第十二章 ナハトブラオでの生活

第百五十七話 教会の地下にあったもの

 宗教都市での騒動が一段落して、私たちはゆるりと旅を再開した。当初の目的であったナハトブラオの王都を目指して。道中、私たちに来る個人依頼なんかを適当にこなしながら進んでいっているんだけど、難易度のわりに、報酬が高くてウハウハだ。まあ、達成がちょっと難しいものも多いんだけどね。クリアできないってほどでもないから結局受けちゃってるけど。こっちの国の人が魔道具を使ってもどうにもならないような強い魔物の討伐依頼だったりが多いかな。相変わらず、接待みたいな依頼も多いけど、この前の騒動でこの国じゃあ、冒険者が下に見られていることが分かったから、いつにもまして受ける気はない。というか、そもそもなんでその冒険者に接待の依頼なんて出しているのか不思議で仕方がない。Aランクと縁を築けたら拍が付くとかもなさそうだしね。


 ほかにも旅をしながらの情報収集も忘れない。聖勇戦争については調べておかないと後で困ることになりそうだしね。


まずしたことは、例の教会で資料探し。管理者権限のおかげなのか、こういう資料があったらいいなと思っていたら、それが実際に存在する資料だった場合、どこに置いてあるかがなぜだかすぐにわかった。なんというか、頭の中で資料検索が行われているようなイメージ。こんなものがあるならもっと早く知りたかった。いろいろなことに応用できそうだしね…例えば、収納魔法の中身の管理とか…これも神々の扉の教会管理機能の一部なのかな。


 私が探していた資料はと言うと、主に聖典関係だ。枢機卿が聖勇戦争について書かれてるってほのめかしてたからね。聖水なんかと一緒に売りに出されていたのも読んだけど、あれは信者を集めるための広報誌みたいなもので、全く意味が無かった。そんなわけで、本来の聖典を探すことにしたわけだ。脳内検索機能によって聖典自体はすぐに見つけることが出来た。聖典があったのは、資料置き場みたいになっている六畳くらいの小さな図書室。そこにあった唯一の読書台に鎖でつながれていた。チェインドライブラリーってやつだね。盗難とか持ち出しを防ぐためのあれだ。他の本や資料が鎖につながれていないことから、この教団にとってものすごく重要だってことが簡単にわかる。


 その聖典を読んだ結果、聖勇戦争のあらましが分かった。なんでも、死ぬことが無かった初代勇者と聖女が死を望んだ結果、起こったことである戦争ってことだ。でも何というか、中途半端なところで終わってたんだよね。続きがあるんだと思うけど、教会内には存在しなかった。ここで手詰まりかなんて考えていたところでアニから名案がもたらされた。


「初代勇者が関係しているなら、ライナルト教が何か知っているかもしれませんね。もしかすると、向こうの聖典がこれの続きだとか言う可能性もあるのでは?」


それだ!!と叫ばずにはいられなかった。ここの聖典の後半部分だけが残っているっていうのはちょっと考えにくいけど、前半部分を後世が作り出し、新たな聖典とした。とかなら考えられる。どっちにしろ、一度探らないわけにはいかないだろうってことになった。


「でも、すでに、一回忍び込んでオリハルコンの剣を盗んでるわけだし、外部からの侵入にはすごく経過死してるだろうなあ…」


あの時は急いで脱出しようとしてたからワープポイントもないし…そもそも、あそこに張られている結界の外から中に入ることが出来るのかも微妙なところだ。中から外は大丈夫だったけど…


「あのねえ…なんであなたは盗み見ることばっかり考えてるのよ。堂々と見せてくれって頼んでみればいいじゃない。一応貴族の立場があるんだから。寄付でもすれば一発よ。敬虔な信徒アピールをしておけばいいのよ。まあ、侵入者があなたたちだったとバレていないことが前提だけどね」

「そんな簡単にいくかなあ…」


その場ではそう返したけど、冷静になってよくよく考えてみれば、十分成功しそうな話だった。私たちに追手が出されていないことから、おそらく信州したことがバレてるってことは無いと思う。まあ、失態を隠すためってことも考えられるけど、それならそれで、こっちから行けば捕まえるなりなんなり、行動を起こしてくるでしょ。中にさえ入れれば制圧は容易だからそれならそれでいい。今は、最悪魔法が使えなくてもアニがいるからね。


 方針は決まったけど、ライナルト教のところに行くのは、お父様が拠点に来てからってことにした。もしかすると、お父様が何か情報を持っているかもしれないからね。神々の扉の管理機能についても知っていたわけだし、期待はしてもいいと思う。 




「もうすぐ王都に着くけど、そろそろお父様が拠点に来る時期なんだよね」 


そして現在、私たちはナハトブラオ王都にあと一日という場所まで来ている。あと数日でお父様を迎えに行く日だから、本格的な観光はその後になるかな。


「だったら、一度どこに迎えに行けば聞いてみたらどう?もしかしたら王都かもしれないよ」


イザベルにそう促され、音尾様に連絡を取ってみると、迎えに来て欲しいのは、王都ではなく、私たちがこの国で始めに訪れた、ファクラーの町だった。なんでも、ファクラーの町から周辺の町、村がお父様の仕事上の担当になっているらしい。私が今王都の近くにいることワオ告げると、お父様は「それなら先に言っておけばよかったな」と少し申し訳なさそうに苦笑していた。


「約束の日までまだ数日あるが、そっちは王都を見てくるのか?」

「一応その予定です。私たちは一度行ったことのある場所なら移動に時間を取られませんから」

「そうか。王都には魔道具店がたくさんあるから、君にとっては楽しいと思うぞ。それに食べ物も美味い。あとはそうだな…冒険者ギルドがかろうじて権威を持っているってところか。この国だと他の支部は目も当てられないような扱いだが、王都の支部はまあ、大丈夫だ」


確かにここに来るまでに寄ったギルドは確かにあれだった。掲示されている依頼は少ないというかほぼ無いし、冒険者の姿はほとんど見なかった。そのためなのか、町の住民からも疎まれている様子。全く役に立たないギルドに広い建物を使われているのが気に食わないみたいだった。


「じゃあ、ギルドにも行ってみます」

「ああ。王都を楽しんで」


 その言葉を最後に通信を切断する。もうすぐに会うわけだから、通信でそんなに話し込んでも仕方がないからね。


「じゃあ、今日はこのまま王都に向かうってことでいいのね。ちょっと飛ばすわよ」


今日の運転手のアルトがそう言い、止まっていた車を再び進める。アルトも浮足立ってるみたいだね!! 

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