第十章 海外の国へ

第百二十九話 これからの旅路

 アニがAランクになって帰ってきてから、私たちは大忙しで、てんてこ舞いの日々を送っていた。アニの試験が上手くいって、お祝いも兼ねた豪華な夕食を摂った翌日、私たちの時と同じように、新たなAランクの誕生は大々的に公表された。所属しているパーティーであるウィザーズの名前と共に。その結果、どんなパーティーなんだろうって気になる人が増えたんだと思う。パーティーについてたくさんの人が調べたらしく、所属するメンバー全員がAランクだということが知れ渡ってしまった。なんでも、平均ランク世界一のパーティーってことらしい。そりゃそうだ。Sランクがいない今、現在の最高ランクはAランクなんだからね。一躍有名パーティーになってしまった結果、強制とまではいかないけど、受けてくれたらうれしい的な高難易度の依頼が次から次へと舞い込んでくるようになってしまった。強い魔物の討伐だったり、新たに発見されたダンジョンの内部調査(魔物が強いくせに、宝物庫も無いクソダンジョンだった。)後は、古代遺跡の調査団の護衛なんかもしたね。この依頼ではすごい発見もあったから結構有意義だった。その発見というのは、古代の壁画だ。その壁画には、大都会の絵が描かれていた。この世界じゃなくて、前世の世界の大都会だね。高い建物に電車や車が走り回る様子がきれいに描かれていた。この絵の感じだと、実際に見て書いたんだろうから、行き来が出来る何らかの方法があるんだと思う。この壁画によって、前世の世界との交流が少なくとも大昔にはあったってことが分かった。今までも、色々なところでその片鱗を感じていたけど、明確な証拠を見つけたのは初めてだったから、ちょっと気分が上がったよね。まあ、他の人たちは、壁画の意味が全く分かってなくて、ちんぷんかんぷんだったらしく、なんでそんなに喜んでいるのかと変な目で見られた。ちなみに、壁画があった古代遺跡は大昔と言うだけあって、ボロボロだったけど、なぜか壁画は全く劣化している様子もなく、きれいに残っていた。頑丈な素材と長持ちする染料が使われてたのか、何かしらの劣化防止能力が存在していたのかもしれない。あと不思議に思ったのは、時間軸のズレだね。私が死んでから転生するまでの間に、何百年も経っていないのならば大昔の壁画に、今の向こうの世界の様子が描かれているのはおかしい。まあ、転生するまでの間の記憶はないから、何百年も経っている説も否定できないけど。詳しく知るには、これからも古代遺跡なんかの調査依頼は積極的に受けるくらいしかできることは無い。自分たちで勝手に調べようにも、厳重に管理されていてどこにあるのかも分からないからね。

 そんな感じの生活を一月以上続けている間に、私は九歳になった。成長促進の魔法のおかげか、その年齢に見られることは無いけどね。十歳、十一歳くらいに見られることが多いかな。そろそろ、成長期に入ってもおかしくないから、もう少し大きくなるかもしれない…身長だけじゃないよ!!今はまだまったいらだけど…こっちの世界は、毎年誕生日を祝うような習慣が無いため、いつも通りの日を過ごしただけだけどね。十八歳の成人を祝うだけみたいだ。そこまでに結婚相手も決めるって話も聞いたけど、エーバルトは大丈夫なんだろうか。もうすぐ学院も卒業でそれと同時期に成人するはずだけど、結婚するなんて話は聞いてない。私のことをどう伝えるかなんかの相談があるはずだから、私に知らせてないってことは無いはずだ。まあ、婚約ぐらいはしてるかもしれないけど。

 ほかに決まったことと言えば、半デーモンたちの配属についてかな。当初の予定とは異なり、イザベル以外の全員を警備に回した。理由としてはアグニとは問題なくコミュニケーションがとれたけど、他の部門、調理場なんかに回すと、他の人と話すのにイザベルを通さなければいけないから不便で仕方がないってことだった。当のイザベルが希望したのが、私たちのお世話係だったため、他にコミュニケーションが取れるアグニに預けるしかなかったんだよね。他の半デーモンたちと一緒に過ごせるような仕事を希望するのかと思ったけど、そうなることは無かった。まあ、どの部門も七人も一気に未経験者が入ることを嫌がってたし、全員同じ部署は警備以外できなかっただろうけどね。イザベルが警備をやりたがらなかったのは、アグニにビビっているからだと思う。私が半デーモンを連れて帰ってきた時、ちょっと一悶着あったんだよね…

