第三十四話 戦利品

 ダンジョンから戻った翌日。昨晩はご飯を食べたらぐっすりだった。意外と疲れていたみたいだ。私とアニが目を覚ましたのは昼前。随分と眠りこけてしまった。普段そこまで寝る必要がないアルトもまだ眠っている。まあダンジョンで気を失ったりしてたし、アルトも疲れてるんだろう。先に遅めの朝食を二人で摂ってしまうことにした。疲れてるなら寝かしといてあげよう。今日のメニューはスコッチエッグにトースト、それに野菜スープだ。朝食だからか、一つ一つの量は少ない。もうすぐ食べ終わるといったところで、アルトが起きてきた。

「おはよう」

目をこすりながらそう言ってくる。

「おはようございます。アルト様も朝食摂りますか?」

アルトはご飯を食べたり食べなかったりする。もともと食べる必要もないって言ってたしね。

「今日はいいわ。面倒だから。それより、食べ終わったら持ち帰った物のチェックしない?」

「いいよ。ちょうど食べ終わりそうだし。」

特に断る理由もない。アニも、昨日手に入れた魔法の本が気になってるみたいだし、問題ないと思う。

 食器の回収が来るのを待って、私は収納魔法から昨日のお宝を取り出した。魔道具に、魔力炉、ミスリルに、金塊、最後に本だ。

「こう見ると壮観だね。」

特に金塊とミスリル。この二つは量が多いこともあって、見るからに宝の山といった感じだ。

「まずは魔道具のチェックね。まずはこれ。水をきれいにする魔道具よ。」

手に取ったのは、水筒みたいな形をした魔道具。

「これどうやって使うんですか?」

「中に水を入れて数分経てば、綺麗な水に大変身よ。」

「ここじゃ試せないね。」

汚い水なんてここにはない。

「まあそうね。でもこれはアニが持ってなさい。私たちとはぐれてしまったときなんかに役に立つでしょ?その辺の川や沼の水だって飲めるようになるわ。ハイデマリーには浄化があるし、あたしは水を飲まなくても平気だし。」

「私も水魔法を使えば水の確保はできますが…」

確かに。魔法で作った水を飲めばいいだけだ。

「水魔法で生み出した水は飲むことはできても、渇きを潤すことはできないわよ。元は魔力なんだから。」

「そういうことは早く言ってください。」

全くその通りである。アルトは細かい重要なことを教え忘れることが多い。

「悪かったわね。まあとにかくアニが持っていなさいな。」

「分かりました。」

そう言ってアニは自分の鞄の中に魔道具を入れた。荷物も増えたみたいで小さな鞄はパンパンだ。

「今度新しい鞄を買いに行こうか。今使ってるのじゃあ、もう小さいでしょ?」

「そう…ですね。最近荷物も増えましたから。」

鞄か…私は収納魔法があるから必要ないけど、アニにも似たような魔法が使えればいいのに。アルトの肉体みたいに私が創ってもいいかも。収納魔法にアクセスできる道具を考えてみるのもありだ。

「じゃあ次ね。これは火をつける魔道具。」

見た目は…何だこれ?竹の筒?大きさは五センチくらいかな。これでどうやって火をつけるんだろう。

「これは息を吹き込むと火が出るわよ。吹き込んだ量によって火力の調整ができるわ。」

なるほど。使い方はわかったけど、そんな小さい、中も空洞の筒の中にどうやって魔力炉を仕込んでいるんだろう。

「これは使い道がないね。アニも火魔法を覚えたら使わなくなるだろうし。」

アニは魔導士の血を引いているわけで、さすがに覚えられないということは無いだろう。

「まあそうね。念のため私が持っておくことにするわ。」

そういってアルトがポケットにしまった。

「これが最後の魔道具だね。電気で相手の意識を奪う魔道具。」

形としては拳銃ってところだ。この世界に本物の銃は無いと思うけど…これも前世の世界から持ち込まれた知識からかな。

「これはこう持って…」

アルトが魔道具を構える。

「この人差し指のところを引けば、電撃の玉が発射されて、当たった相手の意識を奪うわ。」

実際に引き金を引くことは無かったけど、なんとなく様になっていた。

「便利そうですね…」

確かに相手がこの魔道具がどんな効果を持つか認識できなければ、強力だと思う。

「これは誰が持っておく?」

三人とも魔法が使えるから、武力についてもそこまで問題はない。誰が持ってもいい気がする。

「順当にいけばアニね。攻撃手段が一番少ないのだし。」

「では、私が…」

そう言ってまた鞄に仕舞おうとする。

「そういうのは、すぐに取り出せる場所に入れといた方がいいんじゃない?」

いざというときに取り出せないんじゃ意味がないからね。

「そうですね。」

そう言って今度はベルトに挟んだアニ。なんだかかっこいい。女スパイって感じだ。

「魔道具はこれで全部ね。」

魔道具というか、サバイバル用品って感じだけど。

「金塊は今度売りに行くとして、ミスリルと魔力炉は私が車を作るのに使うから、あとは魔法の本だね。」

楽しみな顔を隠しきれていないアニが本を手に取る。その表紙は革張りで、いくつかのカラフルな宝石があしらわれている。パラパラと捲っていくと、中には、火魔法、風魔法なんかの普通に使えそうな魔法から、拷問魔法や、呪いなど、かなりエグイ魔法もある。そんな中でアニが興味深そうに見つめるページ。そこには洗脳魔法と書かれていた。

「この魔法があればこの国だって乗っ取れますね…」

そんな言葉がアニの口からこぼれる。

「そんなことしても何の利にもならないよ。面倒なだけ。」

国を治めるのになんて興味もないし。でもまた王族側が何か仕掛けてくるようならかけてみてもいいかも。

「冗談です。」

普通の表情でそんな冗談言わないでほしい。

そこからページを進めていくと、次に目に入ったのは高位魔法のページ。時間魔法や音魔法が書かれていた。だけど膨大な魔力が必要みたいで、使うとしても、私やアルトにしか使えないだろうね。創造魔法で作るには概念的過ぎてイメージが難しいし、使うなら覚えるしかないかも。

「時間旅行も面白そうだね。」

パラドックスの発生には気をつけなきゃだけど。

「時間を自由に操る魔法ですか…未来に行ったり、過去に戻ったり、時の流れを止めることさえできるようです。」

「知ってはいたけど…まさか習得方法が分かるなんて…」

アルトも驚いているみたいだ。

「危険もありそうだけど、利は大きそうだね。使うか使わないかは別として、覚えておいてもいいかも。」

「そうかもしれないわね…でもその前に、あなたは車を作るんじゃないの?魔力炉も最高品質のものが手に入ったし、ミスリルだって…」

「そうだけどここでは無理だね。スペースが足りなすぎる。」

「なら金塊を売りに行きがてら、冒険者ギルドで聞いてみたらどうですか?自由に使える広い場所は無いかと。お嬢様が作業をしておられる間に私も魔法の修練ができますし。」

「そうだね。じゃあ早速、行こっか。」

私たちは三人そろって宿を出た。

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