幕間 聖典
まず、神々によって世界が創り給われた。五柱の最上神、火の神、土の神、水の神、木の神、日の神による御業だ。瞬く間に日の光が差し込み、大地が芽吹き、水が流れ、木々が茂り、夜には炎が灯った。
次の日、水の中に生物が生まれた。動くことも出来ないただそこにいるだけの小さきもの。それを哀れに思った命の神は進化を促した。自らの姿に似た生き物へ成長させ、人間を一対お創りになられた。これが原初の人間、後の初代勇者と初代聖女である。
二人の人間は、神々から知恵を授けられ、子を成しながら世界にて神々と共に暮らしていった。子が再び子を産み、その子がさらに子を産んだことで、人間の数は瞬く間に増えていき、そして死んでいった。
初めの人間が生まれ、数十年が経った頃、人間の数は膨大に膨れ上がり住処となる場所が不足し始めた。人間達が新たな住処を得るために取った行動は、争いであった。他者からの略奪であった。その手段を取った人間に対して、神々は呆れ、一柱、また一柱と天界へと戻っていった。最後に世界に残ったのは、旅の神だけであった。
旅の神は、人間達を哀れに思い、新たな土地を得るための道具を与えた。長い道のりを歩くことが出来るように靴を与え、水を越えられるように船を与えた。そして、最初の一対には、己が権能の一部を与えた。男には強靭な肉体を、女には魔法を与えた。そこに勇者と聖女が生まれた。
人間達は新天地を得ることに成功し、争いは終わった。それを見届けた旅の神は安堵を浮かべ、天界へとお戻りになった。最後の選別として神の道へつながる扉を残して。これにより、世界から全ての神々は去っていった。
神々が去った後も、人間達は発展していった。生と死を繰り返し、創造と破壊を繰り返した。だが、その輪廻から外れてしまった者が一対。勇者と聖女だった。一対は生まれたときから「大人」であった。歳をとることも無く、死ぬことも無い。それは、より多くの子を産めるようにと神々がそのようにお創りになったからだ。
人間には体験できないほどの長い時間を経験した一対が望むのは、終わりだった。一対には他の人間にはある死が無かった。そこから一対は、人里を離れ、途方もなく存在する時間を使って様々な死行錯誤を行った。人間の死因となるようなものは全て試した一対だったが、終わることは無かった。
一対が人里を離れ、幾何かの時間が経った頃、ようやく一対は答えを導き出した。それは、殺し合いだった。神々が呆れ、忌避したものが唯一の手段だったのは必然か皮肉か。ともかく、一対は終わりを得るため、争いを始めた。
―この先、聖典の焼失により、最後の一文を除いて解読不能。
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