第二十八話 先代魔王の独白①

「そうだな。まずは私と彼女の出会いから話そうか。当時、魔王と呼ばれる立場に就いていた私は…ん?私が魔王だったということがそんなに驚きか?別に大したことではない。魔王というのは魔人…知能が高く意思を持った魔物とでも言っておこうか。それが住む国を治める者のことだ。悪の大王とか、人間に対して残虐の限りを尽くしただとか、そんなのはただの噂の一人歩きだ。言うなれば魔王はただの統治者。人間の国の王と何ら変わりない。といっても、今はどうかは知らんがな。少なくとも私が魔王であった三百年前は、人間と敵対していたということもなかったし、そもそも認識すらされていなかっただろう。少し話がそれたな。本題に戻ろう。私がその魔王だったころのある日、城をでて人間が住む領域へ向かった。理由?そんなものは無い。あえて無理やり付けるとするなら興味があったからといったとこだろう。我々、魔人と同じく知能を持った生物。会って話をしてみたいと思った。それだけだ。別に支配してやろうとか、そんなことは考えてはいなかった。それから半日くらいか。空を南に向かって駆け続けようやく町らしきものが目に入った。適当に飛んだから片田舎や辺境の町にたどり着くと思っていたんだが、私がたどり着いたのは王都と呼ばれる人間の王が治める国一番の都市だった。そのまま飛んで町に入ってもよかったんだが、目立つのも都合が悪い。そこで私は、町から少し離れた草原に降りることにした。初めに見つけた人間とコンタクトを取ろうなんてことを考えながらな。まあともかく、そこから町に入るため、歩き始めたわけだ。近くまで来ると町は城壁で囲まれていた。目立つのを避けるために徒歩で来たわけだから、壁を越えて入るわけにはいかない。仕方なく城壁の周りをぐるっと回って入り口を探した。そのまましばらく壁に沿って進んでいると小さな扉を見つけた。まあ、町の出入り口にはそぐわない、小さな扉だ。戸と言ってもいいかもしれん。まあどちらにしろ、ここから入れるだろうと軽い気持ちでその戸を押し開こうとした。その時、私の足に何かが触れた。そこにあったのは何かが入った麻袋。少し触れたくらいではビクともしないくらいの重さがあった。大きさは人が一人そのまま入るくらいだった。なんだ。察しがいいな。そう、その麻袋に入っていたのは人間だった。それも辛うじて息をしているという状態のだ。手足は折れて変な方向を向いていたし、顔なんかは腫れあがって原型が全く分からなかった。それに何かの病にまで罹ってるようだったな。まあ、ともかくこのまま放っておけば数分のうちに命を落とすことは明白だった。当時の私としては別にそのままにしてもよかったんだかな。何?ひどいだと?言うじゃないか精霊。お前も長い時を生きてきたのなら人間の一人や二人、殺したこともあるだろう。なんだ図星か?それにこの状態に追いやったのは私ではない。会ったこともない赤の他人を何のメリットもなく助けてどうなる。だが、まあこの時、私は結局この人間を助けたのだがな。何を言っているかわからないといった顔だな。つまりはこの人間を助けることによって、私にはメリットがあったということだ。先に言っただろう?初めに会った人間とコンタクトを取ると決めたと。死にかけとはいえ、初めて会った生きた人間だったからな。そんなの何のメリットにもならないって?放置してほかの人間を探した方が効率的だと?聖女のほうがよっぽど思考が我々に近いな。そう考えて当然だ。だが確かに利点はあったのだ。私は、自分で決めたことは変えないと決めている。そのポリシーを曲げずに済むというメリットがあった。なんだ。その目は…ツンデレ?そういえば昔もそんなことを言われた覚えがある。まあそんなことはいい。とにかく私はその人間を助けた。治癒魔法をかけ、傷を治した。病に関しては、知識のない私にはどうすることもできなかったが。だからこの場では放置した。後々、医者にでも診せればいいとな。治癒魔法で病気も治せせたんじゃないかと考えるかもしれないが、魔人は基本的に病になど罹らん。身体が頑丈だからな。罹らないものを治療するすべなど持ってるわけがないだろう。専門家でもなければな。だから、その場では傷を治すだけに留めた。それしかできなかった。傷を治したことで顔の腫れが引き、この人間が女だとわかった。年齢?後に聞いた本人の話だと25歳だと言っていたな。我々とは時間の流れ方が異なるから年齢など重視はしていなかったな。まあ、子供ではなかったな。罹患している病以外は健康そのものとなった彼女だが、その場で意識を取り戻すことはなかった。仕方ないから彼女を連れて魔王城へ戻ることにした。このまま放置しておいては当初の目的を果たすことができない。別に人間のことを知るために彼女と取るコミュニケーションが人間の領域でなければいけない理由もない。それに、魔王城には医者がいる。病に罹ることが滅多にないと言っても、さすがに、国の重要な者が集う場所に医者がいないということは無い。そんなわけで私は魔王城へ戻った。もう察していると思うが私が助けた彼女こそが先代聖女だ。これが私と彼女の出会い。と言っても彼女は意識を失っているわけだから、一方的なものなんだが。だから本当の出会いは彼女が魔王城で目を覚ましてから、この日から二日後の事だ。」

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