第百十三話 竣工式①
明日はついに竣工式。結局あの後、アニの監視の元いろんな作業をすることになってしまった。まず行ったことは、招待客の選定だ。エーバルトとオリーヴィアに、ブルグミュラー男爵一行、建築組合の棟梁に土地斡旋業者の人、そういえばこの人の名前聞いてなかったな…。今度それとなく聞いてみよう。あとは、ヘルナー蜜店のハンネだね。招待状を送ったら、新作のお菓子を持ってきてくれるって返事が来たから楽しみだ。貴族とそうじゃない人が入り乱れるわけだから、礼儀とかマナーとかでトラブルや齟齬が生じるかもしれないけど、そこは目を瞑ってくれってことも、貴族の招待状には書いておいた。キースリング家の人たちは問題ないだろうけど、ブルグミュラー男爵に関してはちょっと不安もある。まあ、土地を買う時に出した手紙の返事の内容からして、男爵が何か問題を起こすってことは無いだろうけどね。いきなり、無礼だ!!とか言って、客を打ち首にしたりなんてことにはならないと思う。仮にそんなことになったとしたら、絶対止めるけどね。逆に、平民の客の方には伯爵と領主の男爵が来るってことも伝えてある。彼らは仕事柄、貴族と関わることもあるみたいだから、そこまで気にしている様子は無かった。私が貴族と関わりがあるってことも気にも留めてない。Aランク冒険者なら当たり前だろうみたいな感じで思ってそうだ。
次にしたことは全体の流れを作ること。式典自体は十時からスタートってことにした。そのくらいから始めると、食事会の時間がちょうどお昼時になる。最初は、庭で安全祈願をしてもらう。これは棟梁が紹介してくれた司祭に頼むことになっている。軽い打ち合わせもしたけど、所要時間は三十分位ってことだ。意外と早く終わるみたいだね。ちなみに、今回の司祭が所属するのは、この国の国教であるヴァ―ルハイト教というところだ。信仰しているものは、真実。概念的でよくわからないけど、なんでも、自分を偽らずに生きていけば、救われるということらしい。でも、嘘をつくこと自体を否定しているわけではないみたいだ。そこは、人というコミュニティーで生活していく上で必要なことだと割り切っているってことだった。嘘を言ったとしても、自分の中に真実を持っていれば問題ないって考え方らしい。私には信仰とかそう言ったものはよくわからない。
安全祈願が終われば、次は屋敷内の案内。これがお客さんにとってはメインイベントだね。アニや使用人たちと一緒に案内する順番と、想定される質問の答えを考えた。主には魔道具のことだろうけどね。でも、売ってくれなんて言われたらちょっと困る。魔力炉はまだ余っているから、新しく作って売るっていうのもいいかもしれないけど、今後、魔力炉が必要になることも必ずあるはずだ。確実に補給が出来る見込みもないし、流出してしまってもいいものか…それに、仮に売り渡したところで、初めに込めた魔力がなくなれば補充しなくちゃいけない。さすがにそれは面倒くさい。相当な理由が無い限りこれは無しだね。
それが済んだら最後に食事会だ。これは立食形式にすることにした。コースとかにすると、参加者の好みの把握なんかが大変だからね。この形式にすれば、自分が好きな物だけを取って食べることが出来るから、手間を大きく削減できる。メニューは料理人にまかせてあるから、私も当日までお楽しみだ。一応、アニに貴族に出したとしても問題ないかは確認してもらってる。料理人たちは貴族向けの宿で仕事をしていたわけだから、問題ないって言ったんだけど、確認しなきゃ気が済まないみたいだから頼むことにした。アニにもサプライズ気分を味わってほしかったんだけどね。アルトなんて絶対に言わないでって言ってくるくらいだ。なんでも、いつもと違う食事をするんだから、楽しみを少しでも増やしておきたいんだって。私と似たようなことを考えてる。どっちに影響されてるんだろうね。
後はついさっき、食事会を行うダイニングの飾りつけを終えて準備は完璧だ。考えることが多くて、準備は結構大変だった。明日に備えて、今日は早めに休むとしよう。やるからには絶対成功させなきゃね!!
「皆様、本日はお忙しい中、ご臨席ありがとうございます。今式のスケジュールですが、招待状に記載させていただいたものと変更はありません。まずは、安全祈願の御祈りをしていただきます。では、司祭様。よろしくお願いします。」
時刻は午前十時。竣工式は時間通り開始することが出来た。みんな楽しみにしていてくれたみたいで、棟梁なんかは三十分も前に来ていた。司会をしているアニも心なしか楽しそうだ。
「あんなに嫌がってたのに、よく準備が間に合ったわね。」
司祭のよく分からない祈りを尻目に隣に立っているアルトがそう呟く。来客者たちは、用意した椅子に座りながら熱心に見ているのに、アルトは気に留める様子もない。私もなんだけど。
「私が言い出したことだし、最後まで責任持ってやらないと。」
アルトが前に言ってたことをそのまま言ってみると、微妙な顔を浮かべている。
「それ、あたしが言ったことじゃない。まあ、無事に開催できたわけだし、責任は果たしたって言えるんじゃない?」
「それ、褒めてるの?」
「褒めてるわよ。」
「私、ギリギリにならないと火が付かないタイプなんだよね。」
学生時代のテストとかもそうだった。前日に一夜漬けするタイプ。
「ただの悪癖じゃない…」
「いや、あるあるだと思うよ?」
「人間って愚かなのね。余裕をもってやった方がいいに決まってるわ。」
なんか急に人外っぽいことを言い出したアルトさん。まあ、余裕を持つことは大事だと思うけど、それが出来るかは別問題だ。
「司祭様。ありがとうございました。では、ここからは屋敷の紹介となります。先導いたしますので、後ろをついてきてください。」
そこからアルトとしばらく中身のない会話をしていると、いつの間にか祈願が終わったみたいだ。ここからは私の仕事だね。
「それでは、案内します。こちらへどうぞ。」
少し離れた場所にいたアニに合流してから、とびっきりの営業スマイルみんなに向けて、でそう言ってみる。私に釘付けだね。自分で言うのもなんだけど、この世界の私の容姿はとんでもなく美形だし、こういうのは絵になるんだと思う。
「は、ハイデマリー様。今日はよろしくお願いします。」
緊張した面持ちでヘレーネが近づいてきてそう声を掛けてくる。
「うん。楽しんでってね。」
そんな感じで、ウィザーズお宅訪問が幕を開けた。
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