第百五十九話 鍛造依頼
「じゃあ、次は鍛冶屋に行きましょう」
一通り買い物を終えた後、アルトがそう言う。アルトは、魔道具をいくつか買ったみたいだけど、何を買ったかはまだ秘密らしい。なんでも、それらを組み合わせて別の魔道具を作るつもりだとか。完成までのお楽しみってことだね。
「鍛冶屋ってことはついに…」
「そう。一角獣の角を使ってアニの武器を作るのよ!!」
おお!!ついに…今まで通ってきた町の鍛冶屋だと、素材が扱いきれないって理由で断られてたんだよね。設備が追いつかないってことだった。角を加工する前に加工するための道具が持たないってことらしい。王都の鍛冶屋なら何とかなるだろうってことで、どこの鍛冶屋に行ってもみんな同じ店を紹介してきたから、おそらく、国一番の鍛冶屋なんだと思う。魔道具を使って加工したりするのかもしれないね。それだったら、ブランデンブルクの鍛冶屋よりも良い物が出来るかもしれない。
「私も楽しみです」
「結局、何を作るかは決めたの?」
「やっぱり大鎌にします。あれが一番手に馴染みますし、今使っているものは素材がそんなにいいものでは無いので、すこし錆びてきてしまっているんですよね。手入れを怠ったつもりはないのですが、魔物の血なんかが付着してしまうとどうしようもなくて…」
あの角の大きさなら鎌なんて簡単に作れるサイズだし、大丈夫だと思う。長さも太さも申し分なし。鎌の刃部分の形に加工するのは難しそうだけど、そこは国一番の鍛冶屋に期待しよう。
「そういえば、アニは何も買ってなかったね」
鍛冶屋を目指す道すがら、イザベルがアニにそう聞いている。
「特に欲しいものも無かったので。服なんかの必需品はそろっていますし…」
アニは他のみんなと違って、物欲が全然ない。遠慮しているとかそういうことじゃなさそう。拠点に家具とかをそろえる時はそんな様子は無くて、自分の気に入ったものを買っている感じだったしね。まあ、この世界だと、お金を使う機会も結構限られてるし。生活必需品に、食べ物に魔道具、後はそれこそ本くらいじゃない?私たちみたいな職業の場合、そこに武器も入ってくるけど、それは道具を買うっていう観点で見れば、どんな職の人も同じだし。とにかく、この世界は娯楽が少なすぎてお金の使い道も限られてきちゃうわけだ。カラオケも、ボーリングも映画館もないからね。音楽のコンサートとか、演劇とかはもしかしたらあるかもしれないけど、私は見たことない。やってたとしても、貴族エリアとかだと思う。あそこに長居はしたこと無いからね。新たな娯楽を見つける旅って言うのも面白いかもしれないね。
「アニはもっと趣味を持った方がいいわよ」
話を聞いたアルトがそう言う。
「アルト様には趣味があるんですか?」
「あたし?あたしはやっぱり魔道具集めと貯金かしら」
いや、貯金って…今はアニにもっと好きにお金を使えばいいって話じゃなかったの?
「ハ、ハイデマリーはどうなの?」
自分で言っていておかしいと思ったのか、少し慌てた様子で私に話を振ってくる。私の趣味か…向こうの世界だったら、たまの空き時間に映画を見るとかだったけど、こっちだと…
「やっぱり、魔道具作りかな。あ、あと、使えそうな魔法を考えるとか」
自分で言っててなんだけど、これじゃ全然参考にならないね。魔法を考えるなんて私しかできないし、魔道具作りも知識がないと無理だと思う。私の場合は創造魔法と組み合わせて作っているから何とかなっているだけで…
「なるほど…仕事に生かせるような趣味が良いですかね…」
そんな就活生みたいなことを言うアニ。違う、そうじゃない。
「イザベルはどう?」
「わたしはやっぱり賭け事かな!!」
あら、てっきり、さっき言ってたシュトレイヤーとかかと思った。もしかすると、勝敗とかが賭けの対象になってたのかもしれないね。
「私はあんまり賭け事は好みではないのですが…私にとっては、今旅をしていること自体が趣味のようなものですから、あまり気にしたことがありませんでした」
はあ、なるほどね。確かにそう考えれば納得かも。旅行が趣味みたいなことでしょ?
