第二十六話 悪魔の案内人
「どうしたもんか…」
「やっぱり扉を開けるためのギミックがどこかにあるのでしょうか…」
「今までの層になかったものがここにきていきなり現れるのは考えにくいんじゃないかしら。もしそんなギミックがあるなら、今までに来たほかの冒険者が見つけてるはずよ。」
「それに鍵がかかってて開かないっていう感じじゃないんだよね。」
普通の扉なら鍵がかかっていたとしても、ガチャガチャと少しは動く。だけどこの大扉は完全に溶接されてるみたいに全く動かない。
「そうだ。一度アルトが、精霊の身体に戻って中を調べてきてよ。実態が無いなら壁抜けだってできるでしょ?」
我ながら言い考えだと。
「いい考えね。もしかしたら中から開けるかもしれないし。」
そう言うとアルトは目を閉じた。次の瞬間、頭からアルトの本体である小さな身体が飛び出してきた。
『じゃあ、ちょっと見てくるわ!!』
今度はテレパシーでそう言ってそのまま扉を抜けてボス部屋の中へ入っていった。
「なら私たちはこの周りを調べてみようか。扉を開ける仕掛けがあるかもしれないし。」
「そうですね。」
扉から付かず離れずその辺をうろうろすること数分、私たちが新しい発見をする前にアルトからテレパシーが飛んでくる。
『開いたわよ!!』
なんとほんとに開けられたらしい。実はそこまで期待してなかったからびっくりだ。私とアニは踵を返してボス部屋の前まで戻る。そこまで離れていたわけでもないからすぐに戻ることができた。
「中はどんな様子でした?」
アルトはすでに肉体に戻っているみたいだ。
「それが真っ暗でほとんど何も見えなかったのよ。唯一見えたのは扉の周りだけね。そこだけ、わずかに光源があったわ。そこにレバーがあってね。それを下ろしたら扉が開いたってわけ。」
「となると、この層を突破させる気はなかったってことでしょうか…」
内側からしか開けられない扉となると、外部からの侵攻者には基本的に開けることはできないからそういうことだろうね。
「それか、ほかに扉を開ける方法があるかどちらかね。まあ考えていても仕方ないわ。とにかく中に入りましょう。」
私たちはすでに開かれた扉の先の暗闇へ足を踏み入れる。その瞬間、ほかのボス部屋と同じように部屋の中は光で包まれた。しかしクリアになった視界の中に魔物の姿はなかった。扉には、タグを嵌め込む穴はちゃんとあったからボスがいないなんてことはないと思うんだけど…
「なにもいませんね…」
「さっき中をのぞいた時、一応魔力探知で確認したわ。だけどその時も特に反応はなかった。私はてっきり、扉をちゃんと開いてボス部屋に入らなければ、ボスが出てこない仕組みなのかと思ったんだけど…」
とその時、私の背筋にぞくりとした悪寒が走り渡った。
「あら、外から開かれるはずのない扉が開いたからと様子を見に来てみたら、たった三人の子供じゃない。いや、二人と一匹か…」
突然私たちの背後に現れた女。黒いワンピースを着て、ひどく妖艶な、それでいて濃密な負の気配を纏っている。これはそう、きっと死の気配。
「なるほど。実体のない精霊だからこの部屋には入れたってわけね。」
アルトを一瞥し、そう続ける。
「アンタ、デーモンね。」
アルトが重苦しく目の前の女――デーモンに向けてそう問う。
「確かに私はデーモンだけど、そこらの有象無象のデーモンと一緒にしないでほしいわね。」
先日、冒険者ギルドの試験で出会ったデーモン――アグニと目の前のこいつが同じデーモンだとは思えない。身にまとう負の気配、魔力の量もけた違いだ。空気中から魔力が供給される私の魔力量を、体内に内包する魔力だけで軽く超えてしまっている。
「あなたがボスってことでいいの?」
正直戦って勝てる気がしない。私の最強の攻撃魔法である爆撃魔法も簡単に防がれてしまうだろう。
「そういう形でここに配置されていたのは間違いないけれど、私、別にあなたたちと戦う気はないわよ。」
あれ、なんだか拍子抜けである。
「あなたはこの部屋を守るためにいるのではないですか?」
戦う気はないと聞いて少し安心した様子のアニが口を開く。
「私の役割は、守護者ではなく案内係。人間たちがダンジョンと呼ぶこの施設の管理者である、我が主のもとへ。」
「なら初めから出てきてくれればよかったのに…」
このダンジョンのトップならきっと質のいい魔力炉を持っているはずだ。もし初めからこのデーモンが現れてくれればだいぶ時短になったのに…
「それだとここまでの道のりの意味が無くなる。ここまでの道のりは選別。有象無象を排除し、この層の扉を開くことができるものを探すためのね。」
「この扉は外側からは開けないって言ってなかったっけ?」
「確かにそう言ったわ。だけどある特殊なクラスを持つ者には開くことができる。あなたたちは少しイレギュラーな開き方をしたけど、まあそのクラスを持っていることには間違いないし、問題ないでしょう。」
私達、三人の中で特殊なクラスを持っているのは私だけ。アルトも特殊と言えなくもないけど、特殊なクラスではなく、特殊な生物って感じだ。
「この娘が聖女であることが関係してるってわけね。」
まさかこんな場所でも聖女であるせいである意味トラブルに巻き込まれるとは思わなかった。それに、いつの間にか鑑定を使われている。そうでなければ私が聖女だとわかるはずがない。
「そうよ。我が主は聖女を待っている。先代の聖女が亡くなってからずっと…三百年間、待ち続けている。」
「アンタの主人っていうのは人間じゃないみたいね。三百年も生きるっていうならあたしやアンタのように精神生命体だと思うけど。」
「会ってみればわかるわよ。心配しなくても、我が主もあなたたちと敵対しようとは思っていない。悪いようにはしないわ。」
この場で私たちにとれる選択肢は一つだけ。それはYESだ。断った瞬間、この女デーモンは私たちに牙を剥くかもしれない。それにここに来た本来の目的を果たすこともできていない。
「行くよ。」
アニと、アルトもそのことが分かっているのか反対はしなかった。
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