第二十四話 ダンジョン攻略一層目

 ついに私たちはダンジョンに足を踏み入れた。少し歩くと入り口からの光も届かなくなり、真っ暗になってしまったため灯りの魔道具をつけた。周りを見てみると光が反射して壁面がほのかに青く光っている。

「きれい…」

幻想的な風景に思わずそんな声が漏れた。この時、私の中からはここが生還率10パーセントの死の洞窟だということはすっかり零れ落ちてしまった。

「この光が青のダンジョンと呼ばれる由来ね。この岩壁に含まれる魔力が光を反射しているの。そもそも灯りの魔道具自体が魔力で出来た光を放つものだから、よけいきれいに見えるのかもね。」

さすが雑学王アルトである。

「アルト様はこのダンジョンに来たことがあるのですか?」

「随分前に一度だけね。といっても入ってすぐに出てしまったから、ちゃんと入るのは今回が初めてよ。」

 アルトの過去には少し興味があるけど、あまり聞いてほしくないみたいだ。いつか自分から話してくれるのを待とうと思ってる。

 そんな雑談をしながら、度々出てくる、蝙蝠やら蛇やら蜘蛛やらの魔物を倒しつつ奥に進んでいく。中は迷路みたいになってるって聞いてたけど、一層目はそんなことはなく、分かりやすい一本道だ。これなら、今後のためと地図を描く必要もない。そうだ!どうせならゲームみたいに自動で地図を書いてくれる魔法でも創ろう。イメージとしては私が歩いてきた道とか地形の記憶をそのまま地図として紙に書き起こす感じでいこう。早速収納魔法から羊皮紙を取り出して、作った魔法を試してみる。

「マッピング!!」

いきなり大声を出したからちょっと驚いている二人を横目で見ながら私は地図が浮かび上がっていく様を眺めていた。

「いきなり大声を出して、びっくりするじゃない!!」

「新しい魔法を創ったんだよ。その名もマッピング魔法!!」

「どんな魔法なんですか?」

「地図を自動で描いてくれる魔法。私が通ってきた、道や地形を書き起こしてくれるんだよ。この赤い丸が私たちがいる位置ね。」

緑色に光る線で描かれた地図が完成した。といってもダンジョンの中の地図だから一本道だけど。私たちが現在いる場所もちゃんと赤い丸で示されている。地図アプリを再現したわけだ。一枚の紙に収めるためサイズがどんどん小さくなっていくと思うけど、そこは私の魔法なわけで、私の意思を反映して、見たい場所に書き換わってくれる優れものだ。

「これ、複製はできないの?自分たちがいる場所までわかる地図なんて、爆売れよ!!」

すぐお金の話になるアルトさん。

「複製したところで、時間が経てば地図自体が消えちゃうから無理だよ。私が一々魔法を発動し直さないといけないし。」

 一応、無くしても大丈夫なように対策はしたのである。

「でしたら、普通のインクで地図を書き写せばいいのでは?自分のいる位置は分からなくなりますが、Aランク冒険者が販売する、正確なダンジョンの地図ってだけで飛ぶように売れると思いますよ。」

「それよ!!」

「アルトが書き写すならいいよ。」

この世界にはコピー機もパソコンもないのだから手作業ということになる。それはさすがに面倒くさい。適当に依頼をこなしてた方がコスパがいいと思う。

「ま、まあ考えとくわ…」

これは絶対にやらないやつだ。

 そこから出てくる魔物を倒しながら、しばらく歩いていると目の前に大きな扉が見えてきた。ここまで2時間ってとこだね。

「どうやらここがボス部屋みたいですね。」

神妙な顔つきをしたアニがそうつぶやいた。

「やっぱりここまでお宝と呼べるものはなかったわね。」

「取りつくされてるって言ってたし。未踏破の階層までいかなきゃダメかもね。」

ここまで来て得たものと言えばマッピング魔法と魔物を倒すことで、アニの魔法の習熟度が上がったくらいだ。

「じゃ、さっさとボスを倒して次の層へ行くわよ!!」

その声とともに私たちは大きな扉へと足を進めた。




中へ入ると、周囲が勝手に明るくなる。どうやら灯りの魔道具が取り付けられた親切設計みたいだ。

「あれがボス?ただのゴブリンじゃない。」

そう言われ、視線を向けるとそこにいたのは緑色の肌をした体長1メートルくらいの人型の魔物。手には棍棒を持っている。

「想像通りのゴブリンだ。」

前世の創作上でよく登場するゴブリンの姿そのままだ。やっぱりこの世界と前世の世界は交流があったんじゃないかな。

「まあ、いいや。倒さないと先に行けないし。」

そう言って私は爆撃魔法を放った。一瞬で消し炭だ。

「容赦ないですね…」

いつものようにアニはちょっと引いている。なんだかその視線が癖になりそうだ。そんなことを考えているとゴブリンがいた場所に光の粒が集まってきている。まさかもう復活?

「カランコロン」

光の粒子が消えるとそんな音がボス部屋内に響いた。近づいて拾い上げてみると、おそらく銅でできていると思われる、三センチほどの楕円形をしたプレートだった。

「これがさっき言ってたタグってやつね。一応持って帰ったら?」

「そうだね。」

タグを収納魔法に放り込む。

「次の層に行くにはどうしたらいいんでしょうか。」

部屋の中を見てまわっていたアニがそんなことを言う。

「階段とか無い?」

階層構造だから上か下に進む道があるはずなんだけど…。

「見当たりませんね。もしかしたら、この部屋とは別の場所にあるのかもしれません。」

「それだとボス部屋の意味が無いでしょ。ボス倒さなくても次の層に進めることになるし。」

三人して頭を悩ませていても仕方がないととりあえずボス部屋を出ることにした。戻ってきたらまたゴブリンが復活してるかもだけど、最悪倒せばいい。

 三人揃ってボス部屋を出ると勝手に扉が閉じてしまった。

「ここまで一本道でしたし、ほかに行ける場所はないと思うのですが…」

考え込んでいるアニ。私はボス部屋の扉を観察してみることにした。なんてったってほかに調べる場所がない。灯りを近づけてよく見てみると、いかにもって感じの溝を発見。さっき手に入れたタグをはめてみると、ボス部屋の中で何かが動くゴゴゴといった音がした。

「さすがね。」

一連の行動を見ていたらしいアルトからそう声を掛けられる。

「何をしたんですか?」

アニも気になってるみたいだ。

「この溝にさっきのタグをはめてみたんだよ。」

「なるほど。それで中の何かの仕掛けが動いたようですね。」

「みたいだね。開けるよ。」

そう言って扉を力いっぱい押してみる。見た目に反して随分軽い。

扉を開くとそこはさっきまであったはずのボス部屋ではなく、下へ続く階段へ変化していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る