第百五十話 封印の魔道具と脱出

 「せいゆう戦争?」


神器を奪った直後に響いた神の声が告げたのはその言葉。どうやって書くんだろう。さすがに声優ではないよね。となると星友とか成優とかかな。


「分からないことをここで考えても仕方ないわ。あんまり気分もよくないしもう出ない?あ、そうだ。一応、誰もここには入れないようにしておいた方がいいかもね」


そもそも、帰るために神器を奪ったんだからそれは良いんだけど、誰も入れないようにするってどうやればいいのかな。


「やり方わかる?」

「声に出すだけでいいのよ。本当は何個かやり方があるんだけど、面倒な登録があるからとりあえずそれでいいわ」


なんでそんなことまで知ってるんだろう。他にもどこかに似たような魔道具があるのかな。ただ単に教会を管理するための魔道具ってわけではなさそうだけどね。神々の扉だったっけ?名前からして仰々しいし。普通の魔道具なら魔力を込めた所で、神の声が聞こえたりはしないからね。


「了解。じゃあ、その前にこいつらを何とかしないとだね」


私たち以外の出入りを制限するって言うと、ここにいる枢機卿とシスターも「私たち」に含まれてしまうかもしれないからね。


「シスターはともかく、こっちのは枢機卿でしょ?いろいろ知ってることがあるかもだし、捕らえておきたいんだけど…」

「それでしたら、さっき丁度いいものを手に入れたじゃないですか」

「ああ。さっきの緑の玉ね。試運転も込みで使ってみよっか。封印の解除は、こっちで自由にできるんだよね?」

「出来るわよ。それが出来ないなんてとんだ欠陥魔道具じゃない」


そりゃそうかと軽く流しながら、枢機卿の方へ。ありゃ、気絶してる。なんか静かだと思ったら…ちょっと重力が重すぎたかな。あ、シスターもだ。もう重力魔法をかけておく必要もないね。


「これをぶつければいいんだよね」


確認のためそう呟きながら、緑の玉を枢機卿の頭を軽く小突くようにぶつけてみると、一瞬で吸い込まれ、枢機卿の姿は無くなった。これで封印が出来たってことか。なんか某赤と白のボールみたいだな…作った人は私と同郷なのかもしれない。


「これで良し。後はこのシスターをどうしようか」

「そのままほっとけばいいじゃないの。情報を得るのも一人いれば十分でしょ?」


イザベルがもう興味を失ったというようにそう言う。でもそれだと、ここの閉鎖が上手くできないんだよね。


「私たち以外の出入りを禁じるってことにすると、ここにいるシスターも私たちのなかに含まれちゃうかもしれないでしょ?」

「それなら、お嬢様の許可がないものの出入りを禁じて放置でいいのでは?二、三日なら死ぬことも無いでしょうし。気になるなら食料も少し置いておけば…」


確かにいい方法だね。許可制にしても特に問題は無さそう。そうしたところで、現在の事情を知らない他の関係者にも影響はないだろうし。これだけ人が通う教会だから、あんまり混乱させるのもよくない気がする。まあ、枢機卿という、トップに近い立場の人が行方不明になるわけだから、ちょっとした騒ぎにはなるかもしれないけど。でも、詳細を知っているのはこのシスターだけだから、私たちの関与が分かることは無いと思う。ここに来るまでにすれ違った関係者も私たちのことを詳しくは知らないだろうからね。


「じゃあそうするよ。――現時点を持ってこの部屋への許可のない入退出を禁じる」


念のため、神器の方へ向かってそう声を上げる。すると一瞬だけ強い光が放たれる。多分これがちゃんと私の条件が履行されたっていう合図みたいなものなんだろうね。


「ちょっと試してみよっか。イザベル。そのまま後ろに下がって―そう!!そこ!!たぶんその辺に出入り口があるから、そのまま進んでみて」


イザベルに指示を出して動かした場所は、タダの白い壁の前。でも枢機卿が入ってきたのはそのあたりのはず。ここに隠れた扉があるんだと思う。


「あ痛っ!!」


間抜けにそんな声を上げて壁に激突したイザベル。やば。まだ許可出して無かった。


「ご、ごめん。――イザベルの退出を許可する。もう一回やってみて」


おでこを少し赤くしながら、恨みがましい視線を向けながらもイザベルがもう一度壁の方に進むと、今度は無事に通過することが出来たみたいで姿が消える。多分、私たちがこの部屋に入ってくる前にいた通路に移動したんだろうね。





 確認が取れれば話は早い。アニのアドバイス通り、少し食料を置いて私たちも部屋を出てイザベルと合流。そのままテレポートだ。拠点に戻ったころは辺りはもう夜だった。教会内にそんなにいた感じはしなかったけど、随分と時間が経ってたみたいだ。



「枢機卿を尋問するのは明日以降にしよう。キースリング家の魔力の影響を受けない部屋も使いたいし、なんなら少しの間、封印しといて弱らせておいた方が都合もいい。……中で自決とかできないよね?」


夕食の席で、アルトに聞いてみる。今日のメニューはとんかつだ。わりと必要なものを手に入れるのが簡単だからか、よく出てくるメニューだ。でも、ソースが微妙なんだよね。


「大丈夫よ。中にいるときは意識がないってはなしだったから。そうじゃないと封印にならないでしょ?」

「じゃあ、明日か明後日向こうに行こうか。そのころなら大分弱ってるでしょ。食事を文字通り餌にすれば、色々話してくれると思う」

「オリーヴィア様とエーバルト様も学院から戻られる時期ですから、もしかするといらっしゃるかもしれませんね」

「そのエーバルト様からお手紙が届いておりますよ」


アニがそう言った直後に壁際で控えていた執事の一人がそう言う。もしかすると学院から戻ったっていう連絡かもしれない。通信の魔道具が魔力切れだから手紙で連絡してきたんだと思う。


「あとで見せて頂戴」

「かしこまりました」


 そこからは、いつものように雑談を交えながら食事は進み、デザートと食後のお茶を済ませた所で、エーバルトからの手紙を読むことにした。書かれていた内容は、学院から戻ったという内容と、通信の魔道具が魔力切れになったから近いうちに補充してほしいって内容だった。やっぱり魔力を補充する手段は持ってないのかな。日付は一週間前か。届くのが遅いのは手段が馬車しかないからだけど、ちょっと煩わしいよね。返事はいらないって書いてあるから書かなくていいか。手紙が届くよりも私たちが行った方が早いしね。お父様のこととかいろいろ話したいこともあるし、ちょっと楽しみになってきた。そんなことを考えながら、ベッドに入るころには、私の頭からせいゆう戦争のことなどすっぽり抜け落ちてしまっていた。

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