第六十一話 叙勲式

 いよいよ今日は叙勲式。昨日は戴冠式があったけど、特に興味も無かったし宿で三人ゆっくり過ごした。したことと言えば、アルトに電撃の魔道具を作ったのと、復讐計画に使う魔法をいくつか創ったくらい。魔道具の方の形はアニの持っているものと同じ拳銃型で、素材は車を作った時に余ったミスリルを使った。簡単な実験もしてみたけど、威力も弾速も十分だったから、戦闘で使っても問題なさそうだ。

 「もうすぐ迎えの馬車が来る時間ですから、宿の入り口で待っていましょうか。」

いつもの服装とは違って、黒のスーツを着たアニにそう言われて、アルトと宿の入り口に向かう。ちなみに、私とアニはドレスを着ている。私は前に来たのと同じもので、アニは青が基調のロングドレスだ。

三人揃って、入り口で迎えを待つこと数分、王宮からの馬車がやってきた。前にキースリングの家に来た馬車より小さいね。まあ、あの時は一応、貴族を迎えに来ていたわけだけど、今回はただの冒険者の立場だから、当然と言えば当然か。私の正体を知ってるのは、国のトップだけらしいから、王宮式典管理部の人が知ってるわけもないしね。

 王宮から来た、乗り心地の悪い馬車に揺られることしばらく。窓から外を眺めてみると、王宮に到着したみたいだ。同じ王都内にあるわけだから時間もそんなにかかってない。近いのに迎えが来たのは、私たちだけじゃ、衛兵や門兵に止められて入れないからだろうね。まあ、やろうと思えば、正面突破でも、空からでも侵入はできるけど。

「お待ちしておりました。」

馬車を下りると、この前、打ち合わせの時に来た王宮式典管理部のノーラが出迎えてきた。てっきり、エーバルトとオリーヴィアも出てくると思ってたけど、二人はいないみたい。さきに会場で待ってるのかな。軽く、回りを見てみたけど、私が破壊した痕跡は残ってないね。傍から見れば元通りだ。望遠魔法を使ってよく見てみると、どこが直してある場所かもわかる。ほかの場所と違って、外壁が新しくなってるからね。上空から爆撃したから、上の方にその傾向が大きい。

「よくこの短い間に、ここまで直したわね。」

歩きながらアルトがそう言う。

「各町から、腕利きの建築士を集めて作業を進めましたからね。あの事故から一か月もたつ頃にはほとんどもとに戻ってましたよ。」

「今後はそうならないように注意することね。」

「ええ。あれから魔法実験は厳しく管理されるようになりましたから。」

アルトが釘を刺しても、真実を知らないノーラには意味が無い。とばっちりで、管理が厳しくなる魔法の研究者が不憫だね。全部あの王が悪いのに。

「こちらです。出席者の方はすでに入室されています。少ししたら、国王陛下も御出でになるので少々お待ちください。」

開けられた扉の中は、結構な広さのホールみたいな部屋。百人は余裕で入ることが出来るだろう。雰囲気的には映画館みたいな雰囲気だ。たくさんの座席があったり、スクリーンがあったりするわけじゃないけど、なんだか懐かしい感じがする。学生時代は現実から逃げるように、施設からもらえる少ないお小遣いや、こっそりしていたアルバイトの給料を使って入り浸っていた。

「こんにちは。ハイデマリー。それにアニと、アルトさんも。この間ぶりね。今回は叙勲おめでとう。」

そう声を掛けてきたのは、オリーヴィアだ。隣のエーバルトも、いくつか置かれている席の一つに座っている。

「確か、難しいダンジョンを初めて攻略したんだったな。すごいことだ。」

なんとなく顔が引きつっているようにも見えるエーバルト。これから新しい王に会うわけだから、緊張でもしてるんだと思う。

「ありがとうございます。」

礼を返すと、オリーヴィアはこちらに笑顔を向けてくる。

「そういえば、少し気になってたんですけど、二人は貴族の子息が通う学院に在学してるのですよね?お兄様はキースリング家の当主をしながらその学院に通うのですか?」

今度会ったら聞こうと思ってたんだよね。

「まあ、そう言うことになるな。まあ、俺はあと半年で卒業だからな。そこまで問題はないよ。今は休暇期間中だしな。」

それなら特に問題なさそう。この前会ってから、ちょっと気がかりだったんだよね。当主としての生活と、学生としての生活が大変だったら、その原因の一部は私にあるわけだし、少しくらい助けてあげてもよかったんだけどね。お金にも困ってるみたいだし。

「そうですか。それならよかったです。」

何がよかったんだ?とでも言いたげな顔をしてるエーバルト。私がエーバルトと少し話しているうちに、オリーヴィアがアルトにロックオンしたみたいで、何やら質問攻めにしている。そういえば精霊に興味があるって前に言ってたね。少し話を聞いてみると、アルトをうまく持ち上げながら、いろいろ聞いてるみたい。褒められてるもんだから、アルトも気をよくして、話し相手になっている。これが貴族の社交力か…

