幕間 アニのランク昇格試験
お嬢様がエーバルト様たちとお話をする間、私は冒険者の試験を受けることになりました。今回の試験は、ランクの昇級試験です。今までの実績を鑑みて、特別に受けさせてもらえることになっています。今日、試験を受ける必要性はそこまで感じていなかったのですが、このままだと、いつまで経っても受けられずに、ズルズルいくわよ。というアルト様の言葉に乗せられて、先日の強制依頼の報酬を受け取りがてら、試験も受けることになりました。通常はワンランクずつしか受けられないようですが、私は初めの試験と同じように、やれるるところまでやらせていただけるようです。個人的には、Bランクが限界だと思っています。アルト様やお嬢様と同じ場所まで行くにはまだまだ実力が足りません。
王都の冒険者ギルドは今日もすごく賑わっています。個人依頼以外に、Aランクの方が受けるような依頼は少ないみたいですが、簡単な依頼の数は、国内でも有数らしいですから冒険者学校を卒業した直後の冒険者などは王都に集まってくるようですね。
「アルト様、まずは報酬を受け取りに行きましょう。」
なぜか張り切ってらっしゃるアルト様にそう声を掛けます。試験を受けるのは私なのにどうしてこんなにテンションが高いのでしょうか…
「そうね。いくらもらえるか楽しみだわ。」
どうやら、報酬に期待しての気分の上がり方だったようですね。よくよく考えるといつものことでした。アルト様はなぜかお金が大好きですからね。あまり使っているところを見たことはありませんが…何か欲しいものがあって貯金でもしているのでしょうか。でも、今までの報酬で買えないものなどあるのですかね。拠点は王家のお金で買えたとはいえ、冒険者として稼いだお金でも十分建てることが出来ます。ということは、屋敷より高額な物が欲しいということになります。私には思いつきませんね。
「この間の強制依頼の報酬受け取りと、この子のランク試験をお願い。」
いつもはお嬢様が行っている受付に、ギルドカードを提示しながらアルト様が声を掛けます。お嬢様がいるときは、座って受付するので、立ってするのはなんだか少し違和感がありますね。
「少々お待ちください。……こちらになりますね。ご確認ください。」
アルト様がお受け取りになった麻袋の中には、たくさんのお金が入っているようです。ですが、油断はいけません。あの王家のことです。全て銀貨や銅貨で支払い、かさを増やしているかもしれません。
「金貨三十八枚になります。」
三十八枚ということは、半デーモン一人当たり金貨七枚に、最低保証の一人金貨一枚ってことでしょう。あ、中身もちゃんと金貨ですね。さすがに疑い過ぎだったかもしれません。
「確かに。」
アルト様も確認が済んだみたいですね。お金にうるさ―細かいアルト様の確認なら間違いないでしょう。
「試験の方は少々お待ちください。お部屋の準備がありますので。」
今日、試験を受けるということは、ブルグミュラーの冒険者ギルドを通して伝えてあります。それほど待たせられることにもならないでしょう。初めはブルグミュラーで受けるつもりだったのですが、あそこのギルドは、試験はやっていないみたいでした。試験をやっている場所とやっていない場所の差は何なのでしょう?王都近郊ってわけでもなさそうです。王都にほど近いブルグミュラーでもやっていないのですから。最初に訪れたバッハシュタインで試験を行ってくれていてよかったですね。あやうく、青のダンジョンに入れなかったかもしれません。いえ、お嬢様の魔法があればそうはならなかったとは思いますが。
「試験頑張ってね。あたしは一緒に入れないから応援しかできないけど…」
アルト様からの激励が胸にしみます。……うん。頑張ろう。
「お待たせしました。ご案内します。」
案内されるがまま、後ろをついていくと、やっぱり地下で行うみたいでした。今回は、最初試験とは違い、魔力を感じ取り敵の数を特定する後方支援向けの試験ではありません。魔法と剣それに大鎌を使った魔物の討伐試験です。あまり強い魔物が出てこないといいのですが…ケルベロスや、この間の龍なんかが出てきたら私ではひとたまりもありません。確か、お嬢様の時は最後にデーモンが出てきたとおっしゃっていました。デーモンってどうやって倒すのでしょうか…
「では、冒険者ランク試験を始める。君はDランクだったな。まずはCランク試験からだ。準備はいいか?」
「はい。」
