第十五話 体を作ろう

 「ほんとにここ?」

「そのはずですが…。ああ。あちらに看板が出ていますね。間違いありません。」

「ほんとに?貴族の屋敷とかじゃなくて?」

「きっと、貴族や富裕層向けの宿屋なのでしょう。とりあえず入りましょうか。」

妙なところで肝が据わってるなあ。なんてことを思いながら建物に入る。すると中はやっぱり高級そうな家具や美術品で飾り付けられている。いかにも貴族の屋敷といった感じだ。

「ようこそおいでくださいました。本日はご宿泊ですか?」

「はい。」

アニが端的に答える。

「ではあちらで手続きをお願いいたします。」

「わかりました。」

アニがチェックインをしているのをぼけーっと眺めているとアルトから声を掛けられる。

『でもいいの?こんなとこに泊まり続けたらすぐに路銀が尽きるわよ。』

(お金なんてまた稼げばいいでしょう?)

『簡単にいうけどあなた見た目は子供なんだから。稼ぐ方法は限られるんじゃない?』

(その辺のけが人でも治療して稼げばいいよ。)

『そんな簡単にいくかしら…』

「では、ご案内いたします。」

いつの間にかチェックインは終わったみたいだ。案内されるままついていくと、三階の角部屋だった。

「こちらになります。不明な点があれば、お気軽にお声がけください。お食事は後ほどは運ばせていただきます。では、失礼いたします。」

そういって鍵を渡すと戻っていった。

部屋の中はそこそこ広くて、過ごしやすそうだった。でもなぜかベッドは三つ。三人部屋を取ったみたいだ。

「三人部屋にしたの?」

「はい。アルト様の肉体をお作りになると聞いたので。二人部屋では手狭かと。私は少しベッドメイクをしてきます。」

「十分整っていると思うけど…」

アニにはメイドとしてのこだわりがあるみたいだ。

「じゃあ早速始めようかな。アルト何か希望とかある?」

『実際に生きている体を作るのは無理なんだから、ちょっとやり方を工夫しないといけないわね。』

「なら、人間そっくりの人形を作ってそれにアルトが入って動かせるようにするとか?」

『あなたの記憶にあったロボットみたいなものかしら?それだとあんまり受肉した感がないわね。』

「動かし方を普通の肉体と同じようにすれば問題なくない?アルトが入ることで脳の役割を担う形にすれば…」

『確かにそれならよさそうだけど…魔法とかそのまま使えるかしら。』

「ちょっと特殊な服を着るようなもんでしょ?たぶん平気だよ。だめなら作り直すだけだし。見た目はアルトのままでいいとして、体格はどんな感じにする?」

そのままの大きさにしたらあんまり肉体を作る意味がない。小さすぎる。

『アニと似たようなものでいいんじゃない?イメージもしやすいだろうし。子供の体じゃ何かと不便だし』

なら身長は150センチくらいで見た目はアルトのままって感じかな。イメージを固めて魔力を流す。あとはトリガーだけどこれはまあ掛け声でいいかな。

「じゃあ行くよ!!肉体創造!!」

私の目の前に現れたのはまあ端的に言うと大きいアルト。徐々に作られていく感じは不気味だから一気にでるようにしてみた。アルトをイメージして作ったから着ている服もそのままだ。

「これがアルト様なのですか…。」

いつの間にか戻ってきていたアニが感慨深そうに言った。

「まあ実際はもっと小さいけどね。アルト入ってみてよ。」

『どうやるの?』

「頭の上に乗ったら入れるようにしたから。」

それを聞くと私の頭の上に乗るアルト。

「私のじゃなくて。」

『あら、ごめんあそばせ。』

なんとなく緊張しているみたいだ。

「緊張でもしてるの?」

『そりゃあねえ。長い時間を生きてきたけど初めての経験だし…』

と言いつつアルトは新しい体の上に降りた。するとアルトの身体は吸い込まれていき――

「どう?」

「なんか不思議な気分ね。」

その場でぴょんぴょんと飛び跳ねるアルト。

「魔法はいける?」

頭上に水の球が現れる

「大丈夫ね。完璧よ!!」

「なんだか不思議な気分ですね。アルト様の声が頭の中ではなく、直接聞こえてくるのは。」

『こっちだってできるのよ?』

そういってわざわざテレパシーを使うアルト

「テレパシーはテレパシーで便利だから使い分ければいいよ」

「やっぱり、こっちも変な感じね。直接人間と話すのは初めてだし。」

「すぐ慣れるでしょ。」

「では、今日はお祝いしましょうか。私たちの旅立ちと、アルト様の肉体記念日です。」

「肉体記念日はなんか…ねえ?」

「響きがひどいわね。」

「大切なのは名前ではなく何をするかですよ。」

顔を赤くしながらそんなことをいうアニ。最初のころよりずいぶんと感情が表に出てくるようになった。

「なら、夕食のコースは一番いいのにしようか。今日はパーっとやろう!!」

「なら私はその旨を伝えに行ってきます。」

「うん。よろしくね。」

そういうとアニは部屋を後にした。

「ハイデマリー。あなたに言っておきたいことがあるんだけど。」

「どうしたの?」

「アニに魔法覚えさせる気はない?」

「魔法ってそんな誰でも使えるものじゃないんでしょ?」

そもそもアニには魔力がないんじゃなかったっけ?

「それはそうね。魔力がなければ魔法は使えない。あたしもアニには魔力はないと思ってた。けどね、最近、テレパシー魔法を使ってたおかげか、少しずつだけど魔力が湧いてきているわ。この段階から訓練すれば魔力も増やせるし、戦力アップになるでしょ?」

なるほど。魔法に触れたことで魔力が目覚めたって感じだね。

「私は構わないけど、本人に聞いてみたら?」

「もちろんそのつもりだけど。一応アニの主人はあなただから 耳に入れておこうと思って。」

「本人がやりたいならやらせればいいよ。」

「なら、今度聞いてみるわね。」

戦力アップは望むところだ。この先何が起こるかわからないしね。

 

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