第百十九話 王家への仕返し

 アルトと二人で例の村にたどり着くと、そこには人っ子一人いなかった。どうやら逃げられてしまったらしい。ご丁寧に、手がかりを残さないために、隣接して建てられていた家の全てが潰されている。私たちが連れ込まれた家も例外じゃない。紋章の写真を撮っておいてよかったよ。

「ここまで徹底していると、村人全員半デーモンの可能性もあるわね。最低でも、普通の人間よりは多いでしょう。精々まだ一時間と少ししか経っていないのに、村を潰して逃げるって言いくるめることが出来るんだから。」

アルトが神妙な面持ちでそう言う。

「確かにそうかもしれないね。魔力反応は誤魔化してたみたいで普通の人間くらいの魔力んの人が大半だったけど…」

「それだと追跡は無理そうね。一旦戻りましょうか。」



「ハイデマリー。ヘルマン侯爵のところへ頼む。」

特に手掛かりを得ることも出来ず、拠点に戻ると早速エーバルトにそう声を掛けられる。確かに、もともとヘルマン侯爵の領地だったわけだから、侯爵が何か情報を持っている可能性はある。あの村について特殊な契約があるとか言ってたし、それはほぼ確実だろう。まあ、教えてはくれないと思うけどね。

「意味ないと思いますよ。忘れたのですか?あの村についての情報を話せば、特殊な契約によって侯爵は死にます。」

確か王家と結んだものだったっけ。あいつら何にでも関わってくるな…そろそろ本気で殲滅を視野に入れてもいいかもしれない。まあ、今回の契約は奴らの祖先の話だと思うけど。

「ああ…確かにそんなこと言っていたような気がするな…まずいな。唯一の情報源だったのだが…それにしても王族は何を考えてるんだ。あんな危険な連中を隠すような真似をして…」

エーバルトから私の利く限り初めての王宮批判。隣でお茶を飲みながらまったりしているオリーヴィアも目を剥いている。

「なら、王族から情報を得ることにしませんか?」

執事の件の仕返しも済んでいなかったし、丁度いいかもしれない。

「もしくは、この件を広く公表して、王族の信用を地に貶めるとかどうでしょう。まあ、それだと侯爵にもとばっちりが行きますけど。」

「いや、そこまでしてしまうと、混乱にかこつけて他国が攻めてくるかもしれん。」

王家と、国内一の軍事力を持つ侯爵家が同時にちからを失うなんてことになれば問題になるらしい。

「そうですか。でも、情報は取るべきですよ。正体がバレたことで半デーモンたちはなりふり構わなくなるかもしれません。新しい住処を得るためにどこかの町や村を襲う可能性だってあります。私たちがキースリング伯爵家だということも知られているわけですから、こっちに攻撃を仕掛けてくることだってありえます。それに、どこかの土地を襲撃した場合、キースリング領の民だと知られれば、責任を取らされることだって…」

「すぐに面会依頼を出しましょう。」

決断を下したのはオリーヴィアだった。こういう時は、エーバルトより話が早くて助かる。

 貴族の家には、緊急時に王族と連絡を取ることが出来る魔道具が与えられているようで、それを使うために、キースリングの屋敷へ移動した。エーバルトが連絡を取ると、すぐに面会をする許可をもらえたらしい。私の名前を出したことが功を奏したとかなんとか言っていた。その間アルトは、どうしてやろうかしらと言わんばかりに悪だくみをしているみたいだった。仕返しに関してはアルトに任せとけば問題なさそうだね。



 テレポートを駆使して王宮へ乗り込むと、その場所にはすでに王とその側近をはじめとした人員が待機していた。私が移動した先は、叙勲式の時に使った部屋だ。そこに行くとは伝えていなかったのに、待機していたということはテレポートの条件を解析されたのかもしれない。こっちもお前については調べてるんだぞ。という意を見せられているようで、少し不快だ。

「話は聞かせてもらった。」

エーバルトとオリーヴィアが状況を理解し、跪くのを確認してからどこかで見たことのある文官らしき男がそう言う。どうやら、王が直接話すことは無いみたいだ。ああ、こいつあれだ。私に賠償金を払えとか言ってきた王宮使者の…名前は忘れた。あの時は一応敬語を使って話していた気がするけど、それすら無くなってる。王の威光を笠に着る気満々だ。

「だが、其方らに情報を開示することは出来ない。契約に抵触するからな。この件は我々に任せるように。」

そういえば、こいつらが領地の分譲を許可したんじゃなかったっけ。知ってて渡してきたってこと?こっちの力をそぐ気満々じゃん。そこに気が付いたのは皆も同じなのか、顔をしかめている。さすがに王の前ということでエーバルトとオリーヴィアは顔に出さないようにしているみたいだけど。貴族の社交は大変だ。

「じゃあ、任せるけどもし、こっちに手出ししてきたらアンタらの責任だから。」

アルトの言葉にぎょっとする王族御一行。

「も、もちろん。その時はこちらが…」

たまらないとばかりに、王が口を開くのを側近たちが止める。意地でも口を利かせないつもりらしい。賠償の件で勝手に動いた部下を使い続けるのを見るあたり、なんか事情があるのかもしれない。まあ、こっちには関係ないけどね。

「こいつらがいいって言うなら放っておけばいいわ。その結果どこかの村が滅ぼされようと、最悪国が滅びた所であたしたちには関係ない。」

そこまで事を重要視していなかったのか、またまた驚いている一同。こいつらダメだ。何もわかってない。

「じゃあ、帰りましょうか。私たちは自分たちの領内の警備を強化すればいいわ。」

 王のことばで、自領内の問題が王家の管轄になったわけだから、放置するのもいいかもしれない。責任を取る必要はなくなったわけだし。エーバルトの気が済まないかもしれないけど。

「そうだね。お兄様もそれでいいですね?」

一応確認してみると、軽く頷いてくれる。王族の決定に口は出さないって感じだ。いい感じの意趣返しになったと言わんばかりの顔をしている。

「では、帰りましょう。」

皆がひとつながりになるのを確認して、移動しようとした瞬間、アルトが何かごそごそとしているのが目に入る。

「あとこれ、執事の件のお礼。」

お礼?と気になった瞬間、部屋中に大量の魔物が駆け巡った。動物型の弱い物からリザードマンみたいなちょっと強いのまでいる。これが今回の仕返しか。お礼っていうのは皮肉だった。このままここにいたら巻き込まれそうだしさっさと離れよう。王と側近たちの阿鼻叫喚を聞きながら、私たちは王宮を後にした。

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