第百二話 竣工式の計画と拠点突入

 「おお!来たか。」

事務所に入ると、棟梁が大声でそう声を掛けてきた。相変わらず元気だね。

「どうだ、いい屋敷だっただろう?」

どうやら、すでに完成した屋敷を見てきたと思ってるみたいだね。

「実はまだ見てないのよ。冒険者の仕事でしばらくここを離れていたから。」

一番先を歩いていたアルトがそう答える。

「そうだったのか。なら後で見てくるといい。俺が指揮を執るようになってから建てた全ての建物の中で一番の出来だ。楽しみにしていてくれ。」

ほう。それは期待できそうだ。見るのが楽しみになってきた。

「まあ、それは後でゆっくり見てもらうとして、手紙にも書いておいたが竣工式についていろいろ話したいことがある。」

そう言いながら、棟梁に席を進められ腰を下ろすと、きれいなお姉さんがお茶を持ってきてくれた。秘書か何かかな。運ばれてきた紅茶を一口飲んでみると、ストレートティーだった。やっぱり緑茶が恋しい。

「それで、その竣工式っていうのは具体的に何をするの?」

日本でも行われてた行事だけど、こっちだとどんな感じなんだろう。

「竣工式っていうのは、簡単に言えば建造物の完成を祝う行事だな。ある程度の規模…そうだな、大きめの商店以上の規模がるなら普通は行う。具体的には教会から人を呼んで、厄除けの祈りをしてもらったり、身近な人を集めて食事会なんかをしたりすることが多い。」

なるほどね。厄除けをするっていうのは日本のものにあった気がする。食事会をするのも別におかしいってことは無いね。完成記念パーティーって感じなのかな。

「なるほどね。じゃあせっかくだし、やってみる?」

私的にはこういう行事は大事にしたいからやりたいんだけど、まあ二人次第だね。

「あたしは構わないわよ。」

アルトは賛成みたいだ。

「…一つお聞きしたいのですが、教会から人を呼ぶというのは、その、ライナルト教からですか?」

アニの言葉で、私の頭にも一つ懸念事項が浮かんできた。たぶんアニと同種類のものだと思う。ライナルト教の教会からオリハルコンの剣を盗んでからまだそんなに日が経っていない。追手が来てるわけじゃないから、私たちがやったということはバレてないと思うけど、顔を見られていたとしたら関係者に会うわけにはいかない。初代勇者を崇めているライナルト教は国教ではないらしいから、たぶん呼ぶってことは無いと思うけど…

「なんだ、お前たちライナルト教の信者なのか?」

棟梁はこちらの想定とは全く違う受け取り方をした。ここで違うと言って、棟梁がライナルト教の信者だった場合、勧誘されそうだね。彼は宗教とか信仰するタイプには見えないから平気だとは思うけど。

「そっちはどうなの?」

聞いちゃった方が早い。

「俺は宗教とかには興味が無くてな。特に信仰しているものはない。葬儀とか式典は国教の方式で行ってるから、強いて言うならそっちか。」

やっぱりね。日本人に多いタイプだ。普段から熱心に信仰してるわけじゃないけど、冠婚葬祭は仏教式みたいな。

「私たちもだよ。実は前にライナルト教とちょっとしたトラブルがあってね。そこを呼ぶのは避けたいんだ。」

「なるほどな。冒険者をしているといろいろトラブルに巻き込まれると聞くし、無理もない。だったら、儀式関係は俺に任せてくれ。この仕事をしているとそっち関係の知り合いも多い。」

今までに何度も竣工式に関係してるだろうから、いろんな関係者と人脈があるってことだね。

「じゃあ、お願いするよ。」

「承った。」

仰々しくそう言う棟梁。これで問題は解決だね。

「後は日程か。あの規模の屋敷だ。使用人や料理人を雇ったり、家具を整えたりと準備に時間が掛かるだろう?」

確かに、料理人と使用人は欲しいところだ。家具の方は、竣工式を庭で開くことにすれば、後回しにできる。机とか椅子の最低限でいいからね。中に入りたいって人がいたら、家具はまだですって言っちゃえばいい。そんなことを言ってこれる関係性なのは、キースリング家の人くらいしか思いつかないけど。

「うーん。どのくらいかかるんだろう…」

といっても、具体的にどれくらいかかるかはわからない。

「一月後ってところじゃないかしら。人を雇って教育するんだからそのくらいはかかるんじゃない?」

「そうですね。すでに教育されている人を雇っても、こちらのやり方を教える必要はありますから。」

「一月後だな。分かった。領主様にも伝えておこう。返信用の手紙を預かっている。それにしても、領主様が竣工式に出席するとはな…さすがAランク冒険者と言ったところか。領主様も繋がりが欲しかったんだろうな。」

その予想は当たらずとも遠からずってところかな。

「悪いね。いろいろ頼んじゃって。」

このままこの話題が続くと、二人に秘密にしたことがバレてしまう。こんなときは必殺話題転換だ。

「ああ。これも仕事の内…なのか?まあいい。高い料金をもらっているからな。」

払うのは王家だから料金は把握してないけど、相当な額だったっぽいね。

「今決めておかなきゃならないのはこのくらいか。せっかくだ。これから完成した屋敷を見に行かないか?」

「いいわね。まだ暗くなってないし。」

アルトとアニは乗り気みたいだね。別に私も嫌ってわけじゃないけど。

「なら、案内しよう。」

案内されなくても、私たちが選んだ場所だから知ってるんだけどね。それを言うのは野暮ってもんだ。



「どうだ?立派なものだろう。」

時刻は夕方。屋敷の前に着けば、棟梁が自慢げに声を上げる。敷地内はちゃんと柵で囲ってくれてるみたいだね。それに、門のところには警備までいる。確かに、無人だとならず者に占拠されたりしそうだし。建物の見た目は、キースリング家とそんなに変わらない。世界一有名な白い家が見た目的には一番近いかな。

「警備までおいてくれたんだ。」

「ああ。無人は危険だからな。しばらくは交代で見張らせておくつもりだったが、必要か?」

「ここを住める状態に整えるまでは、宿暮らしだからね。頼んでもいいんじゃない?」

「そうだね。お願いするよ。」

「了解した。」

そのまま広い庭、というか庭園を抜けて鍵を受け取り、屋敷の中へ入る。灯りの魔道具が無いから薄暗いけど、間取りはキースリング家と大体同じだね。調理場にダイニング、各部屋と全く変わらないといってもいい。そういえば、現代の様式とミックスするみたいなこと言ってたけど、どこが違うんだろう。

「今の時代に合ったアレンジをするって言ってたけど、どんなところに取り入れてるの?」

「私も気になっていました。」

「ああ。まずは断熱性能と、断冷性能が高くなってるな。夏は涼しく、冬は暖かく過ごすことが出来る。後は風呂だな。電熱性を高める素材で従来よりだいぶ早く沸かすことが出来るぞ。」

お風呂はうれしいね。魔道具を開発しようとしてたくらいだし。

「あとは、一つの灯りの魔道具で照らすことが出来る範囲が広いといったところか。」

「いろいろ工夫されてるのね。」

アルトも感心した様子だ。

「他にも細かいところでいろいろ工夫してるが、そこはいいだろう。詳しく知りたければ資料を渡すが…」

「じゃあ、一応貰っておこうかな。竣工式の時に持ってきてもらえる?」

「分かった。」

「では、そろそろ出ましょうか。暗くなってきましたし。」

屋敷の中をうろうろしていたら、時間が過ぎるのはあっという間だった。暗くなったら、手元の灯りだけじゃあ心もとないし、そろそろ帰るのが賢明かな。

「そうだね。今日はありがとう。」

棟梁に向かって礼を言うと、アニも合わせて軽く頭を下げている。

「ああ。こちらも楽しい仕事だった。何かあればまた声を掛けてくれ。」

こうして、初めての拠点建築は幕を閉じた。これからどんな風にしていくか考えるだけで楽しくなってくるね!!

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