第百十八話 半デーモンについての考察
「いったい何が…」
何が起こったのか分からないといった様子のエーバルト。
「おそらくこいつらを操っていた者がいるのでしょう。口封じのために何らかの方法で殺されたとみるべきです。」
涙が止めた、冷静な面持ちでオリーヴィアがそう言う。
「手がかりは、この紋章だけですか。」
燃え尽きた半デーモンの足元に残った謎の紋章。円の中にこれまで見たことのない記号が書かれているものだ。前世で習った何かの地図記号に似ている気がするけど…
「なんの紋章なのかは全く分からないな。調べるにしても、紋章を使う場所は腐るほどある。貴族家に、平民の富豪、商店やギルドなんかもあって数えきれない。全部確認するとしたら相当な時間が掛かるぞ。それに、それだけ調べた後に国外の物だなんて判明したら目も当てられない。」
さすがに、国外の紋章までは調べられないってことだろうね。
「とりあえず、魔道具で記録しておきましょう。」
この間手に入れた、記録の魔道具を使って撮影しておく。これなら後で確認もしやすい。
「ああ。それをヴァネッサに見てもらおう。調停官は紋章にも詳しいからな。」
調停官は弁護士みたいなものだけど、紋章に関しても知識があるのか。相当頭がよくないと務まらなさそう。
「記録も出来たなら、そろそろここを離れましょう。この村の他の住人が人間でもそうでなくても、騒ぎを聞きつけて集まってくると厄介です。」
オリーヴィアの言葉はもっともだ。だけど今後、この村について調べないわけにはいかない。ほかにも半デーモンが潜んでいるかもしれない。魔力反応的にはいないとは思うけど、魔力反応を隠す手段があると、黒のダンジョンで分かってしまったわけだし。
「そうだな。一度戻ろう。」
時間を空ければ潜伏している半デーモンがいた場合、逃げられてしまうと思うけど、大人数だった場合、数の暴力でやられる可能性もあるし、やっぱり一度撤退するのが正解かな。アルトとアニにも知らせたいし、デーモンであるアグニに聞けば何かわかるかもしれないしね。
「うちの拠点に移動します。アルトや警備を任せているデーモンが何か知っているかもしれません。」
「デーモン?ここでどうしてデーモンが出てくるの?」
オリーヴィアがポカンとした顔になってしまった。そう言えば、まだあいつらの正体を言ってなかったね。
「さっきの奴らは私の簡易鑑定によると、半デーモンとなっていたので、アグニ―うちのデーモンが何か知っているのではと思いまして。」
軽く説明してみれば、二人は納得してくれたようで、私の拠点に移動することになった。
拠点に戻って、アニ、アルト、アグニの三人を呼び出し事情を説明すると結構な情報が出てきた。
「半デーモン…その正体はおそらく人間とデーモンの間に生まれた子か、何かの方法でデーモンを取り込んだ人間でしょう。」
アグニの考えはそういうものだった。
「デーモンを取り込む?そんなことが出来るのか?」
エーバルトがアグニに向けてそう聞く。半デーモンに襲われたばかりだというのに、アグニに対して恐怖を感じているということは無いみたいだ。オリーヴィアの方は少し震えている。契約内容を話してあるから、絶対に危害を加えてくることは無いと分かっているはずだけど、怖いことには変わりないみたい。
「可能か不可能かで言えば、可能ね。大体の場合は、デーモンの方が肉体の主導権を握ることになるけど、話を聞く限りだと人間の方が主導権を持っていたみたいね。特殊なスキルか血筋なのか理由は分からないけど。」
エーバルトの言葉に応えたのはアルト。デーモンについても知識を持っているみたいだ。過去にソプラノから聞いたのかもしれない。
「スキルよりも、血筋の方が可能性が高いと思います。スキルだけなら半デーモンとなっていたのは一人だけのはずです。」
オリーヴィアの考察は一見正しいように見えるけど、そうとも言い切れないかもしれない。
「いえ、スキルの可能性もあると思います。言葉を発していたのはリーダー格の男だけです。他の人はデーモンが主導権を持っていたのではないでしょうか。おそらく、最初に半デーモンになったのがあの男で、自分の周りにも試してみた結果、アルトが言う特殊なスキルを持っていなかったから、デーモンが主導権を取った。それをリーダー格の男に気取られないため、口を開かなかった。ということは考えられないでしょうか。」
これは私の考察だ。
「可能性はありますが、ごく小さいものだと思います。口を開かなかった半デーモンの方が数的には多いのに、気取られないようにする意味がありません。すぐに殺せたはずですからね。」
そう言われればそうか。デーモンにとっては気に食わないなら殺せばいいだけか。
「となると、血筋の方が有力か。狭い村だ。血が混じることも多いだろうし意図的に取り込んでいるとしたらどれだけいるか分からんぞ…」
「多分もう逃げてるわね。人間より半デーモンの方が戦闘能力は高いだろうけど、数的には勝てないわ。デーモンの能力を使えるとしたら、顔なんかも変えられるだろうから人間に紛れ込むのは簡単だろうし。」
他の村人の顔は見てないから、顔を変えられるのは問題ないともいえるけど、今後補足した時に簡単に逃げられる可能性があるってことだね。
「だけど、正体を知られているわけだから、今後攻撃は仕掛けてくると思うわ。半デーモンが他にも存在していたらの話だけど。その時に絶対に逃がさないで捕まえてしまえばいいのよ。」
「捕まえても、また燃えやされるだけでは?私としては例の紋章を追うのが先だと思います。」
「アニの言うとおりだ。その紋章の持ち主が関わっているのは間違いない。それも半デーモンたちを操る立ち位置のはずだ。どれだけいるか分からないものを探すより、そちらを叩いた方が早い。」
各個撃破より大元を倒した方がいいってことだね。それには賛成だ。ほかのみんなも異論はないみたいで一応は納得した様子を見せている。
「では、まずは紋章からですね。」
「その前に、私とハイデマリーはその村の様子を上空から見てくるわ。何か手掛かりがあるかもしれないし、なんならまだ間に合うかもしれない。」
大急ぎのアルトに連れられ、私は再び例の村へと飛び立った。こんなことなら、ワープポイントを作っておくんだった!!
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