第八章 拠点構築

第百一話 棟梁からの呼び出し

 ダンジョンを攻略したことにより、霊峰探索は一時中断することになった。といっても今後再開するかどうかは分からないんだけど。結果的に頂まで行くことになっちゃったし、最初の魔法使いの一族は全滅してしまっていることが分かったから、探索する理由もあまり無いからね。残る気になる点と言えば、いくつかあった魔力反応の集まりだけど、アルトが言うには全部ダンジョンの入り口の可能性が高いらしい。頂上に出たときに魔力感知をした結果、最初にした時から位置が全く変わってなかったからだって言ってた。魔物や人だったら何日もの間、一切動かないっていうのはおかしいからね。

 そんなわけで霊峰から戻って、数日間休息日を設けてたっぷり休んだ後、手に入れた金銀財宝を換金するために、バッハシュタインの冒険者ギルドに来ていた。ついでに崩壊した町で回収した魔道具を返却するためだ。まずは、受付に声を掛けて魔道具を返却する。そしたらそのまま、換金する物を引き渡した。金とか銀とかだね。買取金額は、どうやらアンデット事件の報酬と合わせて支払ってくれるみたいだ。

「ハイデマリーさん。ブルグミュラーの冒険者支部にお手紙が届いていると連絡が入っています。」

簡単な手続きを終えて、アニとアルトの元へ戻ろうとしたところで、受付嬢からそう声を掛けられる。ブルグミュラーと言えば、拠点関係の手紙だろうね。依頼してからそろそろ半月が経つし、完成したっていう報告かな。

「分かった。近いうちに受け取りに行くよ。」

「では、買取金額が確定するまで少々お待ちください。」

今度こそ、アニとアルトの元へ戻る。二人は私が手続きをしてる時は、大体いつも、依頼掲示を見ている。

「あら、終わったの?」

私が近づいてきたことに気が付いたアルトがそう声を掛けてきた。

「うん。後は待つだけ。そっちこそ面白そうな依頼はあった?」

「全然。簡単そうなのばかりね。でも、しばらくは依頼なんて受ける必要ないでしょ。あれだけ財宝を手に入れたんだし。」

今までもお金に困ったことなんてないけどね。

「なんだ。いつも依頼掲示を見てるから、受けるのが好きなのかと思ってた。」

「他にすることが無いんですよ。」

確かに、ギルドの中には受付と依頼掲示、後は待合用の椅子が少しあるくらい。これだと、座って待ってるか、依頼掲示を見るくらいしかすることは無いね。

 そのまましばらく依頼掲示を三人して眺めながら待っていると、換金が完了したという旨が伝えられた。受け取ったのは合計白金貨四枚。宝石類が高く売れたみたいで、いくつかあった中に一個で白金貨一枚っていうのがあった。なんでもどこかの貴族が欲しがっていたらしい。お金を受け取ってしまえば、今日は依頼を受けるわけじゃないから、もうギルドに用はない。といっても、ブルグミュラーのギルドには行かなきゃなんだけど。

「じゃあ、次はブルグミュラーだね。」

「ついに拠点が完成したわけですね。楽しみです。」

待っている間に、二人には手紙のことを話しておいたから特に異論は出てこない。ギルドを出て、少し進んだところにある目立たない路地裏に入ってしまえば準備完了。早速、ブルグミュラーへテレポートだ。



 ブルグミュラーに移動したらそのままギルドに向かい、受付に声を掛ける。今度はアニとアルトも着いてきてるね。手紙の内容が気になってるみたいだ。

「こんにちは。手紙を受け取りに来たんだけど…」

「はい。お預かりしてますよ。」

そう言って、白い封筒に入った手紙を手渡してきた。あ、宛名がウィザーズになってるね。パーティー名も調べたのか。そういえば、この受付嬢を見るのは初めてだけど、こっちが名乗る前に渡してきたってことは、私たちのこと知ってたみたいだね。これも活動をしてきたうえで、名前が売れてきたってことかな。最初からAランクって意味では注目されてたと思うけど、実績で名が売れるのはうれしいね。

「ありがとう。」

礼を言って、待合用の長椅子に三人揃って腰を掛けて手紙を開封する。

「あ、やっぱり拠点の建築が終わったって報告だね。どれどれ…」

そう言うと、横に座る二人も手紙を覗き込んでくる。読み上げる必要はなさそうだ。内容をざっくり言うとこんな感じだ。

『よお!!依頼されていた屋敷が完成したぜ。予定通りぴったり半月だ。クオリティに関しても問題ない。ところで、この規模の屋敷を建てたのに竣工式をしないっていうのはナンセンスだぜ。そんな大規模なものを開く必要はないがな。その竣工式についてだが領主様がぜひ出席したいと言っていた。詳しいことは、うちの事務所では無そう。都合がいい時に足を運んでくれ。』

手紙はお客様に向けたって感じの丁寧な言葉で書かれているのに、棟梁のイメージからか、脳内ではこんな感じに変換されてしまう。私的にはこっちの方が親しみがあっていいんだけどね。

「領主が興味を持ってるみたいね。」

アルトも手紙を読み終えたようで、そんなことを言ってくる。また面倒なことになりそうって感じの顔だ。この領主に関してはそうなる可能性は無いんだけどね。

「そういえば、お嬢様。土地購入の許可を得る時、この町の領主様宛に手紙を出していましたよね。それが関係しているのですか?」

「お、鋭いね。私が出した手紙は関係ないと思うけど、返事の方は少し関係あるかな。」

私が出したのは、私が貴族であるってことを知らせる内容の手紙だ。他の貴族が自分の領内に住んでるなんて後からバレたらそれこそ戦争になりかねない。だから、それを伝える旨の手紙を送った。勝手に税金を取ったりはしないよって意味も込めてね。もちろん、こっちは税金をちゃんと納める。なんなら迷惑料として少し多めに支払うつもりだ。そのこともちゃんと匂わせておいたから、許可が出ないってことは無いと思ってたけど、まさか許可が出るどころか、返事の手紙にあんなことが書いてあるとは夢にも思わなかった。

「その返事っていうのは何が書いてあったわけ?」

「まだ内緒。」

「なによ。勿体つけちゃって。」

「直接会った時に分かった方が面白いからね。」

「「面白い?」」

二人が揃ってはてなを浮かべてるようだけど、まだ教えてあげない。

「会ってからのお楽しみだよ。さて、じゃあ建築業者の事務所まで行こうか。」

そう、おもむろに話題を転換すれば、二人の表情が少し変わった。

「そうね。竣工式ってやつのことも聞かないとだし。」

私に倣って二人も立ち上がる。拠点を見るのが楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る