第十三章 魔道具職人ハイデマリー

第百六十五話 お父様襲来

 魔力石の採集依頼を終えて数日が経過した今日はお父様との約束の日。もちろん、エーバルトとオリーヴィアもうちの拠点でお父様と会う予定になっている。昨日の夜から二人はうちの拠点に泊まっていて準備も万端だ。お父様を含めた三人が何を話すのかは気になるところだね。積もる話もあるだろうし。簡単な経緯とかは私が話したけど、詳しいことも聞きたいだろう。でも、一応実の父親とは言え、他国の貴族ってことで警戒しているみたいだし、素直に話し合いが出来るかどうかは微妙なとこだろうね。なんというか、貴族同士の社交みたいになりそうだ。オリーヴィアは社交が得意みたいだけど、親子としての交流はできるのだろうか…


「じゃあ、私はお父様を迎えに行ってきます」


いつもより少し賑やかな朝食を終え、軽くお茶を飲んだところでみんなにそう声を掛ける。オリーヴィアとエーバルトがいるから口調はいつもと変えているわけだけど、ホントは煩わしくて嫌なんだけど、だからと言って砕けた口調を取ると、淑女らしくないとか言われて無駄にお説教を受けることになる。貴族は上下関係を気にしすぎなんだよ…まあ、普通は貴族に生まれたら貴族として生きていくようになるわけだから、無視するわけにはいかないんだろうけどね。


「ええ。よろしく頼むわ。くれぐれも気を付けるのよ」


オリーヴィアのその声に軽く頷きを返しながら、私はテレポートを実行。そんなに心配しなくても、ファクラーの町へちょっと行くだけなのにね。行く先が海外だからなのかもしれないけど、別に治安だってブランデンブルグと変わらないのにね。まあ、それだけ情報が無いってことなんだと思う。私たちもナハトブラオに行くまでは、そこまで情報があったわけじゃないから、エーバルトたちが情報を得るなんてほとんど無理だろうしね。世界中に点在している冒険者ギルドから情報が得られるわけでもないし、没落間近だった伯爵家にそんな伝手があるとも思えない。


 「さて、待ち合わせ場所に行かないと」


 待ち合わせ場所は、この町の冒険者ギルド。この町で一番目立つ建物はそこだからね。町自体は、貴族エリアのように清潔に管理されているけど、そこまで規模が大きいわけじゃないからね。ほかに目立つ建物と言ったら外交省本部もあるけど、そこを待ち合わせ場所にするのはちょっと憚られる。外交官二人と面識があるとはいえ、そんなところでウロウロとしてたら怪しまれて警備とかに捕まりそうだし。





 「やあ、ハイデマリー。今日はよろしく頼むよ。事前に言ってた通り、何日か滞在させてもらうことになりそうだ」


 ギルドに着くと、すでにお父様が待っていた。少し大きめの鞄をもって、いかにも旅行客といった装い。着替えとかそういう必需品が入っているんだと思う。


「ええ。精一杯もてなさせていただきます。では、立ち話もなんですし、いきましょうか。お手を」


エスコートをするかのようにお父様の手を取ると、再びテレポート。今度はいきなり拠点の中に移動するのではなく、門の前に移動することにした。初めて来る人を連れてくるときは、警備の関係上、一度アグニに声を掛けることにしているからだ。拠点内にいきなり知らない反応があると、すっ飛んでくるからね。仕事に忠実ってことだからそれは全然いいんだけど、戦闘態勢でくるわけだから、ちょっと危険なんだよ。


 「やあ。アグニ。お客さんだよ。しばらく滞在するからそのつもりでお願い」

「了解いたしました。ようこそ我が主の館へ」

「ああ。よろしく頼むよ…」


あれ、ちょっと怯えてるのかな。若干声が震えている。もしかするとアグニの正体を見破ったのかもしれない。


「ハイデマリー、今の彼は…」

「ええ。人間ではないですが、優秀ですよ。一応こちらに危害を加えられないようにはなっていますから、安心してください」

「やはりか。さすがに人間以外の者を雇用しているのは驚いたな…全く、君の発想には驚かされる」

「それほどでも」

「褒めているわけではないのだが…それにしても、立派な庭園だな…」


門から屋敷までの道すがらお父様が感嘆の声を漏らす。私はあんまり庭に興味は無かったけど、屋敷の顔だっていうオリーヴィアの言葉は間違っていなかったみたいだ。ちゃんと整えさせておいてよかった。


「私も初めは庭なんてどうでもよいと思っていたのですが、お姉様が屋敷の顔になるからということで、整えさせたんですよ」

「まあ、間違ってはいないが、君たち個人の屋敷に貴族の習わしを取り入れる必要はなかったのでは?」

「竣工式で、この地の領主を招きましたから、放置しておくわけにもいかなかったんです」

「そういえば、ここはキースリング領ではなかったな。それにしても領主が直接か…」

「私たちの冒険者としてのパーティーのファンだそうですよ」

「ファン…」


顔を引き攣らせているお父様。まあ、この世界で普通に生きているだけじゃあ、ファンなんて付くわけないからね。アイドルでもあるまいし。


 「そろそろ入りましょうか」


軽く庭を見てまわった後、そう声を掛け拠点の中へ。


「キースリング家とかわらないな…」

「一応、あそこを基にしていますからね。その方が話を進めやすかったものですから。ですが、こういっては何かもしれませんけど、暮らしやすさは段違いですよ」

「魔道具を導入していればそうだよな。魔力を消費しない魔道具なんかがあれば、世界中の生活レベルが上がるんだろうが…」


科学技術が発展すればそうなるだろうけど、まだまだ長い道のりだろうね。そっち系の知識は私には無いからちょっと難しい。


 「こちらです。お兄様とお姉様も来ていますよ」


長い廊下を進み、ダイニングへ。扉を軽く開くと、少し緊張したかのような空気が内外で流れた。

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