　「聞かれたことには全て答えた！！さっさと私を開放しろ！！」

尋問を終えた後の捕虜が言うことはいつでも大体同じみたいで、そんなことを言う枢機卿。うーん。どうしたものか…このまま拘束しておいても何の意味もないし。食い扶持が無駄に増えるだけだし。だからと言って処分する気も無いんだよね。

「どうしたらいいと思う？」

いっそのこと、アルトとアニの二人に決めてもらおうとそう声を掛けてみたけど、二人も困った顔をしている。捕まえてきたのは良いけど、こっちの秘密―私が貴族ってことと、もしかすれば、話の内容から聖女だってことも察しているかもしれない。

「普通に開放すると面倒そうですし、契約で縛るというのはどうでしょう？今後こちらに敵対しないとか、情報を漏らさないとかそういう条件で…」

「勝手に連れてきたうえに、なんという仕打ちだ…」

アニの提案に対して嫌そうにそう言う枢機卿。生きて帰れるだけマシだと思ってほしい。もっとひどい貴族とかが相手だったら普通に処刑もあり得る話だしね。まあここでごねられても面倒だし、少し背中を押しておこうかな。

「もとはと言えば、アンタが悪いでしょ。上位の貴族にあんな真似をしたんだから」

わざと呆れたような口調でアルトがそう言っている。あの時は、まだただの冒険者だと思ってたんだろうけどね。でも、そんなことはわざわざ口にしない。つけ入るすきをわざわざ与えるようなものだし。それにそれくらいのこと、どうせ向こうから言ってくる。

「あ、あの時は知らなかったんだ！！」

ほらね。絶対言うと思った。

「知らなかったじゃ済まないよ。国王陛下に不敬を働いて、知らなかったんだって言って許してもらえると思ってるの？」

そう言われてしまえば、返す言葉もないのか再び黙り込む。やっぱり、上からの圧力には弱いタイプなんだね。私が全く関係ない他国の貴族だって知ったらどんな反応するのかちょっと見てみたい気もする。まあ、ここはブランデンブルクだから、今何かしたらホントに不敬罪が成立するわけだけど。言葉遣いくらいなら見逃してあげるけどね。私もそこまで狭量ではない。

「契約するんだったら、教会の管理者権限をあげてもいいよ。敵対しないことが分かっている相手なら別に影響もないだろうし」

私のその言葉を聞いた枢機卿は目の色を変える。どうせ今まで通りの生活が戻ってくるなら、契約するのも悪くないと思っているんだろうな。結構効果的だったね。

「いいんですか？」

アニは反対なのかな。まあ、気持ちは分かるけどね。せっかく手に入れたものを手放すみたいなことにもなりうるし。

「別に所有権を渡すんじゃなくて、権限を渡すだけだよ。所有権自体は私が持っておくことにする。そっちの方がこれからのことを考えるといいと思うんだ。こっちに反抗する気も無くなるだろうし、神々の扉―あの神器も使うことがあるかもしれないしね。もちろん、あの部屋には誰も入れないようにしておくよ。豊富な魔力を持ってる人とかを使われて、所有権の変更をされたら嫌だし」

その説明に二人は納得してくれたのか、軽く頷きを返してくれる。異論が無いならその方向で進めよう。

「もういい…分かったからさっさと契約を進めてくれ…」

なんかその言い方だと、こっちが無理を言っているような感じに聞こえるね。まあ、聞きたいことは聞けているわけだし、さっさと終わらせたいから何も言わないけど。

「そんな言い方して言いわけ？無一文のアンタをそこらへんに捨て置くことだってできるのよ。ここがどこかもわかっていないでしょ？あの教会まで自力で戻ることが出来るのかしら？」

枢機卿の態度に怒りを私では無くてアルトだった。余計なことをと若干思わないでもない。でも、そうか。そこら辺にほっぽりだすつもりだったけど、自分の力じゃ帰れないのか。着の身着のまま連れてきたわけだからお金なんかも持ってないだろう。

「…悪かった。契約を結ばせてくれ…」

アルトの脅しともとれる言葉を聞いて態度が一気にしおらしくなった。

「じゃあさっさと契約を。手を出して」

　条件はさっき言った通りに設定して、契約を結ぶ。神の声も聞こえたから、問題なく結ぶことが出来たはずだ。

「これでよしっと。じゃあ、後は権限の委譲だね。ここで出来るかな…」

神器の近くにいないと無理とかあるのかな。

「近くに行かないと無理だと思うわ。少なくとも敷地内には入らないと…」

「では、一度あの部屋に戻るのはどうでしょう。それを送り届けなければなりませんし、神器のあった部屋に閉じ込めているシスターもそろそろ限界でしょう。食料もそこまで残してきたわけではありませんし」

「そうだね」

シスターを閉じ込めていること、すっかり忘れてた。彼女にも契約を結ばなきゃだめかな…いや、必要ないかな。私たちに関する情報はほとんど持っていないはずだし、枢機卿が教えることも出来ないからね。彼女が何か騒ぎ立てたとしても、そんなに問題にはならないでしょ。貴族とかでもなさそうだし、発言に力があるわけじゃないからね。

「そう言われると私も腹が減ってきたな…それに喉も…」

今更ながらそう主張してくる枢機卿。一応軽食を用意してもらったけど、ここにきてわざわざ食べさせる必要も感じられない。帰ってから勝手にどうぞって感じ。用意してもらったものは後で私たちで食べちゃおう。

「じゃあ、送ってあげるよ」

そう言って私は再び封印の魔道具を枢機卿にぶつける。また封印されるってことを認識してから、封印されるまでの一瞬の間、目玉が飛び出すんじゃないかと思うほどとんでもない驚き顔をしていた。まさかまた封印されるとは思ってなかったんだろうね。

「どうしてまた封印したんですか？」

「念のため。テレポートの魔法の存在を知られないようにしようかなと思って」

「なるほどね。まあ、知られないことに越したことは無いわよね」

今まで、結構な人に見せてきた魔法だけど、明確な敵になりそうな人には見せてない。それこそ王族くらいかな。

「じゃあ、さっくと行ってくるね」

「一人で平気ですか？」

「大丈夫。神器があった部屋の前まで言って置いてくるだけだし。シスターもものを動かす魔法で部屋の外に追い出せばいいだけだしね」

　それだけ言い残し、二人を置いてテレポートする。枢機卿を開放する前にシスターを部屋の外に出す。眠っていて意識が無いから簡単に外に出すことが出来た。この感じだと、食べ物は早々に尽きたのかな。体力温存のために寝ていることにしたのか、日光を浴びていないから体内時計が狂っているかのどっちかだと思う。シスターを追い出してからは、軽く部屋の掃除をした。私たちが来た時には埃一つない、クリーンルームかってくらい綺麗だったけど、今は食べ物の容器のごみとかが落ちてるからね。一応私たち以外は入れないしゴミの処理くらいはしておかないと。思えば、掃除をするのなんて前世ぶりかもしれない。こっちの世界に来てからは使用人やメイドがやってくれてたわけだし。

　簡単な掃除を終えたら、枢機卿を開放しさっさと屋敷へ戻る。一応最後に釘をさすのも忘れない。今までのことが全部夢だったとか思われたら困るからね！！