「まあ、やりたいことがあったら何でも挑戦してみればいいんじゃない?」
「そうですね。少し考えてみます」
そんな話をしていれば、鍛冶屋に到着。扉を開けると、相変わらず熱気がすごい。同じ建物内に窯を入れるのはやっぱりよくないと思う。煙突みたいなのが出ているから、一酸化炭素中毒とかになることは無いと思うけど…
「いらっしゃい」
店に入って声を掛けてきたのは、二十代前半位の頭をスキンヘッドにしている細身の男。鍛冶職人って感じのイメージじゃないけど、この人が責任者っぽいね。今までいろんなお店を渡り歩いてきた経験から、接客担当が大体責任者ってことが多いからね。
「どうも。鍛造依頼をしたいんだけど…」
アルトが店の様子を見ながらそう声を掛ける。あんまり儲かってる風には見えないね。閑古鳥が鳴いてるって程ではないと思うけど。鍛冶屋は釘とか扉の蝶番とかそういう金属製品も作っているから、武器が売れなくても何とかなるんだと思う。この国は余計に武器が売れないだろうね。攻撃能力がある魔道具だって存在しているだろうし。私たちが持ってる電撃の魔道具みたいなやつとか。
「鍛造依頼なんて久しぶりだな…素材は持ち込みかい?」
「ええ。これで大鎌を作って欲しいのよ」
そう言いながら一角獣の素材を収納魔法から取り出し、カウンターの上にドンと乗せるアルト。よくあんな重い物持ち上げられるな…身体強化無しの私じゃ、持ち上げるどころか少し動かすことすらできなかったのに。
「こんなものどこで手に入れた?」
一角獣の角を見て、一気に怪訝な顔になる。もしかして、どこかから盗んできたとでも思っているのだろうか。私たちの服装から結構なお金持ちであることは分かるだろうに。貴族とまではいかずとも、平民の大富豪くらいには見られるはずだ。
「あたしたちが狩ったのよ。ほらAランク冒険者だから」
アルトがギルドカードを見せながらそう言う。
「もしかして、お前たちが今噂になってる世界最高ランクパーティ―か?確かに若い女性だけのパーティーって話だったな…」
あら、そんなに噂になってたの?Aランクが複数所属しているパーティーは私たちのほかに存在しないらしいから、世界最高ランクって言うのは分かるけど。そんな噂になるようなことしたっけ?
「噂?」
イザベルも気になるみたいで不思議そうな顔をしている。
「あ、ああ。何年も完遂されることが無かった国難レベルの依頼をものすごいペースで攻略している冒険者パーティーがいるらしいって、結構な騒ぎになってるぞ。この国は冒険者の地位が低いからな…みんな驚いているんだろう。まあ、この都市にはそんな偏見を持つ奴はあまり見かけないが…」
私たちに来ていた個人依頼は相当難関なものだったみたい。そこまで苦労した依頼は無かったけど、ハイペースで攻略してたのは間違いない。ちょっと尾鰭が付いている感は否めないけど、概ね間違いない。
「この素材は、その依頼で取った物ってことだな。分かったこっちも依頼を受けよう。それにしても大鎌か。具体的にどういう感じにしたいとかはあるか?大きさとか…」
「こういう感じでお願いします」
そう言いながらアニが普段使っている大鎌もカウンターの上に置く。実物があった方が向こうも作りやすいだろうし、こっちも説明が楽でいい。
「了解した。少し時間が掛かると思う。そうだな…半月ほどか。完成したら使用者に直接持ってもらった後、調整がいるようならもう少し時間をもらう。料金は受け渡しの時でいい。何せこれだけの素材だ。どれだけ道具を使い潰すか分からん。…金貨を少し多めに用意しておいてくれ」
確かに、削ったりして形を整えるだけでも、砥石とかものすごくたくさん使いそう。
「分かったわ。じゃあお願いね」
アルトがそう言うと、アニが大鎌を回収してから店を出る。完成が待ち遠しいね。アニが窯を持っている姿はカッコ良いから早く見てみたいところだ。
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