第三十五話 攻略報告

 「広い土地ですか?」

冒険者ギルドに到着後、早速聞いてみる。

「そう。開けた土地がいいんだけど…」

「と言いましても、町の中にそんな場所はありませんし、かと言って町の外は街道と森しかありませんから…」

この町は王都に向かう人たちの休憩の町。所狭しと商店や宿屋が並んでいるわけで、広い土地どころか、公園みたいな広場すらない。最悪、森を切り開くことも考えないといけないかも…さすがにそれは面倒すぎるから避けたい。となると、ワープで移動するしかないわけだ。ワープできる場所は、キースリング家の離宮の私室、地下の練習部屋、王都の上空、宿屋の部屋、それにダンジョンの近くだけだ。その中の候補となると、地下の練習部屋だけだけど、あの家は、今頃大騒ぎだと思う。当主が死んだわけで、しかもその犯人が私であることを知らないということは、さすがにないだろうし。もし、滞在がバレたら、森を切り開く以上に面倒なことになる。

「そもそも、自由に使える土地というのが少ないですからね…」

一人で、あーでもない、こーでもないと考えているのを見かねてかそんな声をかけてくる受付のお姉さん。だけどそれじゃあ何の解決にもならない。

「どういうこと?」

「開拓されている土地というのは必ず、所有者がいます。開拓した者であったり、領主の貴族であったりと持ち主は様々です。売りに出されている土地もありますが、それも購入するまでは所有者がいるわけですし。」

そうなると取れる方法は一つだ。森を切り開くしかない。

「じゃあ、仕方ないから森を切り開くことにするよ。」

「そ、そうですか…切り開いた土地は所有権を主張できます。詳細な場所を教えていただければ、手続きはこちらが請け負いますよ。」

「頭にとどめておくよ。」

それだけ言って、受付を離れようとしたところ、ある事を思い出した。ダンジョンから持って帰ってきた、金塊を換金することだ。それに、ダンジョンの入り口で、未到達の層へ到達したら、報酬が出るとも言っていた。さすがに、イエレミアスやマグダレーネのことを話すわけにはいかないし、17層が最下層だったことにして、その部屋に入るには特殊なスキルが必要とでも言っておこう。換金となれば掲示板で、依頼を眺めている、アルトたちも呼んでこなければ。アルトなんかは楽しみにしてるだろうし。

「ちょっとまってて。」

そう告げて一度受付から離れ、掲示板へむかう。

「アニ―。アルトー。」

二人に近づいてそう声をかける。

「ちょっと大変よ!!あなたの捜索依頼が出てるわ。」

指差された依頼書にはこんなことが書いてあった。

「全支部共通依頼。ハイデマリー・キースリング伯爵令嬢の捜索。依頼者、エーバルト・キースリング 詳細は依頼を受けた場合にのみ開示。」

どうやら、私の兄が依頼を出しているらしい。目的はわからないけど、母を殺した私を捕まえようとしているのか、それとも別の目的があるのか…

「まあ、平気でしょ。ハイデマリーなんて珍しい名前じゃないし、そもそも伯爵令嬢が冒険者やってるなんて誰も思わないよ。」

それにこの世界にカメラなんかはない。精々、似顔絵がいいとこだ。私を見てこの伯爵令嬢と同一人物だと特定できる人間は少ないと思う。

「いつものごとく楽観的ね…」

「まあ、仮に連れ戻されそうになっても私に、アルトに、アニがいれば十分蹴散らせるってのもあるけど。」

「私も戦力に数えてくださるのですね…。」

アニは、今は水魔法しか使えないけど、今後もっと伸びていくだろうし、そもそもその水魔法さえあれば大体の敵を圧倒できる。いつもの水の球に閉じ込めるだけでね。

「もしかして、気に障った?」

「いえ、そんなことはありません。むしろ、お役に立てているようでうれしく思います。メイド冥利に尽きるというやつです。」

メイドとはあんまり関係ない気がするけど嬉しそうだし、まあいいか。

「なら、アニにも頑張ってもらわないと。」

「人事を尽くします!!」

やる気があってなによりだ。

「ってそんなことは置いといて、今からダンジョンから持ってきた金塊を売るから…」

「待ってたわ!!早く行きましょう!!」

私の言葉を遮りアニが声を上げる。私とアニはそのまま手を引かれ、受付へととんぼ返りだ。

「はいこれ!!換金してもらってもいい?それとこれ、青のダンジョン完全攻略の証。報酬貰えるんでしょ?あ、こっちは返してね。」

交信機能がついているから取られたら困る。

「完全攻略ですか!?少々お待ちください。支部長を呼んでまいります。あ、金塊の方は一度預からせてもらいますね。」

そう言うと、受付のお姉さんは引っ込んでいってしまった。金塊の方はこの前、飛竜の素材なんかを売った時に査定したのと同じ人が持って行った。

 数分後適当に雑談しながら待っていると、慌てた様子で、このギルドの支部長、ジェイミー・ランペルツその人がやってきた。

「ハイデマリーさん。青のダンジョンを完全攻略したというのは本当ですか!?」

「嘘ついてどうするのさ。はいこれ。完全攻略の証拠のステア…じゃなかったタグだよ。ちゃんと返してよね。」

念のため釘を刺しておく。

「お預かりします。」

しばらくステア―キーを観察する支部長。

「確かに、最終ボス撃破と印字されていますね…素材も他のタグと同じ。それに魔力も宿っている。はい。確認が取れました。ハイデマリーさん、アルトさん、アニさんを青のダンジョン、攻略者に認定します。」

「それで、報酬ってなんなの?」

待ちきれないとばかりにアルトが聞く。

「それがですね…何百年も攻略されることのなかったダンジョンの攻略ですから、我々も決めかねておりまして…下手をすると国から勲章を授かるレベルなので…もちろん、国からのものとは別に、ギルドからも褒章をお支払いします。」

勲章…王宮であんなことした私たちがそんなもの貰えるとは思えないけど。まあ興味もないしいいけどさ。

「いくらになるか楽しみね!!」

何でアルトはそんなにお金を使わないのに、お金が好きなんだろう?ちょっと不思議だ。まあ使う機会がないってだけで、何か欲しいものがあるのかもしれないけど。

「では、今からその報酬のことも含めて、青のダンジョンの未到達だった領域についてお話を聞かせていただきたいのですがよろしいですか?」

「もちろんよ!!」

アルトがそんな返事をしたことで、今後の予定が決まってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る