第百五十八話 王都でお買い物
そして翌日、現在午前八時。お父様との通信の後、日が暮れるまで車を走らせ、朝一には到着できそうなところで拠点へ帰還。夜も車を走らせるのは出来ないわけじゃないけど、町の外に街灯が無いこの世界だと夜に車を走らせるのは危ないからね。
「ここがナハトブラオの王都…向こうの王都と雰囲気は変わらないですね」
検問を通過し、王都の中に入って少し歩いたところでアニがそう呟く。雰囲気は確かにそんなに変わらない。朝八時っていう早い時間だからか、まだ人の姿はまばらだけど。強いて言うなら、ちょっと建物と建物の隙間が狭い気がする。
「石造りの建物ばっかりね」
「そんなの、どこにだってあるじゃん」
「そうだけど、ほらよく見て。木造の建物がほとんどないわ」
アルトとイザベルのその会話を聞いて周りを見てみると、確かに木造の建物の姿はほとんどない。木材で立てた方が加工も楽で安く済むはずなのに、どうしてだろう。富の象徴とかそういうのを誇示するためなのかな。他の町は普通に木造の建物もたくさんあったし、この国全体ってことはないと思うけど。
「どうしてだろうね」
そんなどうでもいいことを話しながらゆっくり町の中を進んでいくと、第一魔道具店を発見した。門を抜けてから五分くらいの入り口からすぐのところだ。さすが魔道具の国だね。
「入ってみましょうか」
四人して顔を合わせた後、で魔道具店の扉を開ける。さすがに魔道具の国といっても、自動ドアの魔道具とかはないよね。
私たちが入った魔道具の店は、常用魔道具店というお店らしく、魔力が無い人でも使える、灯りの魔道具のように使い捨てタイプの魔道具店だった。要するに最初に込められている魔力が尽きたら終わりの物ってことだ。魔力炉も非搭載ってことだね。
店に置いてある魔道具は灯りの魔道具に時計、火をつける魔道具なんかだね。私たちが持っていない物は…あ、これ良さそう。花を活ける魔道具。見た目は普通の花瓶だけど、勝手に水が出てきて、その水も汚れることが無いんだって。拠点に置いておいたらいいかもしれない。花を飾ってあることも多いしね。他にはどうだろう。常用利用って言うくらいだからあんまり特別なものは置いてないかもしれないけど。色々見てみよっかな。
結局この店で購入したのはさっきの花瓶を三つ。アルト、アニ、イザベルは特に欲しい魔道具が無かったみたい。持ってるものとか、魔法で再現できるものが多かったからね。
「じゃあ、次の魔道具店へ行ってみよう!!」
店を出た所でそう言ってみる。ちょっとテンションが上がってきた。ドラックストアとか百円ショップとか雑貨屋とかそういうところに行った時の感覚。わかるかな?
「今日は一日町を見ながら買い物の日にしましょうか。魔道具だけじゃなくてほかにも必要なものはあるでしょ?この間、保存食も放出しちゃったし、ハイデマリーも服のサイズが合わなくなってきたんじゃない?」
そうなんだよね。成長促進の魔法の影響で身長が伸びるのが早いこと早いこと。すぐ裾が短くなったり丈が合わなくなっちゃうんだよね。そのくせ、育ってほしいところは育たないし…
そんな感じで、今日は買い物の日ってことになった。イザベルも最近お金を稼いでいたから、服を買ったり、買い食いしたり、使う機会があって嬉しそう。ちょっと高かったけど、小説なんかも買っていた。この世界には印刷技術が無いみたいで紙はそんなに値段は高くないけど、本はまだまだ高価なんだよね。何せ全部手書きだし。この前買った聖典もどきも全部手書きだった。あれを手書きで量産できているのはすごいけど、多分、文字が書ける信者に書かせてるんだと思う。そうすれば人件費なんかもかからないから、かかる費用は紙とインクと製本代だけで比較的安く売ることが出来るからね。ちなみに、イザベルが買った小説は、スポーツ物語。私が知らない「シュトレイヤー」っていう競技が題材になっているらしい。アルトとアニも知らないみたいだけど、イザベルは詳しいみたい。なんでも、少人数で行う、魔物狩みたいな競技らしい。まず、指定の魔物をランダムで決めて―少し体格が良い人なら倒せるくらいの魔物が選ばれるみたいだ。その魔物を生きたままなるべく弱らせずに捕まえてくる。捕まえてきたら今度はそれをなるべく早く討伐する。その合計時間が短いチームの勝利みたいな競技なんだって。……何が面白いんだろう?イザベルによると、結構迫力があって面白いって話だけど、実際に見たことのない私にはさっぱりだ。娯楽が少ない世界だから、そういう、ちょっとした競技が流行するのかな。魔物討伐なら素材を売れば小金にもなるだろうしね。
私が買ったものは、動きやすい服と、礼服としてのドレス。後は魔道具とこの国の歴史書だね。こういう服も何かと必要な時があるんだよね。エーバルトとオリーヴィアに会う時とか。冒険者としての服装をしていくと、貴族の女性らしくないとか苦言を呈される。別に安い服を着てるわけじゃないんだけどね。冒険者の活動をしたり、旅をしたりするうえで、ひらひらが多い貴族の衣装やドレスは不向きなんだよ。
歴史書を買った目的は、聖勇戦争のことが書いてあるかもしれないっていうのと、この国がどうして魔道具の国になったんだろうっていう疑問からだ。まあ、多分魔力炉の量産に成功したからだと思うけど、そもそもなんで魔力炉を作ろうとしたのかが気になるよね。厚さ五センチくらいある分厚い本だけど、読むのが楽しみだ。
後は魔道具だけど、私が買ったのは録音の魔道具。何かに使えるかもしれないと思って買ってみた。トラブルが起こった時の証拠とかに使えそうだからね。自分で作るのは、ちょっと魔力炉がもったいないし、見つけられたのはラッキーだ。他に欲しいのは、映像を撮ることが出来る魔道具―言うなれば録画の魔道具かな。これはさすがに見つけることが出来なかった。私も一度作ろうとしたんだけど、映像を撮るっていうことを魔法に落とし込むのが難しいんだよね。なんなら創造魔法で再現することすら難しいかもしれない。だって、撮影のイメージって難しすぎるでしょ。カメラが映像を撮っているところをイメージしても、それで再現できるのは、撮影が出来る魔法じゃなくて、中身が空っぽのハリボテのカメラだし。うーん。どっかに売ってないかなあ…記録の魔道具―写真機があるならビデオカメラだって誰かが作ってる可能性もあると思うんだけど。ほしいなあビデ
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