第百六十二話 採集禁止の理由

 そんなわけ、依頼を受けたその足で魔力石があると言われた火山に向かう。というか、その火山は普通に王都から見えてた山だった。これなら地図なんていらなかったかも。町の外に建物なんてないから道のりも単純だしね。思えば、山登りをするのは霊峰に行って以来だ。あの時は魔物と戦ったり、未発見のダンジョンを見つけたり冒険って感じの山登りだったけど、今回はどうだろう。まあ、厳重に管理されてるって話だし、新発見とかは無いだろうね。ちょっとしたハイキング気分で行ってみよう。


 「どうして、魔力石の採集は禁止されているのでしょう…」


移動中の車内でアニがそう呟く。確かに謎といえば謎。貴重なものって理由だけで、そこまで厳重に管理するのは利益が欲しい周囲の反感もあるだろうに。採集が私たちに依頼されているってことは、許可があろうと無かろうと採集自体の難易度も高いはずだ。それをわざわざ禁止するわけだからそれだけ貴重な物って理由もあるんだろうけど、別の理由があっても何ら不思議じゃない。


「禁止さえされてなければ、私も欲しかったなあ」


魔力を貯めることが出来る物質っていうのはなかなかお目にかかれない。是非とも入手したいところだったけど、報酬に含まれているわけでもないからそれは難しそう。こっそり持ち帰るのもたぶん無理。最終的に隠し持っていないか調べられるだろうし…いや、よく考えたら、出来ないことは無いのか。火山を出る前に一度拠点に戻って置いてくるとか、収納魔法に放り込んでおくとか。でも、何か理由があっての規制だとしたら何か危険があるかもしれないし、やめといたほうがいいよね。適正な保管方法を取らないと爆発するとかだったら困るし。


「何か理由があるのは確かよね。不用意に持ち帰るのは少し危ないかも」


アルトも私と似たような懸念を抱いているのか思案気な顔でそんなことを言う。


「やっぱりそう思う?魔力を貯められる物質なんていくらでも使い道がありそうなのに、いくら貴重だからってここまで厳重に管理しているのはおかしいよね」

「そうね。人工的に作られているものじゃなくて、自然発生する物質なんだから管理者が存在するのもそもそもおかしいし。何か理由があるはずよ」


土地を管理しているわけじゃなくて、そこで取れるものを管理しているわけだからね。火山を管理しているのは副次的なものだろうし。


「火山に着いたらきいてみればいいんじゃない?」


ここで議論していても仕方がないとばかりに、運転しているイザベルが言う。


「まあ、そうだね。だいぶ近づいてきたし、もうすぐ着くんじゃない?」


王都から車を走らせること数十分。すでに、目と鼻の先と呼べるくらいまでには火山に近づいている。地図によれば、入山するために通る関所もこの方向で間違いない。車で乗り付けるわけにもいかないし、そろそろ歩いて移動しないとだね。





 車を降りて数分歩いたところで、火山の入山口である関所とは名ばかりの山小屋に到着した。辺りは植物一つ生えていない荒野。王都の周りはそんなこと無いのに、山に近づいていけば行くほど、どんどん土地が荒れていった。豊かな土地からどんどん荒野になっていく風景を見ているのは、なんとなく嫌な感覚がした。


「それにしても、よくあんな火山から近い場所に王都を作ったわね。噴火でもしたらどうするのかしら」


山小屋の中で許可書を見せたりと入山手続きをしながらアルトが呟く。


「この火山は今は活動していませんから、御心配には及びませんよ」


火山の入山管理をしているという職員がそう言う。へえ。この火山、休火山なんだ。確実に心配はいらないとまでは言えないだろうけど…


「それに、この火山は古代魔法で封印を施されています。その封印が機能している限り、噴火することはありません」


火山を封印ってどんな魔法を使ったんだろう。魔法で自然災害も管理できるなんて、ホントに万能だね。地震や大雨が多かった日本に持ち込むことが出来たら、涙を流して感謝されそうな技術。魔力が無いから使えないけどね。


「ちゃんと考えられてるのね」

「ええ。先人の知恵は侮れません…はい。入山手続きは結構ですよ。依頼を終えたらもう一度ここへお願いします。その際、持ち物検査をさせて頂きます。念のため、魔力石の不正持ち出しが無いかチェックさせてください」

「どうしてそこまで厳重に管理しているの?」

「先ほど火山に封印魔法が施されているということを言いましたよね。その封印術は魔力石に貯まった魔力を使って維持されているんですよ。この山に置いておくことで、自然界に存在する魔力を少しづつ吸収し、その魔力を封印に流すことでそれが維持されているんです。魔力石の数が減れば、必然的に封印に流れる魔力も減少します。そうなれば、どうなるかは想像に難くないでしょう?」


魔力を流すための媒体になっているってわけか。そりゃあ採集規制もするわけだ。魔力石が無くなれば、火山が噴火する状態に戻ってしまうってわけだからね。


「なるほど…そう言う理由だったのですね。火山を封印するなんて大魔法を維持するのは人間の魔力では無理でしょうし、自然界の魔力を使うのも頷けます」


納得したと言わんばかりのすっきりとした表情でアニが言う。私みたいに特殊な身の上じゃなければ、使える魔力には制限があるわけだから、人間の魔力を使わないシステムを構築した昔の魔法使いは凄腕だったんだろうね。


「ええ。ですからくれぐれも…」

「分かってるよ。依頼された分しか持ってこないから」


さすがに、今の話を聞いてから、魔力石をこっそり持ち帰ろうとは思えない。持ち帰った結果、火山が噴火してしまったりしたら、笑えないし。


「よろしくお願いします。お気をつけて」


職員にその声を背中に、私たちは火山へと足を踏み出す。魔力石…持ち帰ることは出来ないけど、その場で調べるくらいは良いよね!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る