第百六十四話 魔力石の入手と調査
「やっと頂上ね」
魔力岩(微弱)に含まれる魔力が進んでいくにつれて徐々に多くなっているのを感じながら、長いこと進んで行き、ようやく最初の魔力石がある場所までたどり着いた。中腹の辺りから岩が増え始めたため、予想よりもだいぶ時間が掛かってしまった。まだ頂上までは少し距離があるけど、気が早いのかアルトがそんなことを言っている。
「魔力石がこの辺りにあるのは間違いありませんけど、いったいどれがそうなんでしょう?こうも岩が多いと見ただけでは分かりませんね」
アニが少し面倒そうにそう呟く。だったら魔力感知を使えばいいじゃないなんて思ったけど、それもあんまり役に立たない。近づくまでは魔力感知に反応していなかった不完全な魔力石まで反応するようになってしまった。一か所にここまでの魔力反応が集まっているのは初めてで、どれがどれなのか全く区別がつかない。魔力の量は雑多であるくせに、種類が一種類だけだから余計に難しい。
「同じ種類の魔力がこれだけ一か所に集まることは他にないから、魔力感知でも探すのは難しいでしょうね…」
魔力に関してはエキスパートであるアルトでも難しいのか。となると、最悪、虱潰しに確認していかなければならないかもしれない。もう日没までそんなに時間があるわけじゃないし、なるべく避けたいところだけど…
「あ…」
さてどうしたものかと頭を悩ませていると、まずいことに気が付いてしまったというようにイザベルがそう漏らしたのが聞こえた。
「何か思いついたの?」
「いや、その…」
続きを促すと、しどろもどろな様子で視線を彷徨わせる。何を気にしているんだろう。
「いや、別にすでに魔力がこもっている石をわざわざ探さなくても、わたしたちが込めちゃえばいいんじゃないかなって…今回の依頼って、魔力がこもった石が欲しいからだされたわけだよね」
魔力がこもってなくてもいいなら、中腹当たりの岩を適当に拾ってくるだけでいいわけで、私たちに依頼する必要もないから、依頼が出た理由の一因であることは間違いないと思う。
「そういうことは最初に見つけたときに言いなさいよ…先に気が付いていれば、ここまで登らなくてよかったのに…」
「そう言われると思ったから言いたくなかったんだよ!!」
プリプリとかわいらしく文句を言うイザベル。
「まあ、とにかくやってみようよ」
軽口を叩きあう二人を傍目に、私は適当な岩に触れ魔力を込めてみる。すると、込めた魔力と比例して、岩のサイズがどんどん大きくなっていく。魔力石の反応と同等くらいになるまで魔力が込められたころには、抱えられるサイズをとっくに超えていた。普通に人間大くらいの大きさはある。
「魔力は込められたけど、こんなに大きくなるなんて…」
「魔力が多く含まれるほど、大きくなる性質があるみたいですね。だったら、このくらいのサイズのものを持ち帰ればいいのでは?」
「あ、丁度あそこに一つあるじゃない」
そう言うと、小走りで大きめの岩の方へと向かうアルト。こんなに足元が不安定なのによく走れるな…
「魔力量も十分ね。このサイズならいくつかあるし、魔力を込める必要もないわ」
「それはそうかもだけど、これじゃあ身体強化したところで運べないね。しょうがない。下に着いたら私が物を動かす魔法を使って運ぶよ」
複数の物を同時に動かすとものすごく疲れるから避けたかったんだけど、もう仕方ない。一角獣の解体の時みたいに、本体と、切り分けた素材で複数動かすのが短時間だったら気にならないんだけどね。
「あたしが、身体強化を覚えた意味が無くなったわね…」
「複数の物を動かすと、すごい疲れるからあんまりやりたくなかったんだよ。さてと、あともう一つ大き目の岩を探さないと」
これ以上、追及されるのは面倒だから話題を逸らす。アルトも、さっさと帰りたい気持ちがあるのか、そう言えば何か言ってくることは無かった。まあ、身体強化だって今後使う機会が無いわけじゃないだろうし、覚えておいて損はないっていうのもあるのかもしれない。
「あそこにありますね」
少し離れた所に十分な大きさの魔力石があるのをアニが発見。一応直接触れて魔力量を確認した後、岩の真下に入り口を作って、収納魔法に突っ込む。よし。これで採集完了だ。
採集が完了した後、少し魔力石について調べてみることにした。日没までそんなに時間があるわけじゃないから、やれるとこまでだけど。
まず、やってみたのは、どれだけ魔力を貯めることが出来るのか。これに限界はなさそうだった。手ごろな魔力石に向かって、どんどん魔力を込めていってもサイズが比例して大きくなっていくだけど、限界はなさそう。私が作ったものは最終的に、民家くらいの大きさまで大きくなっていた。
二つ目は、素材の組成。これは目利きの義眼を応用して実行した。結果は、やはり普通の岩石とは全く異なっていて、どうやら岩というより魔物とかの方が近そうだった。生きているわけじゃないから完全にそうとは言い切れないけど、魔力を貯める器官の作りが魔物にある器官と同一の物ってことだった。
最後にしたのは、破壊できるのか。思いっきり叩きつけてみたり、小爆撃をぶつけてみたりといろいろ試した結果、魔力が多ければ多いほど壊すのが難しい。あんまり砕いたりすると、封印に関して影響があるかもしれないからそこまで多くで試したわけじゃないけど、頂上付近にある岩はほとんど破壊することが出来なくて、中腹当たりから持ってきた魔力が少ない岩は結構簡単に砕けたから間違いないと思う。
簡単な実験を終えたら、入山手続きをした山小屋へ戻ることにする。下山はテレポートで一瞬だ。もちろん、山小屋の中に直接テレポートしたわけじゃないよ?魔力石を収納魔法から出さないとだからね。
山小屋に入れば、下山手続きと軽いボディーチェックを受けるだけで簡単に終了。まあ、空中に浮いてる魔力石を見てすごい驚いてたけど、特に何か言われることは無かった。私たちが魔法使いだってことは知ってたみたいだし、まあ、魔法を使ってるんだろうってことで納得したんだと思う。
その後は、王都のギルドに戻って魔力石を提出し、依頼は完了だ。報酬はそこそこで、金貨が四百枚。採集依頼の中で一日で稼げるものとしては過去最高じゃないかな。さすがは国から出た依頼って感じだ。まあ、でもしばらく山登りはいいかな。今回の依頼はあんまりおもしろくなかったし疲労感が半端じゃない。物を動かす魔法のせいだけじゃなくて、ゴロゴロとした岩場を登って行ったわけだから、体力的にもしんどかった。やっぱり討伐依頼が一番だね!!
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