第二十五話 ダンジョン攻略未突破層
あれから、2層、3層と進んでいくことだいたい半日。ついに17層へと降り立った。2層目以降はちゃんと迷宮って感じで迷路になっていたけどそこまで高難易度なわけでもなく、順調に進んでいた。ただやっぱりボス部屋の魔物は下に行けば行くほど強くなっているみたい。ムキムキのゴブリンや、巨大な蛇。火を噴くトカゲ人間、いわゆるリザードマンってやつまで出てきた。こいつはやっぱり爆撃が聞かなかったから、少し張り切ったアニが水の球に閉じ込めて倒した。そろそろこの水の球に閉じ込める魔法にも名前を付けてやりたいところだ。あと他にあったことと言えば、アニが一つだけ宝箱を見つけたことくらい。中から出てきたのは魔力炉――ではなく赤い色をした宝石だった。形も整えられていて、明らかに人の手が加わっている感じだ。もしかしたら古代のお宝だったりするかもしれない。
「ここからは一応注意して進まないとですね。」
「それはそうなんだけどさ。この層から下に行けない理由って何なんだろうね。」
「それは私も気になってました。いままでの層から見るに、迷路自体はそんなに難しいとは思えません。ボス部屋にたどり着いていないということはないと思います。」
「そうなのよね…となると…」
「「「ボスが強い!!」」」
考えることは同じだったようで三人して声が揃ってしまった。
「と、とにかくボス部屋を目指すことは変わらないわ。ここまでくる冒険者は少ないだろうし、宝箱にも注意して進みましょう。」
仕切り直すようにアルトがそんなことを言った。
それからまたしばらく。出てくる魔物を倒しながら迷路の攻略を進めていると、ぽつぽつと宝箱を見つけることができた。だけどやっぱり中には魔力炉は入っていない。低確率って聞いてたし、仕方がないのかもしれないけどね。
「今までの層とは比べ物にならないくらい見つかりますね。宝箱。」
さっきから宝箱のほとんどを見つけているアニがそんなことを言った。
「やっぱりここまでくる冒険者が少ないからじゃない?それにしてもすごいわね。あなた隠されたものを見つけるスキルでもあるのかしら。」
「私は鑑定を受けたことがないのでわかりませんが、もしかすると、そうなのかもしれませんね…」
神妙な表情のアニ。スキルの存在は鑑定で確かめるか、何かの拍子に発動するかでしか確かめることができないらしい。契約スキルなんかの明確に取得方法が分かっていて、意図して取得したもの以外は自分だけで認識するのは難しいわけだ。世の中には貴重なスキルを持っていても一切使うことなく、一生を終える人も多いらしい。
「今度、鑑定を受けてみてもいいかもね。」
冒険者ギルドに問い合わせれば、鑑定スキルを持った人を紹介してくれるだろうしね。
「宝箱が見つけやすいスキルなんてあるの?」
気になったので聞いてみた。
「それは分からないけど、隠されたものを見つけるスキルとか、小さな痕跡を捉えるスキルとかはあるらしいわよ。」
そんなスキルを持ってたら一生食い扶持に困らなそう。富豪の家から金銀財宝を盗み出したり、逆に小さい痕跡から犯罪者を捕まえたり、色々応用が効きそうだ。
「まあスキルの有無に係わらず、宝箱いっぱい見つけてくれるのはありがたいね。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。あ、あそこにありますよ。」
そんな話をしていても気を緩めてはいなかったみたいで、またまた宝箱を見つけたアニ。この層に降りてきてから記念すべき10個目の宝箱だ。
「あけるわよ。」
そう言って宝箱を開けるアルト。宝箱といっても鍵がかかってるわけではなく、簡単に開けることができる。中から出てきたのは砂時計のような形をしたものだった。だけど中に砂は入っていない。これだとただの変わった形をしたガラス瓶だ。
「これ、魔力炉ね。」
「これが!?」
びっくり仰天。変わった瓶だと思ったものが目的の魔力炉だった。
「そうよ。これが魔力炉。でもこれじゃああなたの言う車を動かすような性能はないわね。」
「低品質ってことですか?」
「低品質と言えばそうね。魔力を貯められる量、それをエネルギーに変換する効率が低いって感じね。」
「使ってもいないのにどうしてわかるの?」
「色よ。この魔力炉は無色透明。これはアニの言葉を借りれば低品質な証拠なの。魔力をたくさん貯められて、より多くのエネルギーに変換できる魔力炉には色がついているわ。低い順から透明、紫、青、緑、最後に金といった感じね。最低でも青の魔力炉が欲しいわね。」
「そんな大事なことはもっと早く言ってほしかったよ…」
なんだか徒労感がすごい。
「聞かれなかったもの。」
なんだかバツが悪そうな顔をしているアルトさん。たぶん忘れてたんだろうね。
「と、とにかく魔力炉が実際にダンジョンにあることが分かったんですからいいじゃないですか。」
その顔をみてアニまでフォローに走る始末。
「まあいっか。もともとそんな簡単に見つかるとは思ってなかったし。それに最低品質でも何かに使えるかもしれないね。」
悪い方ばかりに考えても仕方ない。
「その意気よ。そんなことよりあそこ、ボス部屋じゃないかしら。」
アルトの得意技である露骨な話逸らしが発動する。だけど指差された方向を見ても灯りの魔道具が照らすことのできる範囲の外なのか、とくにそれらしいものは見えない。
「私には何も見えませんが…」
「安心して。私もだから。」
もしや話を逸らすための嘘かと、じっとっとした目を向けているアニ。
「嘘じゃないわよ。あたしには見えてるわ!!」
そこまで言うならと指差された方向へ進んでいくと、ほんとにボス部屋の大きな扉があった。
「だから言ったじゃない!!」
得意げなアルト。
「でも、どうしますか?この層のボスは恐らく強敵だと思いますが…」
「そんなこと言ったって行くしかないでしょう?」
そう言って今までと同じく扉を押すアルト。だけどなぜか扉はピクリとも動かない。
「おかしいわね。今まではすんなり開いていたのに…」
押してダメなら引いてみろとばかりに、扉の装飾であるわずかな突起に指をかけ、引っ張ってみるがやっぱりびくともしない。
「なるほどね。ボスが強くて先に進めないんじゃなくて、ボス部屋に入れなくて先に進めないってわけだ。」
ここにきて、私たちの進む道が重く大きな扉によって文字通り、閉ざされてしまった。
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