第十六話 移動手段を考える

 食べて飲んで楽しんだ翌日。アニにやさしく叩き起こされて朝食を済ますと、昨日買った服に着替えて早速町へと繰り出した。アルトも新しい身体に慣れたいようで体に入ったままついてきた。

「この町、お店以外に何かないのかな?」

観光でもしたいとこなんだけど…

「あそこ、随分と人が集まっているみたいですね。ちょっと見てみますか?」

「いってみよう。」

人ごみをかき分けて進んでみるとそこにあったのは掲示板だった。

「おい、王宮が爆発したらしいぞ!!なんでも魔法の事故らしい。」

「再建のためにまた税が上がるらしいぞ。」

「げ、またかよ。さすがに勘弁してほしいな。」

掲示板には王宮が爆発したと書かれていた。なるほど。瓦版みたいなものかな。別に面白いものじゃなかった。

「お嬢様がやったとは書いていないようですね。」

「あたしの脅しが効いたのかしら。」

「あれだけやってこっちに敵対してくるならもう救いようないよ。」

「それはそうね。また何かしてくるようならもう一発入れに行ってやりましょう。」

「あれ結構すっきりするからね。」

「お嬢様…」

アニはちょっと引いているみたいだけど気にしない。

「なんかおもしろいことないかなあ。」

「この町は、王都に行く人たちの休憩場みたいな場所らしいですからねえ。お店や宿ばかりみたいですよ。」

「つまんない町に降りちゃったね。」

「私は楽しいですよ。自由に外を回るなんて言うのは初めてのことですから。」

「ならいいんだけど。そうだ!アニは行ってみたいところとかないの?」

「そういわれると難しいですね…。」

少し考えこんでいるアニ。あんまり外に出たことがないならすぐに出てこないのもわかる。

「アルトは?」

「あたしは誰も行ったこと無い場所に行ってみたいわね。」

「未開拓地とかそういう?」

そんなとこ行ってどうするんだろう。

「そんなとこ行ってどうするのよ。どちらかというと秘境とかそういうところね。」

「例えば?」

「そうねえ…魔王城とか言ってみたいわね!!」

「魔王?」

この世界、勇者や聖女だけじゃなくて魔王までいるみたいだ。

「そんなとこ行こうと思って行けるものなの?」

「無理ね!!」

案の定。

「行けないって言われるとなんだか行きたくなってきますね。」

意外とアニさんも乗り気みたいだ。

「誰も行ったこと無い場所っていうのはたしかにロマンがあるね。」

「じゃあ当面の目標は魔王城を目指すってことでいいかしら。」

「良いか悪いかで言ったらよくはないですけど…。」

「でも行ってはみたいのよね。」

「否定はしませんが…」

「なら、最終的に魔王城に行くってことでどう?それまでは秘境巡りってことで!!」

「あたしはいいわよ。」

「私はもともと異論を挿める立場ではないですから…。」

「そんなこと気にしないでいいのに。まあいいや。じゃあ決まりね。」

「そうとなれば、アニの魔法訓練も始めないとね。」

「私、魔法使えるんですか!?」

「最近、ちょっとずつだけど魔力が出ているみたいだよ。」

「もちろん、アニが嫌じゃなければだけど。」

「やります!やらせてください!!」

「なら必要なものを買って戻りましょう。」

「え、まだ掲示板見て歩いただけだけど…。」

もう戻るなんてさすがにもったいない気がする。

「でもほかにやること無いじゃない。」

「そうだけどさあ。せめておいしいもの食べたりとかしたいじゃん?」

「さっき朝ごはん食べたばかりじゃない…」

「わかったよ。じゃあ買い物して戻ろう。」

私はそこからただただついていくだけだ。気持ちはさながら金魚の糞である。そんなことを考えながら歩いていくとふとある考えがよぎった。秘境めぐるのはいいけど、移動手段どうしよう。アニを担いでずっと飛んで移動するわけにはいかないし…。

「ハイデマリー。終わったわよ。」

ああでもない、こうでもないと考えながら歩いているとそんな声がかけられた。

「どうしたの?さっきから上の空じゃない。」

「んー。ちょっとね。」

「すみません。お嬢様。お時間を取らせてしまいまして。」

「そんなのは別にいいんだけどさあ。これからの移動手段どうしようかなあと思って。ずっと飛んで移動するわけにもいかないし、秘境っていうくらいだから歩いてずっと移動するのもしんどいでしょ?」

