第九十八話 宝探しと迷路攻略
あれから何日かダンジョンの探索をしているけど、まだ宝物庫には辿り着けていない。疲れたら宿に戻って休み、またダンジョンに移動するって感じで進んでいるから、疲労で非効率になっているとかそういうことは無いと思う。ただ単に、試さなければいけない道のりが多すぎるんだよね。ちなみに、分かれ道のうち二本以上が先に続いているということは無かった。正しい道以外は行き止まりになっている。まあ、その行き止まりに着くまでの道がとんでもなく長かったりすることも多いから、時間と体力を取られるのは変わらないんだけどね。最初の行き止まりには宝箱があったけど、これも行き止まりの場所に必ずあるってわけじゃない。分かれ道の前にあったり、普通の一本道に隠されるように置いてあったりと、宝箱が置いてある場所に統一性はなさそうだ。
「今は全体のどのくらいの位置にいるんでしょう…」
アニがそう溢す。全容が分からないから把握のしようが無いんだよね。霊峰の中にあるのは確かだから、それ以上の規模ってことは無いと思ってたけど、微妙な下り坂や階段が度々あるから、実はとっくに地下に入ってるってこともあり得る。あの縦穴の深さ的に、入り口は地上よりも上の高さにあったのは間違いないけど、進んでしまった今はもうわからない。もし本当に地下まで続いているとしたら、それこそ大きさは無限大だ。
「うーん。どうだろうね…体感的には結構進んだ気がするけど…」
十キロや二十キロじゃ収まらないくらいは歩いたはずだ。ダンジョン内のワープポイントも結構な数になってるし。
「そろそろ宝物庫があってもおかしくないと思うわ。ここはちょうど平地と同じ高さの場所だから。」
なんと、アルトによれば、ここは地上と同じ標高であるらしい。
「どうしてわかるの?」
山にいるときも、その時いる場所が分かってたし、何か方法があるなら私も知りたい。
「精霊はね、大地から魔力とは別のエネルギーを取り込んでるんだけど、そのエネルギーがある場所は一か所だけ。それはこの星の中心にあるの。そこからどのくらい離れているかで逆算してるのよ。」
「ああ。だから高さだけは分かるんだね。」
星の中心からということは、そこから、普段私たちがいる地上までの距離はどこにいても同じだ。円の半径の長さはどこを測っても同じだ。だけど高さだけは違う。高く上がれば上がるほど、星の中心、原点との距離は離れていくからね。逆に地下に潜れば潜るだけ、中心である、そのエネルギーに近づいていくってわけか。
「私にはちょっと分かりません…」
頭を悩ませてる様子のアニ。円のこととかちょっとした知識が無いと難しい話だからね。
「アルトはこの星の真ん中の位置が常にわかるから、高さだけならどの位にいるかわかるってことだよ。」
「簡単に言えばそう言うことね。」
「理屈は分かりませんが、そういうものだと思うことにします。」
とりあえず、納得はしてくれたみたいだね。
アルトのおかげですごく大まかだけど、今いる位置は分かった。といっても、さらに下まで進んでいたら全く意味ないんだけどね。
「さらに下まで続いてることもありえるのに、どうしてもうすぐ宝物庫が近いだなんてわかるの?」
「確かにその可能性もあるけど、わざわざ山の中腹から落とされたのよ?深くするくらいなら、縦穴の深さを浅くしてダンジョンを作るんじゃない?そっちの方が固い地面を掘るより労力もかからないでしょ?このダンジョンは入るまでにいろんな仕掛けがされてるわけだから、自然発生ってことは無いだろうし。」
「なるほどね。」
山の内部にダンジョンが自然発生するなんてことは無いだろうね。逆パターンとしてはダンジョンを山で隠したってことだけど、あの高さの山を人工的に作るのは魔法を使っても無理だろうし。重機なんてそもそも存在しないからね。
「なら、ラストスパートってことですね。気合を入れ直して頑張りましょう。」
そんな話をしながら歩いていれば、再び分かれ道。しかも過去最多の十二分岐だ。このタイミングでこの数…ここを超えたらゴールってこともあり得る。でも今までは、全ての道を確認しないうちに、先がつながっている道をみつけても、先に進むことはしないで全て確認していた。宝箱があるかもしれないからね。でもこの数だと、総当たりしていたら相当な労力がかかってしまう。道の長さによっては何日もかかってしまうかもしれない。
「ここを全て確認するのは骨が折れそうですね…」
でた、日本の慣用句。ホントになんで根付いてるんだろう…過去の転生者が広めたってことくらいしか考えつかないけど、それだと転生者が結構な数いることになってしまう。いくら考えても謎は尽きないね。
「でも、全部確認しないと損よ。ゴール直前の宝箱なんていいものが入ってるに決まってるわ!!」
確かにそれはありそう。これだけ分岐があれば一つも宝箱が無いってことも考えにくいし。
「時間はかかりそうだけど、全部見てみることにする?」
ここまで来るのに見つけたのは、低級の魔力炉がいくつかと中級の魔力炉が一つに、通信の魔道具が一つ。これはもう一つ通信の魔道具が無いと全く役に立たないらしい。アクセサリーもいくつかあったね。緑の宝石が付いたネックレスに、オレンジのツルツルの石―これは宝石っぽくなかった―が付いたブレスレットを見つけた。この二つはアルトが付けている封魔の指輪みたいな特殊な効果があるわけじゃないただのアクセサリーだね。後はミスリルの鋏みたいな、素材の無駄遣いシリーズだね。金で出来てるスコップと斧だ。これは重くて仕舞うのが大変だった。
「これまでの宝物は当たり外れが激しかったですからね。ここで良い物を見つけたいところです。」
良い物なんて宝物庫にいっぱい入ってるだろうに。アニも意外と欲しがりさんだね。
「じゃあ、今まで通り総当たりってことでいいわね。どの道から行く?」
「今まで通り左からでいいんじゃないですか?」
「そうだね。いきなり変えるとまたややこしいことになりそうだし。」
マッピング魔法で迷うことは無くても、間違うことはあるからね。
そのまま左の道を進んでいくこと約二時間。たどり着いた先は行き止まりではなく、一つの大きな扉だった。たぶんこの先が宝物庫なんだろうね。最初から当たりを引いてしまった。
「この先、たぶん宝物庫ね。最初に見つけられたのはラッキーだったけど、入るのは後にして、他の道を見てみましょう。」
アルトのその言葉で踵を返そうとしたときには、私たちの背後に、今まで歩いてきた道は存在していなかった。
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