第百五十四話 尋問準備

 「ちょっとナハトブラオの宗教団体とちょっとトラブルになりまして、そこの枢機卿を捕まえてきたので、ちょっと尋問したいなあなんて思ってまして…」


エーバルトとオリーヴィアにそう説明する。私が聞きたいのは主に、せいゆう戦争のことだ。自分がまきこまれる可能性があることなのに、全く情報が無いのはきつい。…もともとあそこの管理者だったわけだし、さすがに何か知ってるよね?


「枢機卿って…大丈夫なの?」


オリーヴィアが心配そうな顔をする。この国でも、宗教関係者の幹部は力を持つことが多いからね。


「一応向こうの国王には話を通してくれてるみたいです」

「それも父上が…?」

「ええ。私たちが売却した一角獣の素材を国王に卸しているところだったみたいで」

「だからと言って、普通、他国の王が口を挿むか…?」

「Aランク冒険者だからだと思うけど、向こうだと、結構いい待遇よ。上陸初日なんて外交官から接待を受けたんだから」

「ナハトブラオには高ランクの冒険者はいないようでしたから。おそらく、私たちに高難易度の依頼を受けてもらいたい故だと思いますよ」


アルトの言葉にそう補足しておく。そう言えば、まだ向こうに行ってから何も依頼を受けてなかったね。まあ、ちょっとごたごたしてたし、またすぐに向こうに行く予定だからこれから受ければいいかな。


「はあ。よく分からんが問題無いならいい。部屋も自由に使っていいから」

「ありがとうございます」

「今から尋問をするの?その枢機卿はどこにいるのかしら?」


問題ごとにはうんざりだと言うばかりのエーバルトから許可をもぎ取り、例の部屋へ移動しようとしたところで、オリーヴィアが不思議そうにそう問う。


「封印の魔道具って言うのを手に入れまして…ほら、この緑の玉です。これに枢機卿が入っているんですよ。あ、そうだ。何か軽食を用意してもらってもいいですか?二日ほど閉じ込めたままなので、衰弱しているかもしれなくて…」


食事を渡すって言えば、情報をすんなり話すようになるかもしれないしね。


「それくらいなら全然いいわよ。料理人に作らせておくわ」

「よろしくお願いします」


 そう言って、今度こそ例の部屋へ移動する。今日することは、エーバルトにもオリーヴィアにも全く関係ないため、立ち会うことはしないみたい。まあ、関係ない尋問に立ち会ったところで、気分が悪くなるだけだろうしね。



 「さて、どうやって開放したらいいの?」


部屋に着いたら、早速とばかりに封印を解除するつもりだったけど、よく考えたらその方法が分からない。


「真ん中につなぎ目があるでしょ?そこを少し押し込みながら引けば二つに分かれるから…」


私の質問にアルトがそう答える。なんか、ガチャポンのカプセルを開けるみたいな感じだな…言われた通りにやってみると、確かに半分のところにある継ぎ目から玉が二つに分かれ、黄色い光が飛び出してきた。数舜後、その光が人の形になり枢機卿の姿を形作った。


「気絶しているみたいですね」


ここまで無言だったアニがそう言う。アニは従者という意識が強いのか、特にエーバルトとオリーヴィアの前だとこちらが話を振らない限り、口を開くことは無いんだよね。貴族のマナー的には、従者が口を出さないというのは正しいんだけど、今はもう違うんだから、気にすること無いのに。


「今のうちに縛り付けておきましょう」


この部屋に置かれている椅子にアニが縛り付けてくれる。気絶した成人男性なんて重いだろうに軽々持ち運んでいるね。スキルのおかげで、肉体も強化されているからだと思う。見た目がマッチョにならなくてよかったよ。さすがにアニがマッチョになったらちょっと嫌だな。せっかくスタイルもいいんだし。


「まずは、起こさないとね」


アルトがそう言うと、枢機卿の上から水をぶっかける。あーあ。床がびしょびしょだよ…


「な、なんだ!?」


掠れた声で驚き、立ち上がろうとした枢機卿。だけど縛られているから立ち上がれずに、椅子ごと転がってしまっている。ちょっと滑稽で笑いそうになった。


「状況は理解しているかしら?」


アルトが枢機卿を見下ろすというか見下しているようにそう告げる。その言葉を聞いた枢機卿は部屋の中をきょろきょろと見渡し、自分が縛られていることを認識したみたいで、顔色がすっと変わる。


「き、貴様ら自分たちが何をしたかわかっているのか? 子爵であるこの私を拉致監禁など…今すぐ開放したら、罪に問わないようにするのもやぶさかではない」


この二日間、水を飲むことも無かったからか、相変わらず、カスカスの声でそう言う枢機卿。椅子ごと倒れて床に張った状態でほざいているから、なんというか、負け犬の遠吠え感がすごい。ちょっといいこと思いついたから脅かしてあげようかな。


「別に問題ないよ。上位の貴族が自分に働いた不敬に対して罰するだけだから」

「は?」


何を言っているのか理解できないという顔の枢機卿に向かって、私は貴族の身分証を見せつける。身分証がナハトブラオでも、ブランデンブルクでも見た目が同じものなのは確認済みだ。だって、違ったら、冒険者の身分証で、町に入ることは出来なかったはずだからね。あの時は、守衛がAランクの身分証を見るのが初めてだったからちょっとトラブっただけだし。


「ほら、ここに書いてあるでしょ?伯爵令嬢、ハイデマリー・キースリングって」


私の身分証を見た瞬間、元々青ざめていた顔をさらに青くし、口から言葉にならない音を零す、わざわざ、他国の貴族ですなんて説明はしない。封印されていた間の時間感覚がどうなっているのか知らないけど、さすがに国を出たとは思ってないだろうから、バレるはずもないしね。伯爵「令嬢」と子爵じゃ正式に爵位を継いでいる子爵の方が偉いのかもしれないけど、ちょっと考えれば、バックに伯爵が付いてることは簡単にわかる。さすがにそれが分からないほど馬鹿ではないと思いたい。


「ようやく話す気になったかしら?」

「し、仕方がない。上位の者には従おう」


自分の権力に絶対的な信頼を置いているタイプのこういう人間は、自分より上の立場の存在にはめっぽう弱いと決まっている。自分の権力も、その上位の存在から与えられていることを知っているからね。


「じゃあ、早速だけど―」


長い長い準備が終わり、ようやく尋問を開始する。もちろん嘘感知の魔法も忘れずにかけておいた。

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