第九十七話 黒のダンジョン
アルトに続いてダンジョンの扉を潜る。すると、扉が閉じた瞬間、何も見えなくなってしまった。外の空間とは違って、光が差さなくても周りが見えるってことは無いみたいだね。灯りの魔道具を取り出して光源を確保しておく。もちろん、アルトとアニにも灯りの魔道具を渡しておいた。
周囲が明るくなったことで、ダンジョンの構造が軽くだけど認識できた。壁面と地面はさっきの縦穴と変わらず真っ黒だ。美しい青色の光を放つ青のダンジョンとは大違いだね。言うなれば、黒のダンジョンかな。濃い影に包まれているかのような壁面に、軽く触れてみると、足で感じる硬さとは異なり、壁面の方は妙に柔らかい。低反発枕みたいな感触だ。切り取れないか試してみたけど、それは無理そうだった。触った感じは柔らかいのに、ナイフの刃は通らない。不思議な素材だね。
「進む前に魔力探知をしておきますね。」
中にどのくらい魔物がいるか把握しておくのは必要だ。魔物がいる大体の場所もわかるから、不意打ちの心配も限りなく小さくできる。
「おかしいですね…反応が一つもありません…」
「そんなはず…あら、ホントね。魔物がいないダンジョンってことは、迷路タイプかもしれないわ。」
「ダンジョンにも種類があるの?」
「たしかね。あたしもそんなに詳しいわけじゃないけど、昔ソプラノの奴に聞いた覚えがあるわ。ダンジョンには階層タイプ、これは青のダンジョンの形式ね。途中で出てくる魔物なんかを倒しながら進むタイプよ。ほかには遺跡タイプとこの迷路タイプがあるらしいわ。どのタイプにも当てはまらないダンジョンもあるらしいけど、魔物がいないのは迷路タイプだけ。その分、迷路そのものの難易度がとんでもなく高いらしいから、時間はかかるかもしれないわね。」
青のダンジョンも軽い迷路みたいになってたけど、それよりは全然難しいんだろうね。
「迷路ってことはゴールがあるわけですよね。ゴールは宝物庫とかですか?」
「そうみたいね。ただ、その性質上、誰かが先にたどり着いていると、中身は空っぽになっているから、すでに知られている場所には誰も寄り付かないらしいわよ。」
「そりゃそうだよね。苦労して宝物庫にたどり着いても、何も手に入らないんだったら意味ないし。」
魔物がいないから、素材すらも手に入れられないしね。
「もし、このダンジョンも誰かが先に見つけてたら、何の成果も得られないってことじゃない?」
それだと、ただ難しい迷路をクリアするだけになってしまう。これだけ隠された場所だし、可能性は低いと思うけど、大昔からあるんだとしたら、あり得ない話じゃない。どうにか、確認する方法はないかな。
「途中の宝箱が空だったら、誰かが来ているってことだから、まずそこを確認ね。」
なるほどね。空いている宝箱があったら誰かが取っていったってことだからね。
「じゃあ、アニにかかってるね。宝箱探しは得意でしょ?」
青のダンジョンでは大活躍だったし。
「が、頑張ります。」
「うん。期待してるよ。」
私のその言葉が合図になったのか、三人して歩き始める、入り口からほど近いこの場所はまだ一本道だけど、進むごとに分かれ道や行き止まりが出てきて複雑になっていくことは簡単に予想できる。何か目印をつけて進んだ方がいいかもしれない。
「ちょっと待って、一応迷った時のためにここにワープポイントを作っておくから。そうすれば、最悪、最初からやり直せる。もちろん、この後も定期的に作るつもりだけど。」
目印が無くても、やり直しが出来れば攻略の難易度は下がる。
「良い考えですね。それなら自分たちがどこにいるのか分からなくなったとしても、ワープポイントに戻るだけで済みます。さすがですね。」
そう話している間にワープポイントを設置する。この短い時間で済むのに、なぜ二人を止めたかと言えば、逸れてしまう可能性を少しでも減らすためだ。ここで一番避けなければいけないのは、逸れてしまうこと。テレポートができるのは私だけだから、場所によっては二度と合流できなくなる可能性もある。テレパシーで会話は出来るけど、自分がいる場所が分からなければ現在地を伝えることが出来ないから意味が無い。逸れれば絶望的ってわけだ。
「絶対逸れないようにね。難解な迷路だと合流が難しいから。」
二人にも念を押しておく。
「気を付けます。」
「そうね。お互いを認識できる距離を保持しましょう。」
「じゃあ、今度こそ出発だね。」
そう声を掛けて再び歩き出す。まずは宝箱を探しだね。
そこから少し進んだだけで、いきなり道が三つに分かれていた。さて、どれを選ぶべきか…
「どの道に進む?」
アルトがそう聞いてくる。
「とりあえず、ここにワープポイントを作って、総当たりしてみる?どれかは道が続いてるだろうし。」
「それだと、進んだ先でさらに道が分かれていて、なおかつ間違った道であった場合、面倒なことになりませんか?全ての道を確認しないと…」
確かに、道が続いているからと言って、その道が正しい道だとは限らないからね。
「だったら、進んだ先が分かれ道だったら、一度戻ってくることにしない?そうすればいろいろ確かめられると思うよ。この分かれ道の二本以上がさらに分かれ道につながってたら偽物の道があるってことだし、二本が行き止まりとかだったら、それはそれで正しい道が分かる。青のダンジョンで使ったマッピング魔法…地図を作る魔法を使えば、一度通った道が分からなくなることも無いし。」
マッピング魔法のことを話したら、アルトからなんで最初から言わないんだと言いたげな視線を向けられる。わ、忘れてたわけじゃないよ?ていうか、忘れてたのはアルトもでしょ。覚えてたんなら先に言ってくれただろうし。
「そうしましょうか。正しい道に進むには、結局全部の道を確認しないといけないわけだし。」
アルトも少し考える素振りを見せてからそう言う。
「じゃあ、まずは左の道から行こっか。」
そう言って左側の道に入り進んでいく。しばらく歩くと、前方に黒い壁があるのが分かった。
「行き止まりですね…でもあそこに宝箱がありますよ。」
アニが見つけた宝箱は、開封されている様子はない。一度開けた宝箱の蓋をするなんて意地悪なことされてなければだけど。
「中に何か入ってますね。」
アニが宝箱を持ち上げ、軽く振っている。コトコトと中で何かが動く音がするね。私が考えたようなことにはなってないみたいだ。
「開けてみよう。」
鍵がかかっているということは無く、すんなりと開くことが出来た。中に入っていたのは鋏だね。目利きの義眼で見てみたけど、特別なことと言えば、ミスリルで出来ていることくらいで、あとは何の変哲もない鋏だ。
「ミスリルの鋏だね。」
「鋏って…素材の無駄遣いね。」
「中身はあんまりうれしくないけど、入り口からそんなに離れてない場所にある宝箱が空いてないってことは、このダンジョンには誰も来たことが無いってことだよね。早い段階でこれが分かったのは大きな収穫だよ。」
「そうですね。これは大きな発見です。」
「じゃあ、ここからは気兼ねなく進めるわね。」
「そうだね。まだ見ぬお宝を目指して頑張ろう!!」
この発見でようやくダンジョン探索が本格的にスタートした。
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