第八十一話 尋問
衛士の一人に、捕まえてきた女を例の魔法的干渉をされない部屋に運んでもらい、今度は椅子に縛り付けてもらった。もちろん、衣服以外の持ち物は没収。ナイフに財布。あとは伸縮する警棒みたいなものをもっていたね。通信機能が付いた魔道具とか持ってる可能性はあったけど、見た感じそれは無かった。
現在、この部屋にいるのは、私とアニ、アルトとエーバルトそれに情報を書き留めてくれる文官が一人だ。尋問をするのにたくさん人は必要ないからね。
「この女が侯爵家からの刺客か…」
エーバルトが気絶したままの女を見ながらそう言う。この国ではあまり見かけない深紅の髪。それをポニーテールにしている。顔も結構美人だ。もしかしたら、ハニートラップを仕掛けるという線もあったのかもしれない。
「まさか、女だとはな。あのパワーだ。もっとガタイのいい男だと思っていたが…」
実際に殴られたエーバルトがそんなことを溢す。たしかに、私もパワータイプを想像してたからすこし意外ではあった。
「とにかく尋問してみないことには、正体も分からないでしょ?さっさと、起こさないと…」
アルトが早く始めようといった顔でそう言う。まあ、時間も無いことだしそれに従う。
「そうだね。」
縛られている女に近づき、軽く顔をペチペチと叩いてみる。すると、ゆっくりと瞼が開かれた。その瞳は髪と同じ紅色でなんだか狂暴そうな印象を受ける。
「お、起きたね。今の状況、分かってる?」
女に対してそう告げると、辺りを見回し、自分が縛られているという状況を認識したらしい。顔つきは意外と冷静だ。
「状況は分かってもらえたかな?それじゃあいくつか聞きたいことがあるんだけど――」
私がそう告げた途端、女は白目をむいて、泡を吹きだした。
「毒か!!」
エーバルトがそう言う。セオリー通り、口の中かどこかに仕掛けていたんだろう。まあ、無駄なんだけどね。女に触れて、そのまま浄化を発動。数舜待てば、あっという間に快復だ。
「無駄だよ。毒なんて何度使っても治せるから。舌を噛むのも意味ないよ。それだってすぐに治せるから。簡単に死ねるだなんて思わないことだね。」
この世界の捕虜に関する決まりは、殺してはいけないというものしかない。ただ、逆に言えば、殺していなくても、死なせてしまえばその決まりを破ったこととなり、戦後、非難を受けたり、それを理由に賠償の交渉を進められるかもしれない。なるべくそれは防ぎたい。
「言っておくけど、決まりだから殺さないだけで、それに近い状態にすることは出来るからね。例えば、意識以外の五感をすべて奪って、動けないようにするとか。それは気が狂う程、苦しいって聞くし、そうなりたくなければ聞かれたことには素直に答えた方がいいよ。」
自分が生きていることに驚愕している様子の女にそう告げる。これで話す気になってくれればいいんだけど…
「まず、あなたの名前を教えてもらえるかな。」
そうだ。嘘を判断できる魔法を創っておこう。何かと便利そうだし。嘘をついたら軽い電撃が走るみたいな感じにすれば話も進みやすい。トリガーは相手にも分かりやすいし、魔法名でいいね。
「嘘感知。」
そう言うと、ほのかに女が光を帯びる。よし。大丈夫そうだ。
「今、あなたに嘘をつくと電撃が走る魔法をかけた。ちなみに、質問に答えなくても同じことが起こるから。」
最後のは嘘だけど、これで話す可能性が上がるなら言っておくに越したことは無い。
「名前は、アメリア、アメリア・ハインケス。ヘルマン侯爵からの命令でキースリング伯爵を誘拐しに来ました。」
勘弁したのか、ポツポツと質問に答え始める。やっぱり誘拐が目的だったのか。電撃が走ってる様子もないし、嘘じゃないね。
「誘拐の目的は?」
「分かりません。」
その直後、彼女に青白い稲妻が走る。かろうじて、声は抑えたみたいだけど、だいぶ苦しそうだ。
「言ったでしょ?嘘はつかない方がいいって。さあ、正直に話して。」
「エグイわね…」
後ろでアルトが引いている気がするけど、目的のためには仕方ない。
「目的は…一番の脅威の抑止力になるからだそうです。それ以外は聞いていません。」
私に対する人質だね。攻撃してきたらエーバルトを殺すとか言うつもりだったんだろう。
「それじゃあ、そっちの兵力は?」
「軍属が千、志願兵が二百ほどです。」
「その中に魔法使いは?」
「十人もいないと思います。」
それなら警戒しなくてもよさそう。
「千二百か…」
一つの領が持つ兵力としては桁違いなんだろう。数の差は圧倒的だね。まあ、こっちは量より質だ。
「魔法を封じる手段を用意していたりする?」
「分かりません。」
まあ、そうだろうね。そこまで教えられているとは考えにくい。
「他に聞きたいことありますか?」
私が聞いておきたいのはこれだけだ。ただの刺客にそこまで大きな情報を持っているとも考えにくいしね。でも、エーバルトが聞きたいことがあるかもしれない。選手交代だ。
「ああ。なら、一つだけ。進軍開始はいつからだ?」
そう言えば聞いてなかった。
「正確なところは分かりませんが、準備ができ次第と聞いています。明日中には開始されるのではないかと…」
「明日中か。大体予想通りだな。まあ、こんなものだろう。あとは地下牢にでも閉じ込めておいて、他に何か思いついたときでいいだろう。」
妥当なとこだね。
「そうですね。よろしくお願いします。」
エーバルトが書記係の文官に一声かける。どうやら衛兵を呼びに行かせたみたいだ。
「それにしても、あなたどこで尋問術なんて覚えたの?」
アルトがそう聞いてくる。
「私も気になってました。」
アニも同意している。エーバルトも興味深そうな顔だ。だけど、答えられることはあんまりないね。
「独学だよ。そもそもやること自体、初めてだし。」
「そうなのね。てっきり前世で――」
そこまで言って、口をつぐむアルト。エーバルトがいることを思い出したんだろうね。幸い、彼も問い詰めてくるみたいなことはしてこなかった。
「それじゃあ、今日はもう休むといい。いろいろあって、疲れただろう。明日には開戦する可能性もあるしな。食事が必要なら、後で届けさせるが…」
「それじゃあ、お願いします。元気が出る食べ物がいいですね。」
こういう時は精をつけておかないとね。
「分かった。」
「では、私たちは部屋に戻りますね。」
「ああ。ゆっくり休んでくれ。」
こうして、エーバルト昏倒騒動は幕を閉じた。必要な情報も知れたし。結果的にはよかったかな。
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