第百九十七話 魅了の力
とは言ったものの、さて、どうしたものか。このサイズ――二十メートル以上の巨体に私の攻撃魔法は通じるのかな。爆撃魔法とかでもそれこそ、火力を高めにしない蚊に刺され程度のダメージしか与えられないだろう。それに、強力な魔法を使うのは障壁を張りながらだとちょっときつい。いっその事、障壁だけに注力して向こうの体力切れを待つか。と思ったのも束の間、再び障壁にひびが入る。ついさっき張り直したばかりなのに!?このまま壊されるスピードが上がっていったら障壁が意味をなさなくなる。あ、そうだ。例の魅了スキルを使ってみようかな。障壁が割れた瞬間なら、必ず私に視線を向けてくるだろうしチャンスはある。
「ウォラアアア」
巨人のその声と共に再び障壁が破られる。その直後、やはり勝ち誇ったように私に視線を向けてきた。今がチャンスと彼女―ヴァンパイアの女王に倣ってばちこーんとウィンクを決める。スキルは問題なく発動し、巨人が狼狽えたのが分かった。
「貴様、何をした?」
「何も?」
わざわざ教えてやる謂れも無い。でもちょっと効きが弱いかも?私が魅了された時は相手のことを知りたくてたまらなかった。「何をした」なんて余計な思考が生まれる余地すらなかったと思う。そう言えば、魅了の効果は見た目がいいほど強いんだっけ?自分で言うのもなんだけど、今世の私は見た目に関していえば相当いいはずなんだけど…
「まあ、よい。其方、名は何と申す?」
急に口調が柔らかくなったな…もしかして、意外と効果ありだったり?
「わざわざ敵陣営の人に情報を渡すわけが無いでしょ?それに、人の家を現在進行形で壊そうとしてるんだよ?そんなのと仲良くは無そうとか思わないから」
露骨に顔を顰める巨人。このまま帰ってくれたりしないだろうか。
「それに、いきなり突撃してくるなんて礼儀がなってない。ちゃんと事前に知らせてもらわないと…」
まあ、一応戦争をしてるわけだから、先触れをだすなんて馬鹿なことするわけないけど、私のスキルの影響下にある今なら何を言っても向こうがおかしいと思うことはない。と思いたい。
「む。だが、俺には目的が…目的?なんだそれは?この娘に会うこと以上に重要な目的など…」
随分と混乱している様子。もしかすると、魅了スキルは時間が経つほど効き目が上がるのかもしれない。今度、彼女にきいてみよう。久しぶりに会いたいし。
「あなたの目的なんかより私の都合の方が重要だよね?分かる?」
普段だったらとんでもないことを言ってる自覚はあるけど、今は押しと勢いが重要な気がするからこういうのもありだろう。礼儀にうるさいオリーヴィアが聞いたら卒倒しそうだけどね。自分を殺しに来た相手に礼儀を気にするほど私はできた女ではない。
「それはそうかもしれないが…」
「そう思うなら帰って。そして二度とここには来ないで」
「仕方あるまい。其方がそう言うならそうしよう」
すると突然踵を返し再びドスドスと地を鳴らしながら帰っていった。まさかこうも上手くいくとは…障壁に限界が来た時には殺し合いになるかと覚悟していたけど、魅了スキルの一つで撃退できるとは…
「お嬢様、いったい何をなさったのです?」
どうやら一緒にいたアニは状況をよく理解できていないみたい。そりゃそうだ。傍から見ただけでは、襲ってきた相手が舌戦の一つや二つでおとなしく帰っていったようにしか見えないだろうからね。
「この前覚えた魅了のスキルだよ。効き始めるのはちょっと遅かったみたいだけど、十分だね」
「魅了というのは、盲目的な恋に強制的に落とすようなスキルでしたよね?確かに、お嬢様のお言葉に従っていたようですが、盲目的とまでは言えなかったのでは?」
「確かに…やっぱり種族差のせいかな…ヴァンパイアの女王は私たち、人間と変わらない見た目だった。まあ、ものすごいなんて言葉じゃ表せないくらい美人だったけど。でも今回、私と巨人じゃ体格とかいろいろ違い過ぎる。全くそう言う感情が無いと魅了は聞かないらしいから、多少はあっただろうけ、恋愛対象としては見られなかったんじゃない?だから効きが悪かった。まあ、あれだけ効くなら十分だけどね」
「なるほど…とにかく今は魅了の効果が無くなってしまうより前に何か対策を練らないとですね」
「そうだね。障壁を張っても破られちゃうし。でも、だからと言って障壁を解除すると拠点にダメージが…障壁を張りながら、制限された状態で戦うのもきついし。うーん」
障壁魔法を魔道具化すれば、私の魔法の制限はなくなるけど、魔力の消費量が半端ないから補充の回数も半端ないことになるだろう。魔道具化は効率が悪すぎる。それに手持ちに高品質の魔力炉が無い。今あるのはお父様からもらったものだけだ。
「何とか拠点から距離を取った場所におびき出したいかな」
「では、その方向で行きましょう。アルト様がお帰りになりましたら事情を話して作戦会議ですね」
「うん。向こう陣営にこの場所は知られちゃったみたいだし、考えないといけないことがいっぱいだ」
ヘレーネが敵陣営にいる時点でそれは仕方がないことともいえるけどね。何せ、竣工式でこの屋敷に招いたどころか、隅々まで案内してしまったわけだし。
「とりあえずアルトたちを呼び戻そう」
そうして私は、今後を憂いながらアルトにテレパシーで連絡を取った。
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