第六十二話 兄姉との食事会

 「食事は貴族エリアでしましょうか。」

「貴族エリアとは?」

名前からして、貴族専用の場所なんだろうけど、どんな感じなんだろう?

「貴族エリアっていうのはね、王都の中央にある王宮を挟んで、北側にある貴族が生活する場所よ。主に、領地を持っていない、王宮で働いている貴族がね。中には貴族とその関係者しか入れないけど、きちんと整備されてて綺麗な場所なのよ。」

円形の王都の上半分の部分ってことか。王都はあんまり周ってなかったから、詳しい地形を知らなかったけど、そんな風になってるんだ。冒険者ギルドや、パーゼマン商会があるのは下半分ってことになるね。町の入り口からの一本道にあるわけだから、その半分の中でも下の方にあると思う。貴族エリアとの境目も観たこと無いし。貴族しか入れないっていうくらいだから、フェンスくらいないとおかしいしね。

 王宮の中からならそのまま貴族エリアへ出ることができるらしく、特に検問みたいなのもなく、すんなり貴族エリアへ。整備されてるっていうだけあって、確かにすごくきれいだ。ごみの一つも落ちてない。見える限りの建物も白で統一されていて、なんというか清潔感がある。まあ、特徴がない分、どこがどこだか分からなくなりそうだけど。

「あなたたち二人はこっちで生活してるの?」

アルトが二人に問いかける。

「はい。私たちが王都にいる間は、王宮の迎賓館で生活しています。その迎賓館も貴族エリアの中、王宮のすぐ近くにありますから。ほら、あそこです。」

そういったエーバルとの指さす方向には、たしかに、二階建ての大きい建物が見える。

「貴族はあそこに泊ってるのね。あれ?でもおかしいわね。貴族専用の宿泊場所があるなら、私たちが泊ってる、貴族向けの宿があるのはどうしてかしら。」

言われてみれば確かに。迎賓館が使えるなら、貴族はみんなそこを使いそうだ。そもそも、貴族エリアの外に泊るのすら嫌がりそう。

「ああそれなら、迎賓館は、王家の許可がないと使うことができないからですよ。それに、貴族エリアには迎賓館以外の宿泊施設がありません。貴族エリアで働く人たちは全て貴族の関係者で、ここに住む貴族自身が、必要と感じて連れてきた人ってことになります。食事のための店や、洋服店そういった店はありますが、ここに住む人にとって、宿屋というのは全く必要ないですからね。」

なるほど。だから貴族エリアの外に宿屋があるのか。

「そろそろ行きましょうか。今から行くお店は、おいしいコース料理を出すのですよ。」

数分の立ち話を経て、私たちは歩き出した。



そこから、オリーヴィアに案内され、少し歩いた先にあるお店に入る。いかにも高級料理店って感じの店だ。お昼時だけど、待たされるということもなく、すんなりと席に案内される。貴族しかいないわけだから、そんなに人も多くないだろうし、そ一つの店に集中することもないだろうから、あたりまえかも。

 まず、初めに運ばれてきたのはスープだ。オードブルみたいなのは無いのかな。この世界のコース料理の形式はそもそも、どんな感じなんだろう。運ばれてきたスープの説明も得にされることは無かった。他人の食事の席に口を挿むのはシェフであってもしてはいけないというのがこの世界のマナーらしい。どうせならと、目利きの義眼を使ってみると、これはカボチャのポタージュであることが分かった。うん。味もカボチャだ。こんなものの正体までわかるなんて、やっぱりすごい魔道具だね。

 そこから順番に、パン、肉料理、サラダが運ばれてきた。魚料理も食べたいけど、海や湖の近くの町に行かないと食べられないみたい。もちろんデザートは無い。甘いものが普及していなくて、そういう文化がないからね。残すは食後のドリンクのみってところで、今までしていた雑談の雰囲気と異なり、少し言いにくいような様子で、エーバルトが口を開いた。

 「ハイデマリー。この前会った後に一つ、とんでもない話が舞い込んできた。ヘルマン侯爵という方から、ご子息との婚約の打診があった。何とか理由をつけて断ろうとしたんだが、相手は侯爵だ。キースリング家よりも立場が上だから、力押しされてはどうしようもない。臥せっているという風に伝えもしたんだが、とにかく一度合わせてほしいと聞かなくてな。どうするべきかと頭を悩ませているんだが…」

この前は適当にごまかすって言ってたけど、てんでダメだったみたいだね。さてどうしたもんか。死んだことにするのはだめだって言われちゃったし。私に婚約を申し込んできてるってことは、浄化の力のことも知ってるだろうから、病気も使えない。臥せっているのは、母親が死んだ精神的ショックってことになってるし。もしかしたら、冒険者をやってることすらバレているかもしれない。

「二人は無いかいいアイデアない?」

アニとアルトにも聞いてみるけど、二人とも頭を悩ませるばかりだ。

「もうすでに、婚約してしまっているということにするのはどうでしょうか。詳しく聞かれた場合、まだ伝えられないとでも濁しておけば、侯爵である自分にも伝えられないとなれば、それよりも上の身分、公爵やそれこそ王家との婚約だと勝手に勘違いしてくれると思います。」

少しの空白の後、アニがそう零す。いいアイデアかもしれない。問題は、いつまで経っても、婚約や結婚したというニュースが出ないことで、嘘だとわかってしまうってことか。

「うん…それならしばらくは問題なさそうだな。」

そういうエーバルトもしばらくって言ってるくらいだから、この方法の欠点には気が付いてるんだと思う。だけど、ほかに解決方法もないわけで。

「現時点ではそうするしかないわね…お兄様。ヘルマン侯爵にはこのようにご説明いたしましょう。」

オリーヴィアの一声でそう決定される。

「そうだな…後のことはまたその時考えればいい。」

その時にはキースリング家としては致命的な問題になるかもしれないけどね。

「じゃあ、今日はお開きにしましょうか。」

話している間に運ばれてきていたドリンクを全員が飲み切ったのを確認して、そう告げるオリーヴィア。

「そうだな。改めて、叙勲おめでとう。」

そういったエーバルトは優しい表情をしていた。それはまるで、本当の家族に向けているような笑顔で――

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