腰に下げていた剣を抜いて構えます。最初から魔法で攻めるよりも効果的です。私は魔力の制限がありますから、他の攻撃手段を手に入れた今は、魔法は奥の手です。
「では、Cランク試験を始める!!」
その声で開かれた奥の扉から出てきたのは植物型の魔物です。ツタが動き回ってからめとり、獲物を仕留め、どろどろに溶かしてから捕食する魔物だったはずです。これは最初から奥の手を使うべきかもしれません。植物系の魔物には火が有効ですからね。どうせなら、剣に火を纏わせてみましょうか。魔剣のようになりそうですね。意識を集中し、剣の周りに火を纏わせます。…成功ですね。この速さで出来るなら、通常の戦闘でも使えるでしょう。その剣で切りかかれば、一気に魔物が燃え上がります。ここまで燃え上がると建物が心配ですね。
しばらくすれば、魔物は燃え尽き灰になってしまいました。相手が植物型だと素材を取る時には使えませんね。
「Cランク試験合格!!」
無事に合格をもらえたみたいです。次はBランクですか。確か、冒険者全体で数パーセントしかいないんですよね。私の目標はここです。
「では、続けてBランク試験を始める!!」
次に出てきたのは初めて見る魔物ですね。一番近い動物は熊でしょうか。熊より全然狂暴そうですけど。近づくと攻撃されそうですね。おそらく、今は剣の火を警戒して近づいてきていないだけでしょう。どうせなら近づかないで倒すことにします。リスクを小さくするのは重要だとお嬢様がいつも言っていますからね。水魔法で全身びしょびしょにして、電撃の魔道具で倒します。奥の手のつもりの魔法を使ってばかりになっているのが少々あれですが。
「Bランク試験も合格だな。」
目標のBランク達成です。どうせならAランク試験も受けたいところですが、どうしましょうか。
「いけるところまでいくという話だったが、Aランク試験は大変危険だぞ。隷属の首輪をつけているとはいえ、大けがの危険性はあるからな。」
そんな忠告をしてくるということは、私の実力では少し難しいのかもしれませんね。それに私の治癒魔法、はお嬢様が使う物に比べ効果が薄いのでけがをしたら危険かもしれません。ですが、次に試験を受けられるのがいつになるかもわかりません。少しでも危ないと感じたら、試験を辞退すれば平気でしょう。
「危険だと感じたら、すぐに降参するので、やれるところまでやってみます。」
「分かった。隷属の首輪をしているから、すぐに止められるが油断はしないように。では、Aランク試験を始める。」
また開かれた扉から出てきたのは、アルト様に聞いていたトロールという魔物です。知能は低いですが、とんでもない怪力を持っているのだとか。さっきの熊より強そうですが、そろそろ魔法を使うのはやめた方がいいかもしれません。魔力的にはまだまだ余裕がありますが、治癒魔法を使う可能性を考えると、温存しておきたいところです。それにしても、ひどい臭いですね。異常な獣臭さというか、まるで、十年間湯浴みをしていないかのような臭いです。
神々の恩寵―ハネスを使って、身体を強化し剣で切りかかります。おや、ミスリルの剣でも皮膚が硬くて通りませんね。一度下がりましょう。掴まれたらたまりません。確か、トロールの弱点は首でしたね。あらかたの生物の弱点ではあるのですが、その場所以外に攻撃が効く場所が少ないようです。知能が低すぎて、攻撃されたことを認識できないのだとか…例え、目を潰しても何のダメージも無かったように攻撃してくるそうです。他の感覚が優れているのでしょうか。
私は、剣ではなく、大鎌に持ち替えます。この鎌はお嬢様の魔法の中にありますが、スキルを使えば問題なく入れ替え可能です。……やっぱりこっちの方がしっくりきますね。これを持っていると、お嬢様がシニガミのようだと言ってきますが、私にはそのシニガミというものが何なのかわかりません。紙というくらいですから、物語とかに出てくる人物なんでしょうか。そんなことを考えているうちに、ゆっくりとトロールが近づいてきます。ですが好都合です。私は大ジャンプをして高く飛びあがり、トロールの首めがけて鎌を振り下ろします。その際、少し力が入り過ぎたのか、天井にぶつかりそうになりましたが、なんとかなりました。それにほとんど無傷です。これは僥倖と呼べるのではないでしょうか。
「うむ。Aランク試験を合格とする!!」
試験官のその声は、新たなAランク冒険者の誕生を祝っているかのようだった。
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