「魔法で作るんじゃだめなんですか?」

「それだと今後、もし別行動とかしないといけなくなった時使えないじゃない?だからどうしようかなあって。」

そんなことは滅多にないと思うけどね。

「なるほどね。あたしも少し考えてみるわ。とりあえず今日からはアニの魔法の特訓ね。」

「ならその間に考えてみるよ。」

 


部屋に戻ると私は寝室にこもった。こういうのは一人で集中して考えた方が捗る気がする。移動手段って考えると真っ先に思いつくのはやっぱり車だけど、作り方や仕組みなんかは全くわからないし、そもそもこの世界に石油とかガソリンがあるのかが分からない。燃料は魔力にしたとしても魔力量の問題を考えると結局は私とアルトにしか動かせない。魔力をためておけるシステムは魔道具が存在しているわけだから何かしらあるとは思うけど…そもそも魔道具ってどんな仕組みなんだろう。それが分かればなんとかなるかもしれない。それが無理ならあと思いつくのは電気を使うくらいかな。電力そのものを作るのは魔法でどうにかするとして、アニでも動かせることを前提にすると事前に充電をしておくしかない。それには電力を貯める設備がいるんだよね。最悪、馬車での移動も考えないといけないかな。乗り心地は最悪だし、馬は生き物だから収納魔法に入れられないしで不便なことこの上ないけど。とりあえずアルトに魔道具の仕組み聞いてみようかな。

「アルトー。魔道具の仕組みって知ってる?」

そんなことを言いながら寝室の扉を開けると、アニが座禅を組んでいた。

「あれ、座禅教えたの?」

「あなたが自分と向き合うのはこれがいいって言ってたからね。」

アニは随分と集中しているみたいだ。こっちの声が聞こえてないみたい。

「集中乱したら悪いしちょっと来て。」

そういってアルトを呼び寄せる。寝室の扉を閉じてから聞いてみる。

「それでさ、魔道具の仕組みって知ってる?」

「そんなこと聞くってことは、魔道具使って移動手段を得るつもりね?」

「まだ、考え中だけどね。仕組みによっては無理かもしれないし。」

「そう。魔道具っていうのは、疑似的に魔法を再現する道具よ。練習部屋にあった灯りをつける魔道具とかね。仕組みって言うと難しいけど、簡単に言うと事前に魔法を埋め込んでおいて、それを作動させる道具って言ったところかしら。」

まあそのままだよね。

「魔法ってことは魔力が必要なわけだよね。どうやって魔力を得ているの?」

「作る段階で魔道具自体に魔力を込めるのよ。それが切れたらまた魔力を込めるしかないわ。」

「その、魔力を込める媒体がほしいの!!どこで売ってるの?」

「魔力炉のことね。そんな簡単には売ってないわよ。そもそも魔道具自体が結構貴重なものだから。」

「練習部屋には山ほどあったのに…」

「灯りの魔道具は使い捨てだから、魔力炉は使われてないわ。だからこれだけは安く手に入るのよ。」

「安いのに結構長い間使えるんだね。」

「それは込めてある魔力量によるけど、光るだけだから魔力消費は微々たるものだしね。」

「規模の大きい魔道具を使ったり、繰り返し使うためには魔力炉が必要ってことだね。それでどこで手に入るの?」

「魔力炉単体で売られているのを見たことは無いわね。たぶん魔道具ギルドが買い漁っているんでしょ。それにきっとものすごい値段よ。だからといってすでに作られてしまっている魔道具を分解して魔力炉を取り出してもそれはすでにその魔法に染まってしまっていて使えない。」

「染まってる?」

「前に今の人間が使っているのは魔法じゃなくて魔術だって話をしたでしょう?術式を使うわけだから魔道具にも術式が埋め込まれている。」

「ああ、なるほど。魔力炉に術式を埋め込むわけだね。」

「そういうこと。」

「となると、魔力炉を自前で調達するしかないわけだ。で、どこで手に入るのさ?」

「あたしが知ってるのは一つだけかな。といっても国中にいくつかあるけどね。そこはズバリ、ダンジョンよ!!」

その言葉のせいなのか、冒険の匂いが漂い始めた。

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