第百十七話 謎の紋章

 家の中に連れ込まれると椅子に縛り付けられ、首元にナイフを突きつけられる。これだと、仮に護衛を連れてきていたとしても、あんまり意味なかっただろうね。二人は一瞬で組み伏せられて人質に取られてしまった。こうなれば護衛も手出しすることは出来ない。私だけだったらテレポートで逃げることも出来るんだけど、複数人でテレポートする場合はひとつながりになっていないといけないから、二人を置き去りにしてしまう。

「お前たちの目的はなんだ?」

首元にナイフを突きつけられた状態でエーバルトが冷静にそう聞く。

「目的?そんなもの、お前たちを処分するために決まっているだろう?正体を知られたからには生かしておけない。」

これは嘘だ。おそらく正体が知られようが知られなかろうが、私たちを殺すつもりだったはず。そうじゃなければ最初に感じたあの悪寒の説明が付かない。あれは殺意とか悪意とかそういうのに近いものだった。

「よく言う。もともと殺す気だったくせに。」

少しでも情報が得られればとそう言ってみる。

「フッ。そう思うならそれでいい。」

こちらが情報を聞き出そうとしていることに気が付いているのか、帰ってきたのはそれだけだった。

 半デーモンたちはすぐに私たちを始末することは無かった。私たちに付けられているのとは別に、この家の中には何人か半デーモンがいるみたいで、何か準備をしているようだった。ただ殺すんじゃなくて、何かの儀式に使われるみたいだ。おそらく一番に始末されるのは私だと思う。それまでに、一撃でこの屋敷内の半デーモンを全員制圧しなければならない。新しい魔法を創るのも察知される可能性があるから、使えるのは今までに覚えたものだけだ。その中で一撃で制圧が可能で、かつエーバルトとオリーヴィアに被害を出さない魔法。思いついたのは、浮遊魔法の応用、重力操作魔法。これなら全員を一気に制圧することが出来る。重力を高めて、立てないようにしてしまえばいい。その後はまあ、殺すことになると思う。向こうは半分とはいえデーモン。必ず魔法を使ってくる。魔力の反応で使うのを察知することは出来ても、どんなものを使ってくるかは分からない。反撃を防ぐにはそうするしかないからね。とにかく、全員がこの部屋の近くに集まった瞬間、重力を増加して動けないようにしちゃおう。この家の中にいるのは合計七人。この部屋の外にいる三人は家中を動き回っているみたいだけど、近くに来る瞬間が無いわけじゃない。



 「おお。準備が出来たか、では早速始めよう。」

少し経ったところで、見た目初老のリーダらしき男が誰と話しているわけでもなく、いきなり声を出す。もしかすると、テレパシーを使っているのかもしれない。その声が合図だったのだろう。ぞろぞろとこの部屋に半デーモンたちが集まってくる。でもまだだ。全員集まってから…

「最後に言い残すことはあるか?」

あれ、私からじゃなくて、一斉に殺すつもりだったみたい。だけどそうはさせない。重力操作魔法のジェスチャーは指さえ動かせれば発動することが出来る。後は飛ぶときとは魔力のベクトルを逆にするだけだ。あと一人、ギシギシと床板を鳴らしながら近づいてくる足音。もう少しでこの部屋に入ってくる……今だ!!

「ぐああああ」

私の重力魔法を受けて、立っていられなくなったのか床に打ち付けられる半デーモンたち。

「お兄様、お姉様。動かないで下さい!!動いたら巻き込まれます!!」

何が起こっているか分からないといった顔の二人に向かってそう告げる。二人が今いる位置から少しでも動けば、重力魔法の範囲内だ。普通の人間なら、私の設定した五倍の重力には耐えられない。

「おのれ、貴様の仕業か小娘!!」

うるさい奴はさっさと処分してしまおう。デーモンと言っても半分だけなら、首を落とすだけで平気でしょ。無理だったら消し炭にすればいいし。さっさとしないと、重力に耐えきれずこの建物が崩壊しちゃうだろうからね。

「待てハイデマリー!!そいつは殺すな!!」

なぜか、エーバルトがそう叫ぶ。理由を聞いてる時間もないし、取り合えず周りの他の半デーモンから処分していく。この期に及んでも、リーダとみられる男以外は一切声を出すことは無かった。死体もアグニを倒した時と同じように、その場に残ることはなく消失してしまった。それが済んだら、魔力吸引を使って殺さなかった男も動けないようにして重力魔法を解除した。壁や床板なんかはボロボロになってるけど、何とか建物は耐えられたみたいだね。エーバルトとオリーヴィアの二人を縛っている縄を切ってやれば、オリーヴィアがすごい勢いでこっちへ向かってきた。

「ありがとう。ハイデマリー。今回ばかりはもうだめかと…」

私に抱き着き、涙をぽろぽろと流しながらそう零す。相当怖い体験だったみたいだね。

「よくも、私の仲間を!!くそ!!どうして魔法が発動しない!?」

床に転がりながらうるさくがなりたてる生き残りのリーダ半デーモン。

「お兄様。どうして殺してはダメなんですか?」

オリーヴィアを宥めながら聞いてみる。たぶん情報を引き出すとかそんなものだろう。

「こいつには、色々聞きたいことがある。人間ではないのがここにいた奴らだけなのか、この村全体なのか。ほかにも山ほどある。それにこいつも苦しめてやらないと気が済まない。」

違った。多分最後に言ったことが目的だ。仕返ししてやりたいってことだね。でも、ヘルマン侯爵の刺客にやられたときはそんなこと言わなかったのに、どうして急に…

「俺だけじゃなく、お前たちにも手を出したんだ。ただでは済まさない。」

どうやら、怒っているのはオリーヴィアと私に手を出したことらしい。初めて兄らしいところを見た気がする。

「貴様らなんぞに話すことは無い。」

そう言っていられるのも今の内だ。何せ私には、尋問に使える魔法がある。

「こいつの尋問に協力してもらってもいいか?」

「もちろんです。」

こいつムカつくし、協力を申し出ておく。

「では、縛り上げて屋敷に―」

「があああああああ。」

エーバルトが、縄を使って縛ろうとしたところで、再び悲鳴を上げる半デーモン。振り返れば、体が燃え上がっている。

「ハイデマリー!?まだ駄目だ!!」

「私は何もしてません!!」

エーバルトは私が何かしたのかと思ったみたいで、驚いた声を出す。だけど、私が火をつけたわけじゃない。

「とにかく、火を消します!!」

炎の大穴を沈下した時のように、半デーモンの身体を密封するが、火の勢いは止まらない。

「どうして…この火、魔力がエネルギー源か!!」

でも、こいつの身体には火を起こす魔力なんか残ってないはずなのに。とにかく火を消さないと!!水魔法を使っても消火は出来ない。魔力吸引ですら意味をなさない。ということは、この炎はこいつの魔力で燃えているわけじゃない。どこからか送られてくる魔力で―

「クッ。ダメか…」

半デーモンを燃やしきった後は、どこにも燃え移ることなく火は消えた。たった一つ、床板に焦げ跡で出来た謎の紋章を残して。

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