第百六十一話 採集依頼

 それからお父様を迎えに行くまでの数日間、適当に依頼を受けながら過ごすことにした。お父様の言う通り王都の冒険者ギルドはそこそこ賑わっているみたいで、冒険者の数も依頼掲示の数もこの国の他の支部とは比べ物にならない。ブランデンブルクの王都には及ばないけどね。私たちがこの国で受けてた依頼は全部、個人依頼だったから依頼掲示の数が少なかったところで何にも関係なかったけど、実際に依頼がたくさん掲示されているのを見るのは気分がいい。自分たちの職業が必要とされている感があるからかな。


 「さて、今日は…」


今日は王都に到着した翌日。昨日は買い物だけの休みの一日にしたから依頼を受けることは無かった。といっても、チンピラ退治をしたり、スラム街で治療をしたりとちょっと仕事っぽいこともした気がするけど…


「最近は討伐系ばっかりだったから採集系にしない?」


確かに最近は討伐依頼ばっかり受けていた。移動しながらだったから時間が掛からなない魔物の討伐に取り組んでいたわけだけど、あと数日は移動する必要もないし、ワープポイントも作れたから時間を気にしなくてもよくなった。採集依頼を受けてもいいかもしれないね。討伐よりも採集の方が私的には好みでもある。なんというか、採集場所に向かうまでの旅をしているって感じが堪らない。討伐だって対象の元まで移動はするわけだけど、それはまたちょっと違うんだよね。


「そうしよっか。どれにする?」


一口に採集依頼といっても、私たちには多くの依頼が舞い込んできている。どれにするべきか…


「この近くなのは、火山周辺で取れる魔力を貯めることが出来る石の採集、湖底に自生する植物の採集…これは何に使うのかしら。書いてないわね。種類の指定もないし研究目的とかなのかも。あ、量の指定はあるみたいね。後は怪鳥って魔物の卵を取ってくる依頼ね。まあ、これは親鳥を倒さないといけないだろうし、実質討伐依頼になるだろうけど…」


アルトが個人依頼がずらっと書かれた用紙を見ながらそう言う。この近くに採集場所がある依頼は意外と少ないみたいだね。


「あ、これは?これも近くだよね?」


用紙を覗き込みながらイザベルが不思議そうにそう尋ねる。あ、ほんとだ。確かにこの近く、王都に来るまでに通った道中の森が採集場所になってる。えっと、内容は…


「…これはやめておいた方がいいわ。この排泄核っていうのは魔物の糞が集まってできたものだから」


排せつ物の塊だから排泄核か。安直な名前だな…


「糞ですか…それは遠慮したいですね…ん?糞が集まる?」


不思議そうな顔をするアニ。確かに糞が集まるってわけが分からない。勝手に糞が動き回るわけじゃないよね。…想像するとちょっと笑えてきた。


「そういう習性をもった小型の魔物―このくらいの大きさの魔物がいるのよ」


人差し指と親指で輪っかを作りながらアルトがそう説明する。フンコロガシみたいな虫かな?あいつらはなんで糞を転がしてるんだっけ?


「ま、まあ排泄核の採集依頼はやめておきましょう。やっぱり火山の依頼がいいのではないですか?魔力を貯める石なんて素材としての価値も高そうですし、少し手に入れられるかもしれませんよ」

「魔力を貯める石―魔力石の採集は依頼された分以上の採集はご遠慮ください」


今度は受付嬢がそう口を挿んでくる。


「どうして?」

「魔力石の採集量は厳格に規制されています。この依頼も国からの物です。そうでなければそもそも火山に近づくことすらできませんよ。許可のない採集をされる恐れがありますから」


なんで規制をされているかを知りたかったんだけど、そういう決まりだってことしか受付嬢も知らないみたい。貴重な物だからとかそんな理由なのかな。魔力を貯めることが出来る物質なんて聞いたこと無いしね。魔力炉はエネルギーに変換することが出来るから魔力炉よりは価値が薄そうだけど、量産に成功しているこの国だと、価値が逆転しているのかもしれない。


「まあ、でもこの依頼受けてみない?許可が無ければ入れない場所なんて秘境って感じがするし」


アルトは魔力石が手に入らなくても乗り気みたい。他のみんなも別に文句はないみたいだし、この依頼にしようかな。石が手に入らなくても依頼料はそこそこの金額だしね。


「そうだね。この依頼を受けよう」

「了解しました。こちらが火山までの地図と許可証です。山道の入り口に警備の者がいるそうなのでこちらを見せてください」


渡された許可証には難しい文言で通行、魔力石の採集を許可する。ただし、三つのみといったような文言が書かれていた。帰る時にでも確認されるのかな。とすると隠し持っていたりするのを探知する方法があるのかもしれないね。というか、ほぼ確実にあるとみていいだろう。こっそり持ち帰るのはあきらめた方がよさそうだ。その場調べるくらいにとどめておこう。


 地図の方にはこの町から火山への道のり、正確に言えば山道までの道のりが書かれていた。ブランデンブルクで見る地図よりも見やすくて正確だ。立派な地図職人がいるのか、魔道具を用いて書かれているのかもしれない。


「分かった。これを見せればいいんだね」

「はい。くれぐれも魔力石の採集は―」

「分かってるよ。決められた分だけね」


そう最後に告げてギルドを後にする。数日だろうけど、新たなたびに出ることになったわけだ。ちょっとドキドキしてきた。

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