 「まさか半デーモンがここを攻めてくるとは。私が直々に滅して差し上げましょう。」

テレポートで、拠点に戻った直後、まさか私たちが半デーモンを連れ帰るとは思っていなかったアグニが、全力攻撃を仕掛けてきた。私とアニとアルトが何かを失敗して捕まったと思ったらしい。あれは、本気で危なかった。咄嗟に障壁を張らなかったら、建物ごと粉々だったかもしれない。その反応を見てから、イザベルは、アグニと言うかデーモンそのものに恐怖を抱いてしまったみたいだ。

「本物のデーモン怖い…」

なんて言いながらブルブル震えてたよ。そこから、拠点にいるときどころか、隙あれば、私たちの冒険についてくるようになってしまった。魔法が使えるから戦力的には問題ないからいいけどね。足手まといにならない限りは着いてきても文句はない。

 そんな感じで、今日は今までの依頼三昧の日々の疲れを癒すため、久々の休日だ。ブラック企業での労働と違って、こっちの仕事は楽しさがあるから全然苦にならない。心地のいい疲れってやつだ。

「そろそろ、国外にもいってみない?この国の面白そうなところはいろいろ周ったことだし。」

昼食を食べながらアルトがそう言う。今日のメニューはクリームシチュー。私がレシピを料理人に教えて作ってもらった。牛乳はなんとかっていう温厚な魔物からとれるらしく、少し値が張るけど、手に入れられないことは無い。

「国外って言うと、お隣の国でしょ?この国と敵対しているらしいし、難しいんじゃない?」

何十年か前まで大き目の戦争をしていたんじゃなかったっけ。長く続きすぎて、お互いの疲弊で国力が著しく低下したとか何とかで今は休戦中だったはずだ。

「冒険者ギルドを通せば不可能ではないと思いますよ。世界中に広がっているわけですからね。」

ホントに大丈夫かな。数少ないAランクを簡単に国外に出すなんてことはしない気もするけど。

「お嬢様は伯爵家の娘だろ?万が一それが敵国にいる時なんかにバレたら、捕虜になって、外交問題なんかになるんじゃないの?」

イザベルがそう指摘する。

「魔法で逃げられるけど、何かしらの魔法を封じる手段があったら怖いね。」

今までにも無かったわけじゃないし。

「だったら、東の、ナハトブラオはどうでしょう。あの国はこの国の友好国ですから、危険はないと思いますよ。」

「どんな国なの?」

アルトがアニにそう問いかける。私も、名前くらいしか知らない。

「確か、魔道具の国と呼ばれるほどの研究大国だったはずです。灯りの魔道具を低コストかつ、低魔力で使えるようにしたのはナハトブラオなんですよ。」

「魔道具の国か…ちょっと興味出てきたかも。」

この家がもっと便利になるような魔道具もあるかもしれない。

「面白そうね。あたしも、魔道具、結構好きだし。」

「魔道具って、お嬢様が乗ってるクルマとか、この家のスイドウってやつとかだろ?そんな便利なものがいっぱいある国か…おもしろそう!!」

「イザベルも行く?」

さすがに、あんなに目を輝かせているのに留守番させるのは酷だろうから、そう声を掛けてみる。

「いいのか!?行きたい!!」

「いいのか。なんて言って、行く気満々だったくせに。」

アルトが苦笑しながらそう言う。

「ではまず、東の港町に向かいましょう。そこから船が出ていたはずです。」

いつもみたいに私が先に飛んで移動してワープポイントを作ってきてもいいけど、アニがそう提案するってことは、船で行くメリットがあるのかもしれない。というか、たぶん乗ってみたいんだと思う。

「了解。ここからどの位の場所?」

「どうでしょう。私も詳しい場所は分かりません。地図が必要ですね。」

「じゃあ、まずは下調べからね。食べ終わったら準備を始めましょう。」

アルトの一声で、新たな旅路の幕が上がった。

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