第百四十一話 一角獣の売却準備
一角獣の解体を終えた後は、イザベル含め、みんながナハトブラオまで戻る気力もなく、午後からは休息日ってことになった。慣れない船旅の疲れも完全に取れていたわけじゃなかったからね。新しい土地に踏み出すなら、万全の状態の方がいいだろうし。
夕食には英気を養う的な意味で一角獣のお肉料理を出してもらった。私のリクエスト通り、メインは唐揚げだった。パンを作る時に使う小麦粉を使っているからか、なんか一味足りない感じなんだよね。小麦粉で作るのが悪いんじゃなくて、小麦粉自体の質があんまりよくない感じ。なんというか、サクサク感が足りない。でも、お肉そのものは美味しかった。私、前世でも海の生き物のお肉は魚以外、食べたことが無かったから、新鮮な気分だった。獲ってから数日経っている上に、冷凍までしていたんだから、お肉に新鮮味はなかったけどね。味的には、私が食べたことあるものの中で一番近かったのは鶏肉かな。鶏肉特有のパサパサ感が無くなって、少し塩味が追加された感じだ。最初は、塩を振りかけたんだと思っていたけど、どうやら、素材そのものに、塩味が付いていたみたいなんだよね。料理人たちも、味見の段階でびっくりしたって言ってた。海に住んでるからって、塩味になるなんて話は聞いたこと無いし、一角獣特有のものなのかな。塩分を吸収しやすい性質だとか。今度魚でも捕まえて食べてみよう。それで塩味が付いていなかったら、一角獣特有の性質、もし付いていたらこの世界の海洋生物か、海の性質ってことになる。この前、お店で食べたお魚は味付けされていただろうし、自分で捕まえるか、調理前の物を買うしか確かめる方法はないと思う。一角獣だけの性質じゃなかったら、味付けの手間がなくなるし、保存食とかにも向いているかもしれないね。
そんなわけで翌日。今日は、まずナハトブラオの冒険者ギルドに行って一角獣の素材の引き渡しをするつもりだ。それをサクッと終わらせたら、ナハトブラオの中心、首都に向かう予定。首都まで進めば、魔道具のお店なんかもあるだろうしね。私個人的には、この、ファクラーの町から離れてれば離れているだけいいと思う。距離があればあるほど、間にある町や村が多くて、いろんなところを見られるだろうしね。
「国王陛下が買い取りたいっていう、一角獣の素材を持ってきたんだけど…」
冒険者ギルドに着くなり、ギルドカードを見せながら、そう受付に声を掛ける。今日は、受付に全然人がいなくて、立ってするタイプの受付を使っている。というか、この受付にしか、受付嬢がいない。身長が伸びたことで、こっちを使っても、顔が見えなくなることは無くなった。まあ、精々首から上くらいしか見えてないだろうけど。
「お話は伺っております。ですが、皇室側から、一度冒険者ギルドが買い取る形をとるのではなく、直接買い取りたいという打診を受けています…相場や価格の参考として、私共の参加を頼まれている状態です」
ああ、冒険者ギルドを介するってそういう理由だったんだ。てっきり、最初に言われた通り、一度素材をギルドに売却して、それを王家が買い取るんだと思ってた。だけど、それだとちょっと困ったな…早く買い取りに来てもらわないと、なかなか移動ができないんだけど…
「こちらから連絡を取れば、すぐにでも買い取りに来ていただけるように、人員確保していただけているみたいなので、もう連絡を送っても大丈夫でしょうか?」
なんだ。王族ってなんとなく腰が重そうなイメージだったから、時間が掛かりそうって思ってたけど、すでに準備は出来ているみたいだね。だったら早く呼んでもらった方がいい。一角獣の素材は、冷凍しているとはいえ生ものだしね。
「じゃあ、お願いしようかな。どのくらいで到着するかわかる?」
「素材買取の担当者は、昨日の内に外交官本部に到着、待機しているようですから、簡単な準備さえ済めば、すぐだと思いますよ」
この町に担当者を向かわせてきちゃったのか。冒険者ギルドはどこの町にもあって、必ずしもこの町で売るとは限らなかったのに…保存の観点でこの町で売るって思っていたとしても、仮に私たちが状態維持の魔道具みたいなものを持っていたとしたら、それこそ、いつ、どこで売却するのか分からなかったはずだ。もしそうだったら、どうするつもりだったんだろう。人員が豊富で、どこにでも担当者を送れるような状態なのかな。
