閑話 アルトとアニの演劇鑑賞②

 『定刻となりましたので、公演を再開いたします』


アニと軽く雑談をしていると、どうやらいつの間にか三十分が経過していたみたい。だから言ったでしょ。あっという間だって。


『意気揚々と、旅立ったハイラントは歩みを進めていた。その間のハイラントの思考には恐怖のような感情は一切存在せず、ただどうやって小鬼の群れを壊滅させ、略奪されたものを取り返すのかということだけだった』


再び天幕が取り払われ、野原のような場所を歩いている設定なのかしら。台の上に草が敷き詰められているのが見える。もしかすると、これを準備するための休憩時間だったのかも知れないわね。すぐにできるような場面転換ではなさそうだし。


『さて、まずは仲間を集めなければと考えたハイラントはお婆さんに貰った携帯食を試してみることにした。と言っても、場所は人里離れた野原。仲間にしたい者など近くには存在しない。仕方なく、辺りを駆け回っていた動物の内一匹に与えてみることにした』


今度は動物の形をした人形が出てきた。あれは確か狩りなんかで使われてる鼻が利く動物ね。


『すると、なんということでしょう!!四足歩行をしていた獣が突然二足で立ち上がり、言葉まで発するようになったではないか!!その獣は「私に知恵を与えてくださり、ありがとうございます。是非、あなた様の家来にしてください」と流暢に述べた。その言葉をハイラントは快く受け入れ、一人、いや、一匹目の仲間を手に入れたのだった。その獣にハイラントは「フント」と名付けた』


訳の分からない展開に、あたしは少し呆然としてしまった。他の客はどう思っているのかしら…まさか動物に知恵を与え、仲間にするなんて。あの携帯食は特殊なスキルか何かを使って作られていたのかもしれないわね。人間に与えていたらどうなるのかも気になるわ。というか、いつの間にか人形が動物の恰好をした人間に代わっているわね。あんな服、どこにも売っていないでしょうし、特注服かしら。


『お婆さんからもらった特別な携帯食の効果を確認したハイラントは、次なる家来を探しながら、小鬼の拠点へと足を進めていた。ハイラントは偵察用の鳥の家来と、戦闘用の家来もう一匹ずつ欲しいと考えていたため、その考えを汲んでか、フントがどんどんと獣を捕まえる。さすがは狩りに使われている動物である』

『フントが捕まえた多種多様な動物の中から、使えそうな二匹を選び、携帯食を食べさせると、先ほどと同じように、立ち上がり、知能を得、声を発した。一匹目は比較的、人間に近いと呼ばれている動物。これにはアッフェと名付け、もう一匹は計画通り鳥を選んだ。普段から空を飛んでいる小さな鳥ではなく、陸で生活をすることが多い、もちろん空を駆けることも出来る巨鳥だ。これにはゲザングと名付けた。こうして、無事仲間を得たハイラントは、早速、小鬼たちの拠点となっている場所の付近まで移動し、ゲザングを偵察に出すのであった』


結局ハイラントは動物の仲間だけしか得なかったのね。まあ、裏切りを気にしなくていい分、そっちの方が安心と言えなくも無いのかしら。まあ、動物と言えど、知能を得ているわけだから、絶対に裏切らないとも言えないわね。やっぱり、あの携帯食の詳しい効果は少し気になるわ。絶対に裏切らなくなるとか、そう言う効果があるなら人間相手に使うのも十分に有効だろうしね。


『ゲザングがハイラントの元へ戻り、行った報告はこのようなものだった。敵の数に持っている武器、拠点の広さ、規模、それに宝が保管されている場所についてだ。どうやら、洞窟の前に拠点として粗末な小屋をいくつも建て、洞窟の中に略奪した宝を保管しているようだった。ここで、ハイラントはあることに気が付いた。それは、どうして小鬼が食料などの生きていくために必要なものでは無く、金品などの宝を奪っているのかということだった。小鬼たちが金を使うことなんてあるわけがない。もしや背後に人間がいて小鬼を操っているのではということに思い至る。そう言う特殊なスキルがあれば、あり得ないことではない』


言われてみれば…小鬼が金品を奪う必要なんて一切ないわね。でも、背後に人間がいるとは限らないんじゃないかしら。もしかしたら小鬼タイプの魔人かもしれないし。まあ、魔人の存在なんて知らないだろうから、黒幕が魔人だったなんてことにはならないでしょうけどね。


『だからと言って、ここまできて止まることなどできないハイラントは小鬼たちの拠点へと向かうことにした』


 『小鬼犇めく拠点に着くと、早速とばかりにハイラントが剣を抜き、斬りかかる。フントが噛みつき、アッフェは引っ掻き、殴り、ゲザングは小鬼を足でつかんで飛び上がり、高所から落下させていく。すると見る見るうちに小鬼の数は減っていき、特に被害も無く戦闘を終わらせることが出来た。と言っても、膨大な数の小鬼を処理したため、一人と三匹はクタクタで、宝を確認する前に少し休息をとることにした』


随分とあっさり小鬼の群れを倒したのね。台の上で剣を振ったり引っ掻く真似をしたり、実際に何かと戦っているわけではなかったから、少しわかりにくかったわ。まあ、本物の小鬼を連れてくるわけにもいかないし、仕方ないんだろうけどね。それこそ人形を使うとか、小鬼の服を着せた人間に斬りかかるふりでもさせておけばいいのに。


『「俺の部下どもをこんなにしたのはお前か?」休息をとっているつかの間、洞窟の奥から出てきたらしい大きな影。その見た目は小鬼のような見た目だが、鬼人すら凌ぐ大きさで、こちから言葉を発する異質な存在だった。一般的な男よりも体格がいいハイラント三人分はあるかという大きさだ』


あら。黒幕は魔人だったのね。たぶん、魔人として認識はしていないでしょうけど、いくらでかいとはいえ、小鬼の見た目をしていて言葉を話すなら魔人で間違いないわよね。


『その巨大小鬼にも怯むことなく斬りかかるハイラント。それに続くのはフントとアッフェ。空から叩き落すことしか攻撃手段を持たないゲザングは言わずもがな、この戦闘では全く役に立ちそうもない』


 『あれからどれくらいの時が経ったかもわからなくなるほどの長い時間を経て、ハイラントは何とか巨大小鬼を倒すことが出来た。昼と夜を何度も繰り返すような長い戦いだった。戦いが終わったことを認識したハイラントは気絶するように眠りについた…』




 『数日後、ハイラントが目覚めたのはお爺さんとお婆さんと共に暮らしていた家の寝台だった。なんと、役に立たないと思われていたゲザングが助けを呼びに行っていたらしく、眠りについた間にここまで運び込まれたらしい。もちろん、ハイラントのおかげで脅威が去り、住民たちは略奪された宝を取り戻した。その感謝の印として宝の一部をハイラントに納め、かねてより貧しかったお爺さんとお婆さんは大層喜んだ。その後ハイラントはお爺さん、お婆さん、三匹の家来と共に幸せに暮らしたとさ』


 『これにて、「冒険者ハイラント物語」の演目は終了です。皆様お忘れ物の無いようご退場ください。なお、この物語は、創作であり登場する人物、団体、名称、道具等は架空であり、実在のものとは関係ございません』


そんな言葉で絞められた今回の催し。あたしは結構楽しめたわ。一緒に観ていたアニも、時折目を輝かせているみたいだったし、楽しめたんじゃないかしら。ほかにも演目があるみたいだし、今度はハイデマリーとイザベルを誘ってみてもいいかもしれないわね。

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