第百五十五話 起こるかもしれない戦い

 「そもそもあの神器っていう魔道具はなんなの?普通の魔道具じゃないでしょ?」


魔道具を魔力で満たした途端、神の声が聞こえるなんてどう考えても普通じゃない。意地でも魔力を込めさせようとしていたのもちょっとおかしいからね。


「神器は神器だ。神がまだ我々と同じ場所で生活していた大昔に残していった物と言われている。まさかあれが教会を管理する役割を持っていたとは…」


嘘感知の魔法が反応した感じもないし、あの魔道具の正体は知らないってことか。それだと、お父様の方が詳しく知ってそうだな。さっき聞いておけばよかったね。


「あの魔道具に魔力を込めさせようとしていたのは?」


今度はアルトがそう聞く。聞けることはなるべく聞いておきたかったから、丁度いい。あの魔道具は今、私のものってことになっているから、少しでも多く情報は仕入れておきたいからね。


「それは、込められている魔力が完全に空になってしまえば、完全に崩壊してしまうからだ。代々守ってきた神器を私の代で消失させてしまうなど、恥以外の何でもない」

「ああ、だからあんなに魔力を込めさせようとしてたわけね。ていうか、あれはあの教会を管理する役割も持っている魔道具でしょ?それが崩壊したら、教会の建物自体にも影響があったんじゃないかしら。あの地下の道まで影響するとしたら、再建は無理だったでしょうね。どうせ、あの教会にとって需要なものは全て地下に置いていただろうから」

「ど、どうしてそれを…」

「そんなの簡単に推測できるわ。地上にある教会の建物には、外部の人間が出入りするわけでしょ。それもものすごい数ね。となれば、その外部の人間に手出しが簡単にできてしまうような場所に大事なものを置くわけがないじゃない」


そんな推理を続けて披露するアルト。あの教会の中枢は地下にあるってことか。こいつから聞き取れなかった情報なんかの資料があったりするかもしれないね。


「まあ、アンタは管理者権限が魔力を込めた者に移ることすら知らなかったんだから、アンタは本来の持ち主じゃなかったんでしょ?魔力も持っていないみたいだし。あの魔道具の持ち主は誰?」


少し逸れた話をもとの軌道に戻すため、そんな質問をしてみる。


「おそらく、本来の管理者として登録されていたのは先代の枢機卿だ。魔力持ちだった彼が死んでから、魔力を込めることが出来なくなったからな。私は彼から、一部権限を与えられていたから、今まで教会の運営に使用を来すことは無かったが…」


なるほど。だから私たちを神器のある部屋から出られないように閉じ込めることが出来たんだね。権限を渡すことが出来るなら、私もさっさと誰かに渡すべきだね。特に信仰もしてない宗教の教会を運営するのなんて普通に面倒だし。権限が委譲出来る出来ないにかかわらず、もともとやる気は無かったけどね。


「一応、魔力持ちの者に少しずつ魔力を込めさせてはいたが、持っている魔力が少なすぎて、込める量より出ていく量の方が多かった。なにせ、あの教会には魔力持ちは二人しかいないからな…」


あのシスターのほかに魔力持ちがもう一人いるってことか。それなら、脅威になりうるってことは無さそうだね。


 さて、魔道具について聞けることはこんなもんかな。魔道具のことと言うより、教会の内情の方が多かった気がするけど、無益ってほどでもないから、まあいいでしょ。魔道具そのものについてはお父様の方が詳しそうだしね。


「じゃあ、次ね。せいゆう戦争って知ってる?」


私が知りたいのはこっちがメイン。アルトですら知らなかったことだから、あんまり期待はしてないけど、すでに片足突っ込んでるような状態で、私が巻き込まれることはほぼほぼ確定しているから、少しでも知っておきたい。


「せいゆう戦争…もしや、聖典に書かれていた聖女と勇者が争ったという大昔の戦争のことか…?まさか、あれが今一度起こるのか!?」


え?私、勇者と戦うの?何の意味があって?


「なるほど。聖女と勇者が戦うから聖勇戦争ってことね。たしか、今代の勇者はまだ生まれていないはずだけど…」

「聖女がブランデンブルクで生まれたということは風のうわさで聞いたが、勇者は確かにまだだったな…ならば、まだ猶予があるということか。今の内に備えておかなければ…」

「備える?」

「あ、ああ。お前たちの言う、聖勇戦争が起こった時、世界の生物の半分が息絶えたと記されていた…それだけでも壮絶な戦いだったのが分かる。そのころからよりも人口が増え、さらに都市に密集している。どれだけの影響があるか…」


そんな壮絶な戦いだったのか。そんなの起こらないに越したことは無いけど、勇者が生まれたらどうなるかは分からない。私から仕掛けるつもりはないけど、向こうが挑んできたり、半強制的に戦わなくてはいけないシステムだったりしたらどうしようもない。私の予想だと、後者なんだよね。だって、神の声が発する言葉だってことは、もう、システムとして組み込まれているものってことだ。開戦条件が何なのかは分からないけど、勇者が生まれたら避けられない気がする。


「勇者が生まれるのは時間の問題でしょうね。聖女のように、意図的に発生しにくくされてるわけじゃないから…さすがに、勇者と聖女が同時に存在したらとかそんな条件で起こるものではないでしょうけど、避けるのは難しいかもしれないわね」

「聖女が発生しにくく…確かに、最後に発生したと記録があるのは百年以上前のことだが…」


聖女について詳細を知らない枢機卿はそんなことを言っている。詳しく教えるつもりはないから放置だ。


「あんた。聖勇戦争について他に知ってることは?」

「いや、それ以上は…そもそもその戦争のおかげで生物が半減したのだぞ。人間も例に漏れず激減した。記録を残せるような余裕も無かったのだろう。ただ、聖女と勇者が戦った戦争があったということとその結果のみが記録として聖典に書かれていただけだ」


これも詳しいことは分からないのか…全く、せっかく捕まえてきたのに役に立たないことこの上ない。まあ、全く収穫が無かったわけじゃなかったし勘弁してやろう。


「みんな、他に聞きたいことはある?」


私がそう聞くと、アニとアルトは首を振る。まあ、これ以上聞いたところで何も出てこないだろうしね。アニに関していえば、枢機卿の動向に目を光らせているだけで、特に何も質問をしていない。話をきいて驚いたような反応はしていたけどね。


「じゃあ、こいつの今後の扱いを考えないとだね」


私のその言葉を聞いた枢機卿は再び顔を青ざめさせた。

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