第十七話 ダンジョンに行こう
「ダンジョン?」
私の想像通りなら、洞窟の中に長い迷路がつながってて、ゴールにいるボスを倒せばお宝ゲットって感じの場所だけど。
「ダンジョンっていうのはね、恐ろしく長くて広い洞窟ってとこかしら。詳しいことはほとんど解明されていないわね。一説には古代魔王軍の拠点だったんじゃないかって話よ。そのせいかどうかは分からないけど、中には魔物なんかもいて、普通なら結構危険なのよ。生還率は一割ってとこかしら。まああたしたちなら余裕ね。」
魔力炉とか魔道具が貴重なのはそもそも持って帰ってくる人が少ないからなんだろうね。
「その説なら魔力炉は古代魔王軍の遺物ってことになるね。」
だったら、魔王城に行けたら乱獲できそう。
「そうかもしれないわね。とにかく魔力炉がほしいならダンジョンに行くしかないわ。」
「ちょっとややこしいね…」
「何がよ?」
「だって、秘境を巡るための移動手段を作るために、入った人がほとんど帰ってこない秘境に入らないといけないわけで…」
「そう考えると、確かにややこしいけど、最初の目的地って考えればいいんじゃない?」
そう考えるとなんだかやる気が出てきた。
「それで、ダンジョンってどこにあるの?」
「私が場所まで知ってるのは青のダンジョンだけね。」
「行ったことあるの?」
「昔、ちょっとね。」
「あの湖から出られなくなる前?」
「そうなるわね。」
私の歳から考えると大昔だ。少し気になるけど今はダンジョンが優先だ。
「それで、どこにあるの?」
「地図がないから、正確なことは言えないけど…王都からこの町までの距離を考えると…ここから馬車で一週間ってとこかしら。」
「私とアルトだけなら飛んでいけばすぐだね。」
「アニはどうするのよ?」
「連れて行く気でいたの!?生還確率一割の場所に!?」
「もしかして今すぐ行く気?あたしはてっきり、もう少し先のことかと思ってたけど。」
確かに、すぐに行くわけじゃないならアニが魔法を使えるようになってるかもしれないわけか。
「思い立ったが吉日って言葉が私の故郷にはあってね。」
「どういう意味?」
「新しいことを始めるなら後回しにしないで今すぐやるべきって感じかな。」
「行きたくて仕方ないって顔ね…。」
正直、目の前に現れた冒険の匂いになんだかワクワクが止まらない。
「あれ、でもよく考えるとアニ連れて行っても問題ないかも。即死じゃなければ浄化の力で治療できるし、なんならそうなる前にテレポートで逃げればいいし。ダンジョンまで先に二人で行ってワープポイント作っておけば移動も問題ないしね。」
我ながら完璧な作戦だ。一人だけ留守番もかわいそうだしね。
「ならそれで行きましょうか。」
アルトも感心しているみたい。
「じゃあアニに説明してくるね。」
といって立ち上がった瞬間、寝室の扉が控えめなノックとともに開かれた。
「お嬢様、アルト様。お食事が運ばれてきました。」
結構時間が経っていたみたいで、もうお昼を少し過ぎているみたいだ。
「ちょうどいいや。じゃあお昼にしよう。」
私たちは寝室から出て、食事を始めた。
「アニ、魔力の感覚はつかめたかしら?」
「なんとなくですが。胸のあたりに何か熱を感じるようになりました。」
「そこまでわかれば後はすぐだよ。」
「それはあなただけよ。聖女は魔法に特化しているって前に言ったでしょう。それにあたしとの契約もあったんだから。でも次の段階には進めるわね。次は心臓にたまっている魔力を全身に循環させるのよ。イメージとしてはそうね…血液の流れに乗せるみたいな感じかしら。」
「血液の流れ…やってみます。」
まじめな顔つきでうなずくアニ。私の場合は外から魔力を取り込めるわけだからこの過程は必要なかったってことだね。
「そうだアニ。これ食べたら私とアルト、少し出かけてくるね。」
「どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっとダンジョンまで行ってワープポイント作ってくる。」
「ダンジョンと言えば秘境の代名詞ですね。もしや最初の目的地ですか?」
「そう。そのつもり。まあ、魔力炉っていう道具が必要になったからなんだけどね。」
「例の移動手段ですか?」
「そう!魔力で動く馬のいらない馬車を作れないかなあって。」
「またとんでもないことを考えますね。」
「そうかなあ。まあとにかく帰りはワープで戻ってくるからそんなに長くはかからないと思うけど留守番よろしくね。」
「承知いたしました。」
それからしばらく雑談しながら昼食を取り、支度をしたらいざ出発の時だ。特に持っていくものはないけどね。宿の部屋にワープポイントを作るのも忘れない。
「じゃあ行ってくるね。」
「はい。お気をつけて。」
「盗賊なんかが出ない分、陸路より安心だよ。」
「まあ。盗賊は出なくても魔物は出るけどね…」
「魔物だってそこまで危なくないじゃん。」
水に閉じ込めたり、爆撃したりどうとでもなる。
「そんなこと言えるのはお嬢様くらいですよ…」
その声を尻目に私たちは窓から飛び立った。
(アルトー。方向どっち?)
さすがに飛行中は会話ができないからテレパシーを使う。
『なんでわからないのに前に出るのよ…ほらついてきなさい。』
そんなことを言いながらスピードを上げて前に出るアニ。
(そういえばさっき、ここからだと正確な場所分からないって言ってなかったっけ。)
『方向は私の湖と逆方向だからわかるわ。それにダンジョンの近くは魔力の濃度が濃いから近づけばすぐわかるわよ。』
(なるほどね。もしかして前にいるあれ、魔物?)
