。

「ほう。お前にはそう見えるのか。私には全く違うものに見えるが…。安心しろ。そいつは人間ではない。魔物、デーモンだ。大昔の大魔導士様が隷属させることに成功したらしい。」

「あなた、随分とお強いようですね。まあ人間にしてはですが。」

「しゃべった!?」

魔物と会話するなんて考えたこともなかったから何とも不思議な気分だ。

「しゃべった?特に何も聞こえなかったが…」

なぜか試験官には聞こえていないみたいだ。

「ほう。声も聞き取ることができるのですか。どうやらあなたは人間というよりも、我々、上位存在に近いようだ。」

「上位存在だなんていってるけど、人間に捕まってるじゃん。君。」

「少し油断しましてね。500人ほどの魂を代償に召喚に応じたのですが、知らぬ間に隷属の首輪をつけることが契約に追加されていまして。まあ昔の話です。あの頃は私も若かったですから。」

「逃げようとは思はないの?君くらい魔力があればどうとでもなるんじゃない?」

「確かに、逃げること自体は可能ですが、精神体にまで影響が出るのですよ。肉体へのダメージはどうとでもなりますが、精神体へのダメージは我々にとって命にかかわりますから。」

なんだかちょっとかわいそうな気がする。知らないうちに契約内容が変えられていたなんて詐欺もいいとこだ。まあでもこれから倒すのには変わらないんだけどね。あれ、でも私がこのデーモンを倒したら肉体が失われるわけでしょ。そしたらこのデーモンから隷属の首輪が外れて自由になるわけじゃない?

「私があなたを倒したらあなた、もしかして解放されるんじゃない?」

聞いてみることにした。

「ふっふっふふっふ…あっはっはははは!!」

そういうとデーモンさん大爆笑。なにがどうしたんだ。

「いえ…申し訳ありません。そうですね。私の肉体が一度外部の干渉により滅ぼされれば隷属の首輪は外れるでしょう。ですが今は隷属の身。たとえ私の意思でなくても全力で戦うことになります。人間ごときに倒される私ではありません。」

そんなことを言うデーモンさん。

「やってみないとわからないよ。」

それだけ言うと私はいつも以上に魔力を取り込むことにした。

「ほう…どうやら私はあなたの力を見誤っていたらしい。あなたの力は私にも届き得るかもしれない。」

そんなことを聞きながらあの時王城に打ったのと同等まで爆撃を濃縮した。範囲が広くないから一つでいいわけだし楽なもんだ。まあ、あのデーモンが避けでもしたらたぶん上の建物ごと吹っ飛ぶから絶対に当てないといけない。よく狙いを定めて放つ。一直線にデーモンの方へと飛んでいく。どうやら避ける気はないみたいだ。その代わり悪魔の周りにバリアみたいなのが見える。そのまま爆撃がバリアに当たるとものすごい勢いでバリアが軋んでいく。このままなら突破できそうだ。

「どうやら私の負けのようですね。あなたのような面白い人に出会えたのです。それもよしとしましょう。私の名はアグニ。もし人手が必要なことがあれば私を召喚してください。あなたの召喚ならば喜んで赴きましょう。では、またいつか。」

その言葉とともにバリアは砕け散り、そのままデーモンいや、アグニを燃やし尽くした。

「…。Aランク試験合格!!」

数秒後その言葉が空っぽの空間に響き渡った。

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