第十四章 転生者との接触

第百七十一話 いるかもしれない転生者

 お父様がうちに遊びに来てから大体一週間がたった今日は、お父様が帰った翌日だ。ここ滞在している間、魔道具を作ったり、町の観光をしたり、何度かエーバルトとオリーヴィアも含めた食事会みたいなイベントなんかをして過ごした。最近忙しかったらしく、いい息抜きにもなったと喜んでた。まあ、楽しんでくれたならよかったよ。お父様をナハトブラオまで送り届け、別れ際に魔力炉供給の予定なんかを決めておいた。魔力炉はいくつあってもうれしいからね。お父様も私の作る魔道具を楽しみにしてくれているみたいだし、何かプレゼントしてみてもいいかもしれない。


 一方、私たちが拠点で過ごしている間、アルトとアニは王都に遊びに行っていたらしい。王都なんて周り尽したと思っていたけど、なんか劇みたいなものを観たって言ってた。どんな話だったのかはまだ聞いていないけど、今晩食事の時にでも聞いてみようと思ってる。お父様が帰った後の片づけなんかでちょっと忙しくてあんまりゆっくり話す時間が無かったんだよね。




 「それで、王都でやってた催しってどんなものだったの?」


時は変わって夕食の時間。久しぶりのみんなそろっての食事だね。今日のメニューはステーキだ。玉ねぎもどきを使ったオニオンソースが美味しい。でもソースの種類が少ないことが問題だね。和風ソースとかも欲しいところだ。そのためには醤油が必要だけど、大豆になりうるものは全然見つかっていない。どこかにないかなあ…


「そういえば、アニとアルトは王都に言ってたんだっけ?」


ステーキを頬張りながらそう聞くのはイザベル。イザベルはお父様が来ている間、他の半デーモンたちと過ごしていたらしい。何をしてたのかは知らないけど、楽しく過ごせたなら何よりだ。


「ええ。王都では演劇っていう人が物語を演じる催しが流行してるのよ。それも一つの物語だけじゃなくて、いくつもね。あたしたちの滞在中に開催されたのは三回だったけど、他にもたくさんの種類の話があるみたいだわ。すごい人の数だったし、一人当たりの単価は安くても、あれだけの数なら莫大な利益を生んでいるでしょね」

「へえ。どんな話だったの?」


今度はアニに聞いてみる。こういう記憶力が絡む話はアルトよりもアニに聞いた方が詳しく知れるからね。


「私が一番印象に残っているのは、冒険者ハイラント物語ですね。簡単に言うと、巨大な果実に封印されていた赤子が成長し、略奪を繰り返す小鬼の群れを特別な携帯食で家来にした動物と共に討伐に行くと言った感じですね。他のお話も面白かったですが、私たちが冒険者をしているからでしょうか。私はこの話が一番好きですね。魔道具なんかも使われていて非常に凝った物でしたよ」


ん?それって、もしかして桃太郎?なんで知ってるんだろう…向こうのことわざとか慣用句みたいに流れてきたのかな。それとも、転生者がいる?


「そのお話の作者とかってわかったりする?」

「さあどうでしょう。作者の紹介とかは無かったですから…」


作者の紹介は無かったのか。それだと接触するのは難しいかもしれない。演劇っていうコンテンツで莫大な利益を出しているなら、それを生むことが出来る作者の秘匿はあたりまえにしているだろうし…


「でも、物語を作るなんて、深い教養が必要でしょ?だったら貴族とか富豪の子供なんじゃないかしら。普通の平民なら教育を受けることすら難しいんでしょ?」


そう言ったのはアルト。確かにその可能性はあるけど、転生者だとしたら、独力で名を上げた可能性も無くはない。ホントに転生者だったらぜひ接触したいところだけど、調べるのは大変そうだな…


「作者が気になるなら、とりあえず王都に行って鑑賞してますか?作者は主催者の関係者でしょうから、裏方としてでも参加しているかもしれませんよ」

「うーん…そうだね。近いうちに行ってみようか」

「決まりね」

「わたしも楽しみ!!」


イザベルはこの前、本を買ってたし、物語が好きなんだろうね。嬉しそうに笑みを浮かべている。


「そう言えば、面白い魔道具を使っていましたよ。ひとりでに動く布なんですけど、朝になったら自動で開くカーテンとかが作れるのではないですか?」


動く布かあ…結構有用性は高そう。複雑なドレスを自動で着脱できるようにするとか使える手段はそこそこありそう。空飛ぶ絨毯とかを作ったら売れるかもしれないね。でも、布のどこに魔力炉を仕込むんだろう…ホントに作るならちょっと考えないといけないかもしれない。


「確かに使い道はたくさんありそうだけど、創るのはちょっと難しいかもね。布自体の魔力との親和性も考えないとだし…」


魔力と親和性が高い布とか糸とか存在するのかな…蜘蛛の魔物が作る糸とかどうだろう。いや、そもそも普通の布に私の魔力を流してみて、無理やり親和性を上げたりとか試してみるのはどうだろう。ミスリルだって魔力が込められた銀なんだから、魔力がこもった布、言うなれば魔力布が作れるかもしれない。


「ご主人様。お手が止まっていますよ。そういったお話は食事の後にしてくださいませ」


随分と考え込んでしまったらしく、控えていた執事の一人からそう苦言を呈されてしまう。そんな長い時間には感じなかったけど、私以外の皆は食事を終えて、雑談をしている。転生してから、なんか思考が深くなってるんだよね。アルトなんかは私が思考の世界に潜ると、また始まった…とばかりにあきれた様子をしているらしいってイザベルが言ってた。仕方がないからさっさと食べ終えてしまおう。これからの計画も立てないとだしね。それに、魔力炉も手に入ったことだし、動く布についても色々アイデアをまとめたい。こんな時に食事なんかに時間をかけていられないよ。

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