三十三話 ダンジョン完全攻略

「聞きたいことはもういいのか?」

「今はもういいかな。また何かあればさっきのやつで呼びかけるよ。」

「そうか。なら先ほど言った宝物庫へ案内しよう。ついてこい。おっと、私の姿は見えないのだったな。奥に見える扉だ。」

部屋の奥に進むと、そこには石でできた扉があった。ボス部屋の扉と同じくらいの大きさだ。

「鍵はかかってない。自由に入るといい。」

そういわれたので扉を押し開く。やっぱり、見た目に反して軽々開ける。

「うわあ…」

扉の中には、金銀財宝ばかりか、鎧に、剣、宝箱も山ほどある。

「本当にもらっちゃっていいの?」

「かまわない。これは私が魔王時代にコレクションしていたものだ。次の魔王にそのまま、くれてやるのも癪だったのでな。持ち出してきた。今となってはもう使い道がない。それにこれはダンジョンを攻略したお前たちへの報酬でもあるんだ。好きに持っていけ。」

「ハイデマリー!!みて!!これ魔力炉よ。それも最高品質。金の魔力炉よ!!」

早速、宝物庫の中を漁っていたアルトが金銀財宝に混ざって黄金色に輝く砂無砂時計を掲げた。

「やったね。」

これで念願の車が創れる。もしかしたら他にも何か使えるものがあるかもしれないし、私も何か探してみよう。

「あ、これミスリルだ。しかも、この前買ったやつより、随分と魔力が多い…」

宝物庫の中にいくつかあった魔力を含んだ物その中の一つは、一つというか塊はミスリルだった。これは回収と収納魔法に放り込む。

「それは便利な魔法だな。疑似的に容量無制限の収納を作っているのか…」

興味深そうな先代魔王。一目で、魔法の性質を見抜かれてしまった。敵には回したくないところだ。

「そう。創造魔法で作ったんだ。」

「君の魔法の使い方は面白いな…」

「そうかな?」

アニと二人で大量にあるミスリルを放り込みながら答える。

「ああ。創造魔法の応用は簡単なことではないぞ。イメージをそのまま具現化する魔法だ。容量無制限の収納など発想することはできても、具体的にイメージするのは難しい。」

まあ、異空間に放り込んでるだけだけどね。

「よし。こんなもんかな。」

宝物庫にあったミスリルを回収し終えた私たち。

「アニは何か欲しいもの無いの?」

私を手伝ってばかりで何も持って帰れないのはさすがにかわいそうすぎる。

「特には思いつきませんね…少し見て回ってきます。」

そういうと宝物庫の中を探索し始める。それと交代で今度はアルトが戻ってきた。両手にどっさり物を抱えて。アニとは正反対だ。

「これ収納魔法に入れといてもらえる?」

「こんなに?」

というかアルトは自分で収納魔法にアクセスできるんじゃなかったっけ。

「そうよ。役に立ちそうな魔道具を見つけたから。これは水をきれいにする魔道具ね。これがあれば川の水だってそのまま飲めるわ。」

「確かに便利だけど…」

私の浄化で事足りそう。まあ持ってて悪いことは無いか。

「それにこれは着火の魔道具。」

それも、爆撃魔法(小)で事足りる。

「これは電撃の魔道具。敵に使えば相手の意識を奪えるわ。」

スタンガンね。前世で普通に買えるスタンガンは相手が少し怯む程度だって聞いてたから強力ではあるんだけど…魔法でよくない?

「最後に鍋ね!!」

「鍋!?ここにきて!?魔道具じゃなくて!?」

「鍋よ。鍋。なんの変哲もないただの鍋。気になったから持ってきちゃった。」

どこでも手に入るものを持ってこないでほしい。

「ああ、それか。以前、薬の調合をするときに使った鍋だな。ほしいのならくれてやるぞ。」

マジでただの鍋だった。

「いらないわよ!!」

「アルトが持ってきたんじゃない…」

大量のお宝を前にして、テンションがおかしくなってるみたいだ。

「というか持ち帰るのは魔道具だけでいいの?」

金銀財宝が山ほどあるのに、守銭奴のアルトらしくない。

「あとは少し金塊を持っていくくらいね。」

違った。しっかり持って帰る気だった。

「お嬢様。私、これを持っていきます。」

こっちに戻ってきたアニが抱えていたのは一冊の分厚い本。革張りで表紙には大きな宝石があしらわれている。

「これ何の本?」

「魔法の本です。いろんな魔法の使い方や習得方法が書いてあります。」

「どれどれ…」

アルトも覗き込んでくる。

「すごいわね。これがあれば、自分の適性以外の魔法も覚えられるし、高位魔法の習得方法まで載ってるわ。」

どうやらすごい本みたいだ。

「詳しく読むのはここを出てからにしよう。」

「その方がいい。言い忘れていたが宝物庫も含め、この部屋は外よりも時間の流れが遅い。あまり長居するものではないぞ。」

「早く言いなさいよ!!」

「ここで一時間過ごすと外では何日も経っているとかそういうことですか?」

浦島現象だね。

「まあそういうことだ。どの程度かは分からんが。」

まずい。もし一週間経っていたら私たちは死んだことにされてしまう。それは面倒だ。

「早く出よう。もし一週間経ってたら面倒なことになる。」

「急ぐなら、瞬間移動を使うがいい。このダンジョン内ならの層へでも移動できる。」

そういえばそんなの貰ってたね。ダンジョン内にワープポイントは作ってないからラッキーだ。

「使い方は?」

「何層に行きたいのかを声に出せばいい。入り口に戻りたいなら、一層、初めの扉といった感じだ。」

「分かった。じゃあ最後に、あなたと先代聖女の名前、教えてよ。」

ここまでいろんなことを聞いたのに名前も知らないじゃあ味気ない。

「名か…私はイエレミアス。そして彼女の名はユリアーナだ。」

「私はハイデマリー!!」

「アルトよ。」

「アニです。」

「そうか。ハイデマリー、アルト、アニ。お前たちのこの先の道に幸運を。」

「「「ありがとう。(ございます。)」」」

「一層、初めの扉。」

そう言って私たちはワープした。




「その軽装で随分と長く潜っていたね。もう四日だよ。」

初めの扉から少し歩き、ダンジョンの入り口まで出ると、受付の青年にそう声を掛けられる。どうやら一週間は経ってなかったみたいだ。それでも四日。私の感覚では、ダンジョンに入っていたのはいいとこ、半日だ。イエレミアスの部屋にいたのは二時間ぐらいかな。となるとあの部屋の一時間は、外の二日ってことになる。

「そう。中は太陽が見えないから、時間の感覚がおかしくなってたみたい。」

適当に答えておく。

「ところで、どこまで進んだんだい?」

興味津々なその顔に、私は入ったときと同じ言葉を贈る。

「いけるところまでだね。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る