第百五十三話 親子の通信
「お久しぶりです。お父様。オリーヴィアです」
エーバルトとお父様が話し始めた所で、オリーヴィアもそう声を上げる。そこには二人のようなぎこちなさは感じられない。さすが社交に慣れたオリーヴィアといったところだろう。
「オリーヴィア…二人とも、大きくなったな。声だけでも十分にわかる。もう、あれから十年近くたつのか…君たちの成長に立ち会えなかったのが残念で仕方ないよ」
そう言われてしまうと、返す言葉を選ぶのは難しいのか、しばしの沈黙がその場を支配する。
「お父様がどういう状況だったのかはハイデマリーから聞きました。国外追放となってしまっていれば仕方がないと思います。それでお父様。近いうちにこちらに来たいのだとか…」
早速と言うように本題を切り出すオリーヴィア。オリーヴィアにとっては、子供のころに生き別れたともいえる父に会うことよりも、そうしたことで起こることになるかもしれないトラブルの方を重視しているのが口ぶりからわかる。
「君たちの顔を見たいとは思っているが…国外追放で船には乗れなくとも、ハイデマリーが魔法で送り届けてくれるようだし…迷惑か?」
少し悲しそうな声のお父様。
「迷惑と言うよりは、戸惑いでしょうか…他国の方を受け入れることなど、今までありませんでしたから」
他国の方。その言葉には家を出たものはもう身内ではないという意味が込められている。まあ、婚姻なんかで家を出た人と同じ扱いってことだ。他のところに自分たちの情報を流すのは避けなければならないって教育課程で教わった。ちょっと冷たいとは思うけど、情報流出を防ぐのは死活問題みたいだから仕方がないのは分かるけど。
「だったら、うちの拠点に滞在させればいいんじゃない?会うのもそこでしたらいいわ」
まあ、元々魔道具を見に来てもらう予定だったし、うちなら知られたり、見られて困るものはないからね。強いて言えば、魔道具の作成方法なんかは知られたら困るけど、お父様にはこれも見せるつもりだし、この間の話時に契約もすることになったから全く問題ない。わざわざ渋ってる二人が住むキースリングの家に呼ぶ必要もないか。別に三人とその使用人が何人か滞在することになったとしても、部屋は余ってるし、余裕だと思う。
「そうだね。結局こっちにも来てもらう予定だったし、いいんじゃないかな」
私もアルトの言葉に同意しておく。
「そうですか。父上はハイデマリー達の拠点に滞在するということでよろしいですか?」
エーバルトがそう言うと、オリーヴィアは勝手に進めるなとばかりに顔を顰めるけど、キースリング家の当主はエーバルトなのだから、最終的な決定権は彼にある。オリーヴィアが嫌がったところで、エーバルトが同意してしまえば結局は会うことになるんだよね。口では反対していたエーバルトも、いざ話してみると会ってみたくなったのかもしれない。少し口角が上がっている気がする。そうだよね。十年前といっても十分、物心は着いている年齢だ。お父様のことを全く覚えていないなんてことがあるはずない。交流もあったはずだし、懐かしさを感じているんだと思う。
「私は文句など無いよ。全て君たちの都合に合わせるから」
「……では、ハイデマリーの館に滞在するということにしましょう。いつ頃お越しになられるのですか?」
「そこも君たちに合わせよう。私の仕事は役人だと言っても、結構自由が利く。休みを取ろうと思えばすぐに希望が通るからな」
そういえば、お父様が担当しているのは、確か外部との交渉事をするような部門だって言ってた。だから、私たちの素材買取に駆り出されたわけだ。その部門は人数もそこそこ人もいる上に、一度に何人もが必要な部門ではないからそこまで忙しくないらしい。
「そうですか…では、一月後はいかがでしょう?お互いある程度の準備は必要でしょう?」
エーバルトとオリーヴィアすることは準備と言うか、心づもり的な方が大きい気がする。場所に関しては私が準備するわけだからね。まあ、使用人たちに頼むだけなんだけど。お父様にも心の準備は必要だろうけど、一度私と会ってしまっているわけだから、そこまで緊張とかは無いんじゃないかな。逆に、変装とかこっちの気候に合わせた服の準備とかは必要になるのかもね。
「了解した。一月後だな」
「ええ。こちらも楽しみにしております」
そう言うと、オリーヴィアは通信を切ってしまった。ホントに事務的な会話しかしてなかったね…今まで積もり積もった話があっただろうに。まあ、そう言う話は直接会ってからってことかな。
「お兄様。勝手に進めてもらっては困ります」
通信が切れた途端、オリーヴィアは外向けの声音から内向けのものに変化した。社交を得意とするだけあり、外面がものすごくいい。いや、別に内面が悪いって言っているわけじゃないんだよ?
「まあ、あの場で断るのは無理だと判断した。それに聞きたいこともあるのだから、結局会わないということにはならなかったと思うぞ。それに、私たちが会わなかったとしても、ハイデマリーは個人で会うつもりだったのではないか?」
「その通りです。魔道具をお見せする約束をしていましたから。それに、ちょっとした取引もすることになっています。私は二人が反対したとしても、これから交流を続けるつもりですよ。―何か嫌なことが怒らない限りは…」
私のその言葉にこめかみを抑えるオリーヴィア。諦めが悪い…
「仕方ないわね。もう決まってしまったことなのだから、悪い方にばかり考えるのは止しましょう。海外の情報が得られれば、他家や他領に優位性が持てるし、お父様は魔道具職人だから、接点を持って悪いことばかりではないわ」
そういうオリーヴィアに今度はエーバルトが軽くあきれ顔。まあ、実利ばかりで、感情的な部分が全く見えないからね…
「では、お父様のことはそれでいいとして、もう一つ相談があります。魔力的影響が受けない部屋をお借りしてもいいですか?」
私のその言葉に、再び厄介ごとの影を見たのか、二人が頭を抱えていた。
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