第百五十一話 キースリング家での魔力補充とお話

 明後日。午前中の遅いとも早いとも言えない十時くらいの時間に、私たちはキースリング家へ訪れていた。今日はアルトとアニの三人で、イザベルはお休み。今日は枢機卿の尋問をする可能性もあるから、一度尋問を受けているイザベルに同席させるのは少しかわいそうだからね。トラウマとかになってるわけじゃなさそうだけど。多分今イザベルが苦手意識を持っているのはアグニだけだと思う。私たちのことが苦手だったら、一緒に旅なんてしてないだろうしね。


「おかえり。ハイデマリー」


帰ってくるといつものようにダイニングへ案内され、出されたお茶を優雅に(自分ではそう思っている)飲みながらエーバルトとオリーヴィアが来るのを待っていると、オリーヴィアを伴ってエーバルトが入ってきた。執事のスヴェンも一緒だ。


「お兄様とお姉様も学院でのお勉強、お疲れさまでした。お兄様は卒業でしたよね。おめでとうございます」

「ああ。ありがとう。これで俺も領主の執務に集中できる」

「そう言えば、結婚はどうするのですか?あと次がいないともしもの時に大変なのでは?」

「うちは色々事情が複雑だからね。今、候補者の選別中よ。結構な数の申し入れが来ているけど、ちょっと大変ね…」


少し疲れた顔をしているオリーヴィア。ホントに大変なんだろうなあ…


「そんな他人事みたいな顔して…」


隣に座っているアルトがそう小声で呟く。確かに、少しは私のせいでもあるかもしれない。だけど、私に手助けできることなんて無いんだよね。仲良くしている貴族と言えば、ブルグミュラー男爵のところ位だし。後はナハトブラオの外交官二人だけど、ほとんど顔を合わせただけだから、敵対してないってだけで親密だとは言えないし。


「お姉様の婚姻はどうするのですか?男性のお兄様よりも死活問題なのでは?」


こういういい方はよくないのかもしれないけど、女性には適齢期的な問題があるからね。向こうの世界と違って、こっちでは結婚しないとか、子を産まないっていう選択肢はないみたいだし。それこそ病気でもない限りは…


「わたくしはどうとでもなるわ。最悪、どこかに嫁げばいいだけよ」


それはオリーヴィアが望む結婚なのだろうか…恋愛結婚とまではいかなくとも、自分に利のあるようにしてもらいたいところではある。まあ、オリーヴィアは顔良し、頭脳良し、家柄良しの三拍子だから相手に困るってことはなさそうだけどね。ホントに選り取り見取りだと思う。それはエーバルトにも言えることなんだけどね。


「お姉様がそれで納得しているのならいいです。では、早速通信の魔道具に魔力を込めましょうか」

「助かるわ。一度あれを使ってしまうと、連絡が取れないのが不便で仕方ないの。この前、手紙を送るのだってお兄様が億劫がってしまって…」

「もともと私が渡したものですからね。魔力を込めるのは当たり前ですよ。魔力切れの間、ちょっといろんなことが起こりすぎて、私もすごく不便に感じていましたから。そうだ。聞きたいこともあったのですよ」


オリーヴィアから通信の魔道具を受け取り、魔力を込めていく。最大量まで込めておけば、結構長い期間使えることが分かったから、今回も最大量まで込めておこう。


「聞きたいこと?」

「ええ。お兄様、前に状態維持の魔道具を使っていたでしょう?ほら、蜂蜜パイを持ってきていただけたときです。あれにはどうやって魔力を込めていたのですか?」


そういえばと思い出したのか、アルトとアニも不思議そうな顔をしている。


「ああ。あれか。あれは、たまたま魔力屋が来た時に込めてもらったのだ」

「魔力屋ですか?それは文字通り、魔力を提供することを生業としている人と言うことでしょうか?」

「そうだ。と言ってもものすごく数が少なく、そのうえ引っ張りだこだから、ほとんど掴まえることが出来ないのだが…」

「はあ。そんな職があるのね。確かに、魔力持ちにとってはいい仕事かも」


アルトも知らなかったようで感嘆の声を漏らす。まあ、私たちには必要ないし、お人様とお姉様にももう必要ないね。そんなに魔道具があるわけじゃないから、私が魔力を込めればいいだけだ。頻繁にしなくちゃいけないわけじゃないから別に構わない。たまには帰っても来たいしね。


「そもそも、使えるほどの魔力を持って生まれる者は少ないですからね。はあ…どうしてわたくしは魔力を持って生まれなかったのでしょう…」


なんだか悲しそうなオリーヴィア。そう言えば昔、精霊だか精霊魔法に興味があるって言ってたっけ。まあ、魔力があったところでそれは難しいと思うけどね。私を通して精霊であるアルトとコミュニケーションを取れてるだけ、オリーヴィアは幸運なんだけど。


「まあ、魔力を持って生まれるかは運次第みたいなところがあるからね…親がどっちも魔力持ちだった場合は遺伝する可能性が高いけれど」


へえ。魔力って遺伝するんだ。ああ。そりゃそうか。アニだって魔導士の成り損ないってことだけど、先祖返りしたみたいなものだし。でも、私と接触しなければそうならなかった可能性も高い。姉妹として、多くの接触があるオリーヴィアが今も魔力が目覚めていないなら、残念だけど可能性はないだろうね。


「確か、父上は魔力持ちだったな。ハイデマリーが魔力を持って生まれたのは、父上の影響かもしれない」


毒の沼に落とされたせいですけどとは言えず、静かに頷くだけにとどめる。


「はい。魔力の補充は終わりました。これからまた今まで通りに使えますよ。あ、それと、そのお父様に会いました」


このままいくと、私の魔力の話に移っていきそうだから、話題を変えるためそう言うと、エーバルトとオリーヴィアの雰囲気が一気に変わり、その場が凍り付いたかのような錯覚を感じた。

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