第百六十三話 魔力石の発生原理
私たちが登ることになった火山は、この前言った霊峰とはちがって、木々が生い茂っているっていうことも無く、 荒野がそのまま山になったかのような景色だった。これだと逆に、魔力石を探すのは普通の人には無理だろうね。普通の石特別が付かないだろうし。見た目が宝石みたいだとかだったらまた変わってくるだろうけど、普通の石と変わらないなら探すのは無理だろう。
「魔力感知してみたけど、魔力石があるのは、ほぼ頂上のあたりだね。他にはほとんど魔力反応が無い。魔物とかも全然いないと思う」
「そりゃそうでしょ。こんな荒れた山じゃ餌になるものだってないだろうし。如何に魔物と言えど、さすがに魔力だけで生き延びるのは無理よ」
「そうなんだ。魔物は魔力に惹かれるから魔力があればいいのかと思ってた」
「魔力に惹かれるって言うのは間違っていないわ。でもそれだと、魔力を得られない魔物はすぐに死ぬことになるでしょ?魔物が魔力を得られる手段なんて、魔力持ちを襲って捕食するか、共食いするくらいしかないわ。あまりに人間を襲っていたら駆除されるし、共食いすれば数は減る…そうしなければ生きていけないならばすぐに絶滅よ」
そう言われればそうだね。魔物も普通の動物みたいな餌を食べるってことか。だったらこの山で生き残るのは無理だろうね。餌になりそうな物は何にもないし。
「この山は国が管理しているのですから、魔物が出ればすぐに狩っているのかもしれませんね」
「あ、確かにそれもありそう。魔物がいたら貴重な魔力石が危ないしね」
そんなことを話しながらもどんどん歩みは進んでいく。でも、周りの景色も全然変わらないし、何も面白くない。山の下の景色だって荒野だから絶景ということも無い。こんなにつまらない山登りは初めてだ。まあ、私が山を登った経験なんて前世を含めても、数えるほどなんだけどね。小学校の自然教室で登ったのと、クソブラック企業の親睦会とは名ばかりの社員旅行で行った登山(旅先では結局仕事をしていたし、その登山も山の上にある旅館へ行くための交通費をケチった結果だ)それにこの間の霊峰に、今回の火山。たったの四回だ。前世の山登りは親しい人もいなかったし、一ミリも楽しくなかったけど、それに比べたら全然マシ。皆と話しながら山登りするのはそれはそれでいいものだ。
「何と言うか…あんまりおもしろくないわね…」
「採集依頼を受けるって言ったのはアルトじゃん」
「そうだけど、ここまでつまらないとは思わなかったのよ…」
前を歩いているアルトとイザベルがそんなことを言い合っているのを聞いて、私とアニは顔を合わせて笑ってしまう。仲がよさそうで何よりだ。最初はあんなにイザベルのことを警戒していたのに、今ではすっかり打ち解けている。これも一緒に旅をしている効果かな。
「それにしても、全然頂上に近づいている気がしませんね…」
「景色があんまり変わらないからね。でも、見て。頂上の方は近くなってるよ」
「魔力石も頂上にまとまっているのでしたよね。…確かに頂上付近に多く分布しているようです。魔力感知をしてみると、頂上までの距離が実際に分かっていいですね」
魔力感知をしたことで、視覚的な距離ではなく、感覚的に距離を把握したみたいで、少し表情が変わる。やっぱり先が見えるのと見えないとのでは心理的にだいぶ違いがあるみたい。
「二人ともー!!この辺ちょっと岩がゴロゴロしてるから気を付けて!!」
いつの間にか、私たちよりだいぶ上まで進んでしまっているイザベルが大声でそう叫ぶ。落石注意ってこと?それとも転ばないようにってことかな?別に岩が落ちてきたところでどうとでもなるけど、注意があるのと無いのじゃ意識が変わってくる。不意打ちが防げるからね。
軽く身体強化をしながら少し急な坂を上りきると、確かにゴロゴロした岩場に到達。
「あれ、二人は進んでなかったんだ」
「あたしたちがこのまま進んでたら、二人の方に岩が落ちていくかもしれないじゃない」
あら。一応配慮してのことだったみたい。確かに、二人が進むことで、岩が落ちてくる可能性はあったかもしれない。
「それにしても、なんで急に岩場になんかなったんだろう」
不思議そうにそう言うのはイザベル。
「ちょっと違和感はあるよね。今までは岩なんて全然なかったのに…」
頂上に近づいた途端に岩が増えるっていうのはなにか理由がありそう。もしかして…
「あ!!やっぱり。この岩、少ないけど魔力を含んでる」
魔力感知では認識できないほどの、直接触れることで何とか認識できるくらいの微弱な魔力。
「となると、ここに転がっているこの岩が後々魔力石になるのかしら。ちょっと気になるわね…」
アルトが興味深いとばかりに私が触れていた岩を軽く観察しているのが分かる。見た目はホントにただの岩だね。
「ここに転がってる岩に多くの魔力が宿ったら魔力石になるのでしょうか」
「うん。たぶんそうだと思う。となると、魔力石は魔力岩かもしれないね」
「さては、採集が難しいんじゃなくて持ち帰るのが難しいから依頼が出されたんじゃ…」
「まあ、Aランクなら岩の二つや三つ簡単に持ち帰れるだろうって予想するのは簡単だろうからね。そういう意味も無かったわけじゃないと思う。私たちは魔法がメインのパーティーってことは知ってただろうから、魔力を認識できることも織り込んで依頼してきたんだと思うよ」
魔力岩(微弱)が見つかったことで、私たちになんでこの依頼が舞い込んできたのかを口々に話し合う。その間にも私の頭には一つ、懸念があった。
「まあ、正直なところ、依頼が来た理由なんてのはどうでもいいのよ。問題は…」
「私の収納魔法を使わないと持ち帰れないってことだよね。持ってきた魔力石を受け渡すのはギルドだけど、山を下りる時に確認はされるでしょ?そこで収納魔法から魔力石を取り出したりなんかしたら、依頼された分以上に隠し持っていることを疑われるよ」
私の懸念はアルトが抱いていたのと同種のものだったみたいで、うんうんと腰に手を当てながら頷いている。
「そんなの持ってないって言えばいいんじゃない?」
イザベルは能天気にそう言うけど、そんな簡単にはいかない。
「あのね、イザベル。収納魔法に入ってないよっていう証明はほぼ出来ないんだよ。だって、仮に入ってるものを全部外に出したところで、それがホントに全部だっていうのは、私にしか分からないんだから」
やってないことの証明というのはやったことを証明するより難しい。まあ、解決策はないわけじゃないけど、面倒くさいからやりたくないんだよね。
「まあ、別にあの山小屋に入る直前まで収納魔法に入れておいて、直前で取り出せばいいんだけどね。問題は持ち上げられるかどうかなんだけど…」
私は身体強化で、アニはスキルの力で持ち上げることは出来ると思うけど、イザベルは絶対無理だし、アルトですら怪しい。アルトは興味のある魔法以外全然覚えようとしないし。
「私は大丈夫です。サイズ的に一つが限界でしょうが…」
「私も身体強化を使えば何とかなる」
「しょうがないわね…あたしも下に戻るまでに身体強化を覚えるわ」
アルトのそんな言葉で、私は彼女が魔法に関して万能な存在である精霊であることを再認識した。
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