『あれは飛竜ね。あいつの素材は高く売れるから狩っておきましょう。』
そういうと飛竜に向かって水の刃を発射してそのまま首を切り落としてしまった。
『収納魔法に入れとくわよ。』
(それはいいんだけどさ、金貨の袋もそうだけど、どうやって私の収納魔法に入れてるの?)
『あなたの収納魔法は異空間を利用してるでしょ?その座標さえわかってしまえば簡単に接続できるわよ。』
(簡単にできるならだれかに盗まれたりしない?)
ちょっと心配になってきた。
『異空間なんて普通は干渉できないから平気よ。そもそもその異空間自体あなたが作ったようなものなんだから。』
私の収納魔法の仕組みは、まず異空間の入り口を開けてそこに物を放り込む。取り出すときはアポート魔法を使って引き寄せるって仕組みだ。収納魔法のイメージがなかなか難しかったからこういう形になった。
(じゃあ原理を知ってるアルトには簡単に接続できるけど、普通は無理ってこと?)
『そういうことね。おっと、このままいったら日が暮れちゃうわね。スピード上げるわよ。』
その声とともに、私たちはさらに加速した。
そこからバッサバッサと飛竜を狩りながら進むこと大体30分。少し先に魔力溜まりが見えた。
(ダンジョンってあれ?)
『そうよ!!近くに人がいると面倒だから少し離れた場所に降りましょう。』
そういうとアルトは降下し始め、ほどなく着地する。
「意外と早く着いたね。」
「まあ、馬車で一週間って言っても、休憩を取りながらの時間だからね。休憩なしの単純な距離だったら三日くらいの距離じゃないかしら。それを馬車の何十倍かのスピードで飛んできたわけだから、こんなもんじゃない?」
「そう言われればそうかも。」
やっぱ飛べるのは便利だね。前世でも欲しかったよ。満員電車に乗らなくて済むし。
「じゃあちょっと様子でも見ていく?」
「そうだね。」
ダンジョンの方へ向かって歩きだす。この辺りは魔力が濃いからなんだか力がみなぎる感じだ。そんなこんなで元気いっぱい歩くこと数分、洞窟が見えてきた。
「誰かいるみたいね。」
洞窟の入り口に男が一人立っている。10代後半か20代前半ってところかな。
「ちょっと話聞いてみよう。」
「ちょ、待ちなさいよ。」
後ろからそんな声が聞こえてくるけど気にしない。洞窟の方へと近づいていくと向こうから声をかけてくる。
「お嬢ちゃん、こんなところにいたら危ないよ!!」
「私、ダンジョンに入りたいんですけど。」
「君はその年で冒険者なのかい?すごいね。」
「冒険者?」
「あれ。違ったかな?なら申し訳ないけどダンジョンには入れられないよ。」
それは困る。何とかして突入できるようにしないと。
「どうして?」
「ダンジョンは危険だからね。あまりにも行方不明者が多いもんだから、何年か前に冒険者ギルドが管理するようにって王家から言われてしまってね。いまダンジョンに入れるのは冒険者だけだよ。それもそこそこ実力がある人達だけだね。」
「なるほど…。なら冒険者になるにはどうしたらいいの?」
「冒険者ギルドの支部に行って試験を受ける。そこで合格したら冒険者育成学校に入学することになるね。卒業したら晴れて冒険者さ。あとはその試験の結果に応じてGからSまでのランクが与えられるくらいかな。」
なんと秘境巡りをするための移動手段獲得のために秘境に入らないといけなくて、その
秘境に入るには受験して学校を卒業しなければいけないときた。なんだかさらにややこしいことに…
「といってもお嬢ちゃんにはまだ早いかな。その試験は何か特殊な技能でもない限り、12歳にならないと受けられないからね。もしかして何かすごいスキルとか持ってたりするの?その年でダンジョンに入ろうとするくらいだし。」
「魔法なら使えるよ。」
そう言って実演のために後ろの森の木に爆撃魔法(小)を放って爆発させて、そのまま水魔法で消火してみた。もう隠す必要もないしね。
「無詠唱魔法…初めて見た…威力も十分だ。うん、これならすぐにでも合格できるよ!!それどころかいきなりBランクもあり得る!!」
Bランクがどれくらいすごいのかはわからないけど、ランクは高いに越したことはないよね。たぶん。
「ならよかった。そしたら私はその試験を受けなくっちゃだからもう行くね。いろいろ教えてくれてありがとう。」
必要な情報は手に入ったしこれ以上ここにいる意味もない。
「また会えるのを楽しみにしているよ。」
「聞いてた?」
なぜか近くに待機したままだったアルトと合流して聞いてみる。
「聞いてたわよ。」
「いやあ。随分と親切な人だったなあ。この世界も捨てたもんじゃないね。」
「よくよく考えるとあなた碌な人間と出会ってないわね。無害だったの兄くらいじゃないの?」
「アニはいい子だよ。」
「アニじゃなくってあなたの兄、お兄さんよ。」
「ああ、そっち?無害っていうかほとんど関わりなかっただけじゃない?」
もう会うこともないだろうし、もはや他人だ。
「ってそんな話はいいのよ!今度は冒険者にならなくちゃいけないわけね。」
「一つ壁を突破するとまた壁がでてきて、全然進んでる気がしないよ。」
「まあ仕方ないわ。気長にいきましょう。時間はたっぷりあるんだから。」
「そうだね。じゃあ、もどろっか。」
そういってアルトに手を差し出すとやさしく握り返してくる。なんだか照れ臭い。その照れ臭さと一緒に私たちはテレポートした。
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