第三十六話 ダンジョンの内部情報

 「では聞かせてもらってもよろしいですか?青のダンジョン17層のボス部屋からの未到達だった領域について。」

 試験の時の豪華な応接室へ通された私たちに、早速とばかり問いかける支部長。急だったから何の口裏合わせもしてない。だけどこんな時こそ、テレパシーである。

(イエレミアスとマグダレーネのことは言わないようにね。)

『分かってるわよ。』

(といっても、ダンジョンの最深部に先代魔王がいたなんて簡単には信じないと思いますが…)

(まあ、そうだろうね。大丈夫だとは思うけど、もし本当だってわかっちゃたらどうなるかわからないでしょ?)

二人が倒されるなんてことはないと思うけど、討伐できないとなったら、あのダンジョンは地下だから埋め立てるとかはありそうだ。

「どうかしました?」

なかなか話し出さないことを不思議に思ったらしくアルトの方をじっと見つめる支部長。ん?何でアルト?ああ。そうか。

(アルトが説明すると思ってるんだよ。)

『あら、てっきりあなたが言うもんだと思ってたけど。』

まあ、今回のダンジョンであったことを考えるとね。

(私、見た目は子供だし、アルトはアニの師匠ってことになってるし、リーダーだと思われてるんじゃない?)

見た目は子供で思い出したけど、そういえば、私が転生者だということは、聖女になる条件を聞いたことによって、アニも察したはずだ。それでも何も聞いてこない。自分が魔導士の血筋だとわかって、そのことで一杯なのか、あえて聞いていないのか…

「ちょっと頭を整理してたのよ。じゃ、じゃあ説明するわね。」

そんなことを考えていると慣れない口調でアルトが語り始めた。なんかちょっと心配だ。

「結論から言えば、ダンジョンの最下層は17層だったわ。要するに最下層まで到達は、他の冒険者にもできていたわけね。そしてその17層が、今まで攻略されなかった要因はボス部屋に入れなかったことにある。」

「そうです。多くの冒険者がその壁にぶつかってきたというわけです。」

「その扉開けるための条件は、一定以上の魔力を持つってことだったわ。」

(アルト様にしてはうまく言いましたね…) 

アニの心の声がテレパシーで聞こえてくる。アルトにしてはって、アルトにも聞こえてると思うけど…

(まあ確かにいい理由だよね。)

これなら、辻褄も会う。今まで開けられなかったのは、魔力が少ないせいだってことになるからね。

「その魔力量と言いますと、どのくらい必要になるのでしょうか…」

「正確には分からないけど、最低でも、宮廷魔導士になれるくらいの量が必要じゃないかしら。」

「宮廷魔導士…となると、ほとんどの冒険者には無理ですね。お二方以外のAランク冒険者にも可能かどうか…」

宮廷魔導士の魔力量って私たちと比べてどのくらいなんだろう。まあ名前からして、魔法使いが就ける最高職っぽいし、挙げる対象としては間違ってないよね。

「それだけじゃないわよ。ボス部屋の扉を開けることができても、中のボスを倒さないといけないわけだからね。最低でもそのくらいの魔力がいるってだけだから。」

「もしかして、そのボスというのは、物理的な攻撃が効かない魔物でしょうか。」

「察しがいいわね。中のボスはデーモンよ。それも相当、高位のね。」

デーモンっていうのは嘘じゃないね。よく考えると、デーモンって知性ある魔物だから、正確には魔人になるのか。

「高位のデーモンですか。となると、こちらも、高度な魔法使いでなければ討伐できませんね。」

「まあ私たちなら余裕だけどね。」

マグダレーネと戦闘になっても余裕で勝てるなんてことはないと思うけどね。

「そのデーモンを倒したら、他の層と同じで、タグを落としたわ。またこれも同じ手順で、扉に嵌め込んだら、今度は階段じゃなくて、宝物庫が現れたってわけよ。」

この説明なら、違和感もないし、二人のことを隠しきれたかな。壁抜けができない限り、17層のボス部屋の扉は開けられないわけだから、バレる心配もなさそう。

「なるほど。分かりました。国の方にもそのように報告します。続いて、報酬のお話ですが、白金貨一枚でどうでしょうか。」

なんと、一生関わりがないと思ってた白金貨が出てきた。要するに金貨1000枚ってことだ。金貨一枚が十万円って考えると一億円だ。

「あたしは構わないけど。」

そう言って私とアニの顔を見るアルト。そんだけ貰えるなら異論なんてあるわけがない。強いて言えば…

「それ、普通の金貨でもらうことはできない?使いにくそうだし。」

「では金貨1000枚でお支払いということになりますね。先ほどお預かりした金塊の買取金額と一緒にお支払いします。」

「分かったわ。」

「それと、支部長。この辺に自由に使える広い土地ってない?」

ついでに聞いてみる。少し考え込む支部長。

「あいにく心当たりがありませんね…郊外の町に行けば売られている土地も多いので、比較的簡単に手に入ると思いますが…」

となるとほんとに車を作るために森を開かないといけない。いっそのこと、どっか遠くの町まで飛んで移動して、土地を買って拠点を建てるっていうのもありな気がする。お金が入ってくるばっかりで、使う機会もないし。森を開く前に二人に相談してみようかな。

「具体的にどの町が多いとかある?あんまり田舎過ぎないところがいいんだけど…」

「それならここから南に数十キロのブルグミュラーの町なんかはいいと思いますよ。自然も豊かですし、商店なんかも豊富です。」

「ブルグミュラーね。分かった。」

「ほかに何もなければ、あたしたちは行くけど…」

アルトがそう声を上げる。

「はい。私の方からはもう大丈夫です。改めて、青のダンジョン完全攻略おめでとうございます。」

「「「ありがとう。(ございます。)」」」

その言葉でこの場を締めくくった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る