第百五十二話 お父様の話
「父上に会ったのか!?どこで!?何をしていた!?」
私の言葉を聞いて、矢継ぎ早に質問をぶつけてくるエーバルト。オリーヴィアも聞きたくて仕方がないって顔だ。そりゃ気になるだろうけど、そこまで勢いがあるとちょっと引く…
「お父様がいたのはナハトブラオと言う隣国です。まあ、そこにいたのも色々なわけがあるのですが…」
私は、そう切り出し私たちがナハトブラオに行ってから、お父様と会い、お父様自身に聞いたことを話し始めた。一角獣を倒して、素材の買取のために国の役人とコンタクトを取ったこと。そこに来た担当の役人がお父様だったこと。失踪したのではなく、あの女の策略で反逆罪となり、国外永久追放となり、祖国であるナハトブラオに戻り、役人となったことなど、簡単に説明した。ついでに、あの女が私たちの叔父、叔母にあたる兄弟姉妹を死に追いやり、無理やり家督を継いだ可能性があるってことも話しておく。
「そういう理由だったのね…まさかお母様がそんなことをしていたなんて…」
オリーヴィアはお父様の話よりあの女がやったことに衝撃を受けているみたい。衝撃というか、呆れが混じっているような気がする。多分、キースリング家の執務に携わるようになってから、あの女がしてきたいわゆる悪行にもいろいろ知ることになったんだと思う。私は詳しく知らないけど、音尾様の言い方だと、結構やらかしてたみたいだし。
「お父様だって、自らここを離れたわけではないことは分かってもらえたみたいですね。お兄様とお姉様が大変な時に何もできなかったことを悔いておられました。それに、とても会いたがっていましたよ。私の魔法なら、国外追放処分で船に乗れなくとも、すぐに連れてこられますから、会ってみたらどうですか?」
「いや、どうだろうな…まあ、俺も会えることなら会いたいが、話を聞いて少し事情が変わった。父上が語ったことは本当のことか分からないからな。全く別の危険な理由で国外追放になったのかもしれない。父上と話すとき、例の嘘が分かる魔法は使っていなかったんだろう?それだと真実は分からないではないか。詳細なども調べようがない。罪歴を調べたところで、出てくるのが反逆罪では内容までは知ることが出来ない」
「嘘を言っているようには見えませんでしたし、つい一昨日も助けてもらいましたから、大丈夫だと思いますけど…」
「ハイデマリー。貴族なら顔色一つ変えずに嘘をつくくらいのことは簡単にやってのけるわ。それに、お父様は元々、他国から婚姻によってやってきた移住者。情報を流すことも命じられていたでしょう。となれば何か訓練を受けていてもおかしくないわ。嘘を悟られないなんてそれこそ簡単よ」
二人の考えは似たようなものみたいで、信用できないということを前面に押し出してきている。これは多分、お父様がこの国では犯罪者だからってことが大きいんだと思う。こっちは、向こうの世界以上に犯罪者へのあたりが強い。罪を償ったところでその人がしたことは変わらないって考え方なんだと思う。逆に、罪にさえなっていなければ、周りは気にしない。その証拠に私のしたことも誰も気にしてないからね。罪になっていないならそれなりの理由があるんだろうって考え方みたいだ。前世の世界とはだいぶ考え方が違う。
「ここで話していても仕方ないでしょう?ハイデマリー。貴方、彼に通じる通信の魔道具を持っているんだから、直接話させてあげればいいじゃない?」
二人の言葉を聞いていたアルトが面倒くさそうにそう告げる。私も意味のない議論はしたくないし、それに便乗することにした。
「そうだね。お兄様、お姉様。今からお父様にお繋ぎします。向こうも役人の仕事でお忙しいでしょうから、絶対に繋がるということは言えませんが、直接話した方が、お父様の気持ちもわかると思います」
お父様に貰った通信の魔道具を取り出し、こちらからコールを掛ける。前世の電話みたいにコール音が鳴ったりはしないけど、赤い小さなランプが光ることで呼びかけていることが分かるようになっている。通話がつながるとそれが緑色に変化する仕組みだ。これは、黒のダンジョンで拾ったものも同じだった。私が作ったのも、それをもとにしているから同じ。
「どうした?ハイデマリー。もしかして、また厄介ごとか?」
数十秒後、通信の魔道具からそう声がした。無事につながったみたいだね。もしかすると、お父様は意外と暇なのかもしれない。
「違いますよ。今日はなんと、キースリング家に来ています。お兄様とお姉様と直接お話してもらえませんか?」
「それはもちろん構わないが…」
お父様のその声を聞いた二人は、少し顔を強張らせている。緊張しているのかな。
「場所を変えるから少し待ってくれ」
そう言うと、お父様は一度通信を切る。魔力の節約のためだろうね。
「ハイデマリー。君は勝手に…」
「まあまあ。お兄様。さっきはああ言いましたけど、私もお父様と直接話すのには賛成です。言っていたことが事実であっても、そうでなくてもコンタクトが取れると分かった以上、放置しておくわけにもいきませんよ。血のつながった家族なのですから」
そう言われれば、何か考え込むようにエーバルト少しの沈黙の後、瞳に決意の色を浮かべてはっきりとした声を上げた。
「そうだな。俺も腹を括ろう。事実は確かめねばならないしな」
そこから数分後、今度は私の通信の魔道具に反応があり、お父様から連絡が来た。
「待たせたな」
「では、お姉様とお兄様に変わりますね」
エーバルトに通信の魔道具を手渡すと、先ほどと同じく、緊張した面持ちと声音で重苦しく話し始めた。
「父上。お久しぶりです。エーバルトです」
「ああ。久しぶり。今まで連絡もせず済まなかったな。フリーダの件があったから、手紙を送るのも危険かと思っていたのだ」
そんな言葉から、数年ぶりの親子のコミュニケーションが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます