第百三話 準備開始
翌日。今日からは拠点の整備をするため、王都に繰り出そうということになっている。やることは山積みだから、早急に始めないとだからね。
「でも、何から手を付ける?やっぱりまずは使用人から?」
「使用人は住み込みで働くことになりますから、まずは、居住空間を整える必要があると思いますよ。」
それだと結局、家具をそろえないといけないのか。後回しにするつもりだったのに。
「どこかのお店で一括して頼めないかな。」
感覚的には、インテリアコーディネーターに全部お任せするみたいな感じかな。
「エーバルトに聞いてみたらどう?貴族なんだから、そういうことには詳しそうじゃない?」
「いいかもしれませんね。」
「じゃあ、聞きに行ってみようか。」
そうと決まれば、支度を済ませて、キースリングの家の門にテレポートする。
「ハイデマリーお嬢様!?」
毎度おなじみな守衛の反応。テレポートをどれだけ見ても慣れないみたいだね。
「ほ、本日はどのようなご用件で…?」
怪訝というか、心配そうな表情でそう聞いてくる。
「ちょっとお兄様に用があって。」
「そうでしたか。ですが、エーバルト様、オリーヴィア様ともに王都の学院に戻られており、今は不在ですよ。」
ありゃ、タイミングが悪かったね。
「いつ頃戻ってくるの?」
「数か月はお戻りにならないかと。エーバルト様は領主としての仕事もありますから、定期的にお戻りになっていますが、最近お戻りになったばかりなので、しばらくは…」
うーん。竣工式は一月後だから、そんなに待ってられないし、エーバルトが戻ってきたら連絡してもらおうにも、手段が手紙しかないから、届くころには学院に戻ってるだろうし…いっそのこと学院に乗り込んでみる?
「分かった。じゃあ、また来るよ。」
それだけ言って、もう一度テレポートして宿の部屋に戻る。
「作戦失敗だね。」
「他にいいお店を教えてくれそうな人はいますかね…」
考え込んでいる様子のアニ。
「貴族が使うような道具に詳しそうな人でしょ?それを探すならぴったりの場所があるじゃない。」
ぴったりの場所?思い当たる場所は特にないけど…
「貴族エリアのことですか?」
ああ。なるほど。アニの言葉で合点がいった。そりゃあ貴族エリアなら、貴族御用達の店があるだろうからね。
「そうよ。せっかく入る権利があるんだから、利用しない手は無いでしょ?」
貴族エリアにある店なら、実績もあるだろうし多少のわがままも聞いてくれそうだ。問題は、見た目子供の私が行って取り合ってくれるかだよね。アニは年齢が、アルトは見た目が若いから、貴族家の当主だとか屋敷の主人だとは思われないだろうから、私が行うのと変わりはない。その点エーバルトなら問題ないと思う。年齢はアニとそんなに変わらないけど、最近伯爵になったばかりだから、そこそこ顔が売れているはずだ。家具の一括注文を頼んでも違和感を持たれることは無いだろう。
「うーん。私たちだけだと取り合ってくれないかもしれないから、やっぱりエーバルトの助けが欲しいね。」
「確かに私たちだけだと、そうなるかもしれませんね。どう見ても、家具を一括注文するような地位にある年齢には見えません。」
「それじゃあ、その学院から連れ出すしかないんじゃない?」
他に協力してくれそうな貴族もいないし、エーバルトに頼むしかない。いきなり押しかけたら、また厄介ごとを運んできたみたいに思われそうだけど、事前に連絡する手段が無いから仕方ないんだよね。
「そうだね。とにかく行ってみようか。今日すぐには無理かもしれないけど、会えればスケジュールを確保できるし。」
会えないってことは無いと思う。領主の仕事と言えど、外に出られているわけだから規則で雁字搦めで面会謝絶なんてことは考えにくい。もしそうだとしても、領地の一大事ってことにして無理やり呼び出そう。
そんなわけで、久しぶりに貴族エリアを訪れた私たち。王宮の中からじゃなくても、貴族としての身分証を使ったらあっさり入場できた。学院の詳しい場所は分からないから、そこら辺のお店に入って適当に買い物しながら聞き込みをしてみる。自分が今後通うことになるから的なことを言えば、すぐに教えてもらえた。まあ、隠すことでもないだろうからね。
「ここが学院…なんかイメージと違うわね。」
アルトがそう零す。確かに学校って感じじゃないね。白い外装のビルって感じだ。でも、コンクリートで出来てる風には見えない。こっちの世界独自の素材だろうね。高さは五階建てだ。たぶんこの世界だと王宮を除いたら高さ的には最大規模じゃないかな。
学院の中に入ること自体も簡単だった。特に警備とかがいるわけじゃないみたい。まあ、貴族エリアには貴族とその関係者、それに彼らが連れてきた信用できる商人しかいないわけだから、警備を厳重にする必要もないんだろうね。ザル警備の入り口を通り抜けてすぐのところに来客用の受付があった。ここで聞いてみよう。
「こんにちは。私、ハイデマリー・キースリングと言います。兄に用があってきたのですが…」
受付の高さに全然届かないから、ちょっと浮きながらそう声を掛ける。向こうから足元を見ることは出来ないから、驚かれることは無いと思う。周りに見てる人がいないかもばっちり確認済みだ。兄に用があっての部分でアニが反応してたのも見逃して無い。
「身分証はお持ちですよね。拝見させてください。」
ぶっきらぼうにそう言ってくる係員。そんなことに一々目くじらを立てていても、何も進まないからサクッと身分証を見せる。
「はい。確認が取れました。お呼びしますので少々お待ちください。」
お、無事に会えるみたいだね。誰かが呼びに行ってくれたのかな。
『高等クラスの、エーバルト・キースリングさん。お客様がお見えです。エントランスまでお越しください。』
呼びに行ったんじゃなくて呼び出したんだね。まるで校内放送だ。これも魔道具だと思うけど、こんなニッチな魔道具誰が作ったんだろう。
そこから数分待っていると、エーバルトがこちらに向かってくるのが見えた。
「ん?客とはハイデマリー達だったか。何かあったのか?」
私たちがここにきていることに少し驚いた様子を見せたエーバルト。
「実は――」
エーバルトに事の顛末を簡単に説明すると、なんだかほっとした表情を浮かべている。
「それなら、明日の安息日なら付き合えるぞ。」
安息日ってお休みの日ってことだよね。家に行ったときはタイミングが悪いと思ったけど、こんな直近で行けるなら、意外といいタイミングだったのかも。
「では、よろしくお願いします。時間は何時がいいでしょう?」
「そうだな…昼過ぎで頼む。」
「わかりました。ここの前に集合ということで。」
他に目印っぽい物もないしね。
「ああ。」
「では、私たちはこれで。」
エーバルトも学院生活で忙しいだろうから、時間を取らせるのも申し訳ない。用が済んだら退散だ。
「そうだ。せっかく来たのだし、どうせなら少し見学していったらどうだ?」
踵を返しかけたところで、そう告げるエーバルト。予想外の発言に今度はこっちが戸惑う番だった。
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