「分かった。じゃあ、ここで少し待たせてもらうよ。取引はどこですればいいかな?一角獣の素材はものすごく大きいから、室内だとちょっと厳しいかも」
冒険者試験をした部屋くらいの広さがあればギリギリ大丈夫だと思うけど、このギルド支部で試験を行っているかは分からない。
「はい。存じております。取引自体は、来賓室で行い、受け渡しは、普段、買い取った素材の一時保管場所として使っている、ギルド所有の裏の空き地で行うことになります。大きな状態維持の魔道具をお持ちになるようですから、それだけでも、室内で行うのは厳しいと連絡を先方から事前に受けていましたので。」
今回の担当者は優秀そうだね。それに、アルトの予想通り、大きい状態維持の魔道具も存在するみたいだ。そんなに大きいものじゃなくていいけど、私も欲しい。材料が揃ったら作ってみようかな、
「了解。じゃあ、来賓室で待たせてもらってもいい?」
「もちろんです。ご案内いたします」
「パーティーメンバーを呼んでくるからちょっと待ってて」
受付嬢にそう告げてから、いつものように依頼掲示を眺めているアルトたちを呼びに行き、そのまま来賓室へ。移動中、どんな依頼があったか聞いてみたけど、やっぱり碌な依頼が無かったみたいだ。採集系と弱い魔物の討伐、あとはお使いばっかりだったって。依頼を受けるなら個人依頼になりそうだね。今はまだ、私たちがナハトブラオに来たことが知られていないから、来ている依頼は少ないだろうけど、高難易度の魔物の討伐依頼を私たちに出すみたいなことをラインハルトやノーアが言ってたし、その依頼をこなしていけば、次第に増えていくと思う。……依頼を受けてたくさんお金を稼いで、便利な魔道具をたくさん買うんだ!!
「では、到着まで少々お待ちください」
お茶を用意してくれた受付嬢が出ていくと、来賓室の中を見渡してみる。雰囲気は、ブランデンブルクで何度か入った応接室と似た感じだった。国によって呼び方が違うだけかもしれない。
担当者を待つ間に、ギルドから受けた説明を簡単にみんなに説明しておく。特に難しいことは無かったし、全員すぐに理解できていた。
「やっぱり状態維持の魔道具を持ってくるのね。素材を細かく切らなかったけど、中に入りきるかしら」
「もし入りきらないようでしたら、その時に入りきるように切って差し上げればいいのでは?向こうが何かしらの手段を講じている可能性もありますし。」
「わたしはいくらで売れるかが気になる」
イザベルは一角獣討伐の時、船内で色々動き回ってくれていたらしい。主には、スピードアップをするための船長の手伝いみたいな感じだったみたいだ。いろいろ頑張ってくれたのに、特に一角獣の素材を欲しがらなかったし、興味も無かったみたいだから、なにもご褒美を上げることが出来ていない。頑張ってくれたのに、それだとさすがにかわいそうだからと、売値の一部を渡すことにした。イザベルもウィザーズのメンバーとして登録しているけど、報酬の面に関しては少し違っている。私と、アルト、アニは稼いだお金は全て三人の物で、収納魔法に保管するって形を取っているけど、イザベルに関しては私たちの雇われみたいな扱いだ。だから、こういう形で、その時に応じて何か褒章を渡すっていう形にしてある。ちなみに今回は、売値の二割を渡すことにした。額が少なかったら三割くらいに増額しようと思っている。
「どうでしょうね。角と心臓、それに肉も半分無いわけだから、そこまでけた違いに高くはならないと思うけど…金貨数十枚ってところかしら」
「数十枚…」
その売値でも、イザベルには結構なバックが入ることになるからか、うれしそうな顔をしている。ホクホク顔だね。船の賭場で少し稼いでいたとはいえ、お金を稼ぎ始めたのが最近だから、自由にできるお金が私たちほど多くないからね。
そんな話をしながら、二、三十分ほど待っていると、部屋の扉がコンコンコンと三回ノックされる。どうぞ。と返事を返すと、扉が開かれ、さっきの受付嬢と、三十代後半くらいのどこかで見たことのある男が立っていた。
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