第百二十話 強制依頼

 翌日。昨晩はうちの拠点に泊まったエーバルトとオリーヴィアの二人と、キースリング領の警備強化について相談をしている所で、なぜか冒険者ギルドのブルグミュラー支部から呼び出しがかかった。拠点を作ったことをどこからか聞いたみたいだね。パーティーとしての呼び出しだったため、昨日のようにアニを屋敷に残しておくことも出来ず、エーバルトとオリーヴィアだけを拠点に残していくことになってしまった。キースリングの家まで送ろうかと聞いても、まだ話し合いは済んでいないからということで私たちが戻ってくるまで待っていることにしたらしい。警備に関してアドバイスをするくらいならまあ、いいんだけど、上手く使われている感も否めない。新しい領地を得る時点で、何か問題があったら協力するって言っちゃってるから仕方ないんだけど。

 エーバルトとオリーヴィアには新しく開発したミルクレープを味見しておいてもらうことにして、三人揃って冒険者ギルドへと向かう。ブルグミュラーのギルドから呼び出しを受けるのは初めてだから、何を言われるかアニはちょっと心配しているみたいだ。呼び出しを受けた旨を受付で伝えると、応接室へと案内される。そこには、何度か会ったことがあるこの支部の支部長がすでに待機していた。

「ご足労いただきありがとうございます。本日はとある依頼についての連絡があり、お呼びしました。」

その言葉を聞いた瞬間、やられたといった顔つきになるアルト。何かをさっとったらしい。

「この依頼は全てのAランク冒険者に出された強制依頼です。依頼主はブランテンブルク王国皇室です。」

ああ、なるほど。だからアルトはあんな顔になったわけか。昨日の今日でこのタイミングってことは半デーモンに関することだと思う。せっかく責任を押し付けてきたのに、今度はこっちに丸投げか。こっちを馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。それに、全てのAランクにってところも小賢しい。私たちに依頼を出すのはあれだから、全員に出しとけっていう姿勢が丸見えだ。

「依頼内容は、伯爵家に手を出した村人全員の捕縛です。生死は問わないようですね。なんでも、特殊な力を持っている可能性があるらしく、Aランク冒険者への依頼となったようです。報酬は完全歩合。捕縛した数によって支払われます。期間等は無期限となっていますね。完全に捕縛が完了するまでということでしょう。潜伏場所は判明しているようで、全ての冒険者固まっての行動となります。」

固まって行動させるのは、依頼を受けるだけ受けて何もしないというのを防ぐためだと思う。私たちを意地でも協力させるつもりらしい。ていうか、場所が割れているなら軍なり騎士団なりが何とかしてもらいたい。まあ、あんまり強くはないだろうけど。

「この依頼、断ることは出来ないの?」

アルトはやりたくないとばかりに、そう支部長に聞く。

「強制依頼はよほどのことが無い限り、拒否することは出来ません。大けがをしているとか、病を患ったとかではない限りは…唯一の手段として、冒険者ライセンスの返上というものがありますが、私からこれを勧めることは出来ません。」

そりゃそうだ。Sランクが存在しない今、稼ぎ頭であるAランクを手放したくはないだろう。それでも手段として教えてくれたのだから、支部長は誠実な姿勢を見せてくれたというべきだ。私てきには、冒険者の立場を手放すのは惜しい。稼ぐ手段が一気に無くなるし。前世の知識を使って、この世界で流行しそうなものを作ればお金を得る手段は出来ると思うけど、Aランク冒険者の肩書が無いと貴族の肩書を使うしかなくなり、それも難しい。貴族として活動し始めれば、また婚約の申し込みなんかの厄介な問題が出てきて、旅どころではなくなってしまうと思う。最近は旅をしているとも言えないかもしれないけどね。

「依頼は受けるしかないってことですね…」

アニの呟きに私も頷く。Aランク冒険者に依頼を出したのが私たちを巻き込む意図があるものなのか、戦力的に仕方なくなのかは分からないけど、私たちの話を聞いて半デーモンを脅威を認識したってことは分かった。

「では、まずは王都の冒険者ギルド支部へ向かってください。そこにAランク冒険者とパーティーメンバーが集まることになっています。必要ならば馬車をお出ししますがどうしますか?」

国中、世界中に広がるAランク冒険者をそんなにすぐに集めることができるのかな。

「私たちはたまたま、王都の近くにいるからいいけど、他の冒険者が近くにいるとは限らないでしょ?国外にいる冒険者なんかにも召集を掛けてるの?」

率直に聞いてみた。

「いえ、今回集められているのは、ブランテンブルク王国所属の冒険者だけです。幸い国外に出ている者はいませんね。もしいた場合は、その方には依頼を出すことは無かったと思います。」

いまからでも、国外に出てしまえば依頼を受けなくていいのでは?と悪知恵を働かせていると、それに釘を刺すように一言付け加えられた。

「今から国外に出たとしても、依頼について知ってしまっているわけですから、不参加として処理され、ライセンスをはく奪されますよ。それに、今は対象を逃がさないために、国境は厳戒態勢です。簡単には出られません。」

国を出るだけなら、空を飛んでいけば簡単な話だ。アニもこの前使った召喚術のおかげで空を飛べるようになったわけだし。

「分かった。王都に向かうことにするわ。期間は何時まで?」

「準備期間も含めて一か月後までです。対象の逃亡の可能性もありますが、追跡部隊をつけているらしく、いつでも補足できるため、長期間取っても問題ないそうです。まあ、あまり短い期間に設定してしまうと、冒険者が集まることすらできませんからね。」

一か月もあるなら、けっこういろいろできそうだね。場所さえ教えてくれればこっちから仕掛けることも出来るのに、それは出来ないらしい。情報流出を避けるために、追跡部隊と、皇室から派遣される指揮官以外はそもそも知らないみたいだね。

「わかった。もう少ししたら王都に向かうよ。馬車の準備はしなくて平気。」

「了解しました。よろしくお願いします。」

姿勢を正し、深々と礼をする支部長を背中にギルドを後にした。これからどうするか、また考えないとだね。

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