 そんな感じでしばらく雑談なんかをしながら過ごしていると、勢いよく扉が開かれた。

「国王陛下の御成りです。」

扉を開けた男がそう大きな声で言うと、エーバルトとオリーヴィアが立ち上がり、頭を下げた。アニもつられて下げちゃってるね。この国の貴族の作法として、目上の人の前では頭を下げ、許可があるまで上げてはならないというものがある。昔の日本にも頭を下げて主君を迎える。という作法があったみたいだけど、こっちでは土下座のような態勢じゃなくて、立ったまま頭を下げる。まあ、私は貴族として来てるわけじゃないし、頭を下げる必要もない。私たちがそうしないことに、男はムッとした顔を浮かべてるけど、特に何も言ってこない。そんなことを知ってか知らずか、他に従者を二人引き連れた、新王である、ディートフリート・グランデンブルグが入室する。お披露目であったときは好青年って感じの印象だったけど、ちょっと雰囲気が変わったかも。なんとなく威厳みたいなものを感じる。そういえば、こいつ。この前、賠償金を支払え!!なんて言ってきたっけ。今回も何かしてくるかもしれないから油断しないようにしないと。

「お前たちは退出しろ。」

ディートフリートが従者に向けてそう言う。すると三人とも特に反論するわけでもなく、すんなりと出ていった。暗殺とか疑ってないんだろうか…進行役みたいな人もいないし、ディートフリート自身がするのかな。

「みなさん。頭を上げてください。」

そう口を開いたディートフリートから先ほどまで感じていた、威厳のようなものは消え失せて、私が以前感じた雰囲気に戻っていた。

「では、まず初めに…先日は大変失礼しました。言い訳にしかなりませんが、あれは私の側近が勝手に私の名を使い、言ったことでして。私の意思ではありませんでした。お許しください。」

いきなり謝ってきた。この前のことっていうのは賠償金云々のことだろうけど、まさか、そんな背景があったなんて思わなかった。

「人のせいにするなんて最低ね!!」

アルトは信じてない様子。

「そう言われるのも仕方ありませんね…これで謝罪になるかはわかりませんが、私にできることならなんでもおっしゃってください。」

「それなら、あんたの父親、前王の身柄を寄越しなさい。」

オリーヴィアとエーバルトがギョッとした顔をしているのが見える。

「父を恨んでいるのは分かりますが…今の父は廃人も同然です。あの事件の後、完全に心を壊してしまい、常に寝たきり、他人の手が無ければ食事をすることはおろか、起き上がることもできません。そんな父の身柄を渡しても、皆さんの迷惑になるだけではないですか?」

王位継承にはそんな背景もあったのか。そんなの相手に復讐しても何もならないし、計画は中止かな。

(これじゃあ、計画は中止だね。)

『仕方ないわね。そんなのを引き渡しても、テノールにすぐ嘘だって見破られるだけだわ。』

(でしたら、今度作る、拠点の費用をすべて王家で持ってもらうというのはどうでしょう?すごくお金がかかりそうですし。)

(ナイスアイデアだね。)

「だったら、今度私たち、ブルグミュラーに拠点を建てるんだけど、その購入費とか建築費、その他もろもろの費用を全部負担してもらうってことで。どのくらいになるかわからないから今度請求する。あと、今後王家の許可がいるようなこと、例えば町に隣接した土地を開くとか。私たちが申請したそういうことには必ず許可を出して。最速、最優先で。」

ついでにこれも付け加えておく。

「分かりました。そのように取り計らいます。請求に関してですが、こちらを依頼した業者に見せれば、直接王家の方へ請求が来るようになりますので、是非お使いください。」

そう言って手渡されたのは、王家のマークが掛かれているカード。身分証と同じサイズだ。便利なものを手に入れた。まあ、たぶん拠点建設関係の場所じゃないと使えないようにされると思うけど。まあとにかく、恨みを晴らすよりも、何倍もの利益が返ってきたわけだから、結果的にはよかったかな。

「では、話もまとまったところで叙勲式に移りましょう。冒険者、ハイデマリー、アルト、アニにダンジョンマスターの勲章を授ける。」

軽く咳払いをした後、そう言って私たちに金色のメダルと、赤青白の三色のリボンがついたバッジを差し出す。

「こちらがダンジョンマスタ―の証になります。年金の支払いは冒険者ギルドを通して、行います。今年の分はすでに支払っておりますので、後ほど受け取りをお願いします。ほかに何もなければ、今回の叙勲式は略式のため、以上となります。魔道具を使って記録を残した後、退出してください。」

ディートフリートが外で控えていたらしい従者を呼び、撮影を済ませる。一度、同じような魔道具に触れているからか、アニとアルトも特に戸惑いみたいなものは見えない。

「では、私はこれで。」

そう言うと、さっさとディートフリートは出て行ってしまった。まあ、私たちのことは苦手だろうし無理もない。

「ハイデマリー。この後お祝いに食事でもどうかしら。」

時刻は昼過ぎといったところ。昼食にはちょうどいい時間だ。

「私は構いませんが…」

アニとアルトに視線を向けてみると二人も頷いている。

「分かりました。ご一緒させていただきます。」

そんなわけで、突発的な祝賀会をすることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る